上 下
11 / 201

11、はじめてのおくりものが僕を苦しめる

しおりを挟む
 雀士の長城!RADIO
  パーソナリティ 渡部 愛蘭
  第4回 更新分 《ネーミングセンター》のコーナーより抜粋

  渡部「はいっ。このコーナーはー、アニメ 雀士の長城!の主人公 アリッサが、自動式雀卓には《視力回復フィールド MIDORI》、ダイヤル式黒電話には《ジゴロ・ジゴロ》と、何にでも勝手に名前を付けるという設定から、わたくしワタベが名前を付けてほしいものをリスナーさんから集い、命名するコーナーでーす。はい、もおー、よくあるコーナーですね(笑)すげーよくあるコーナーですね。ねー、作家ー」
  作家「(笑)」
  渡部「たぶんもう色んなラジオパーソナリティさんとか、声優さんとかがやりまくってきたようなコーナーだと思うんですが(笑)安直過ぎるよ作家さん。はい、じゃあもうメール行きまーす。一通目。えー、ジャンガリアンネーム プラモンスターくん。『ワタさん、こんばんじゃーん』はい、こんばんじゃーん。
 『今回名前をつけてほしいのは、ロープレに出てくるガテン系の仲間です。主に剣士や格闘家など
 の職業に付いている、あのいかついやつです。魔法使いや踊り子などは頼りになるし、目の保養にもなりますが、いかついやつは頼りにはなりますが苦手です。筋肉ムキムキなやつです』
ああ、あれ?文系の人は、我らのような文系人間は体育会系人間のノリが苦手、みたいな?」
  作家「(笑)」
  渡部「えーと、じゃあ《ガテ子》で。あっ、違う(笑)」
  作家「(笑)」
  渡部「えー、(エコー)プラモンスターくんが仲間にする、でもちょっと苦手ないかついアイツの名前は、」
  (ドラムロール音)ダラララララッ、ダンッ!
  渡部「《ガテ子》ですっ!」
  ♪軽快なファンファーレ
 渡部「いかつい男子って思うからダメなんだよ。ちょっとマッチョな頼れる女の子だと思えば。ねっ。はい、次のメール。…このコーナーこれでいいのかな(笑)」
  作家「(笑)」
  渡部「ジャンガリアンネーム 土鍋奉行くんから『私が名前を付けてほしいのは』ああ、これ女の子ちゃんからのメールか。
 『私が名前を付けてほしいのは、ドアノブカバーです。先日ドアノブが発掘されたのですが、今住んでいる家はドアがすべてレバー式なので使えません。頭をお団子にもしません。このドアノブに、名前と次の所属先を斡旋してあげてください』
ドアノブカバーかあ…。んー、これお団子って書いてあるけど、お団子頭になんか、かぶせるやつ?ヘアアクセ?とドアノブって一緒?」
  作家「(笑いながら首を振る)」
  渡部「違うよね(笑)あの中国娘ちゃんみたいのがお団子にかぶせるやつドアノブカバーだったらやだよね(笑)えー、でもドアノブって最近あの回転式のやつあんまり見ないよね。こう、手首ひねるから、お年寄りだと力が逃げちゃって開けにくいから?公園のトイレとかはあれだった気がする。あっ!じゃあ、斡旋先は公園のトイレで」
  作家「(笑)」
  渡部「ねっ、いいでしょなんか、ワーッて焦ってトイレ入ってふうってして出ようとしたら、ハッ、さっきは気付かなかったけど、ドアノブにお花柄のカバーが!みたいな。わかんないですけどカバーがお花柄なのか、チェック柄なのか、ハンバーガー柄なのか(笑)…あっ、今、作家さんから《誰かに盗られない?》って。もおー、そういうねえ、世の中には悪い人しかいないみたいな考えダメっすよ!先輩ダメすっよ!先輩、自分悲しいっス!先輩の根っからの性悪説自分悲しいっス!」
  作家「(笑)」
  渡部「いいじゃないですか別に。その人に盗られたとしても。その人のおうちでまたドアノブを死守するんですよノブ子も。あっ、名前(笑)」
  作家「(笑)」
  渡部「(笑)えー、ということで土鍋奉行くん、じゃない、土鍋奉行ちゃんのドアノブカバーの名前は、」
  (ドラムロール音)ダラララララッ、ダンッ!



  帆波零児の零児という名の由来。実に簡単だった。父親が男の子を欲しがっていたから。男の子の名前しか考えていなかったからだ。
  一人しか作る予定がないから、一がつく名前じゃなくて零。
  そんな理由でつけられた名前にどれほど傷付き、苦しめられたか。
  病院で、新学期の最初で、個人情報が漏れてどこかから送られてきた通信教育のお誘いハガキ付きお誕生日カードで。決まって零児くんと呼ばれた。
  同級生の男の子からはそんな名前ってことはお前ホントは男だろうと言われ、うっかり髪を切りすぎた時にはやはりと思われ、見られた。

  いやだいやだいやだ。

  朝礼での表彰の時もそうだった。
  全校生徒の前で零児くんと呼ばれ出てきた女生徒を見て、生徒達が間違えられたとクスクス笑わられる。
  他人の表彰なんて興味ない。そんなのいいから朝礼なんて早く終わってほしい。
  だからちょっとの面白いことに中学生は反応する。
  いい名前、かっこいいなんて評価はない。常にあるのはクスクス笑い。

  ラジオでもそうだ。
  ラジオで喋る女性声優は、女の子からのメールを殊更歓ぶ。
  女の子ちゃんからのメールだ、となんてことないメールを、特に面白くもないメールを嬉しそうに読む。
  なのに自分はその特権を与えられていない。
  名前だけで、本名だけで男だと思われた。
  その他大勢の、ラジオしか友達がいない男性リスナーにしか見られてなかった。
  女の子なのにこの子はこんなに面白いネタが書ける、零児はそう思われたかった。
  かといって一目で女の子だとわかるラジオネームを付けるなんて嫌だった。
  そして改めて本名を見て、こいつ男のくせに女みたいなラジオネーム付けて読まれようとしてやがったな、と思われるのも嫌だった。

  それは深夜の声優ラジオ番組で発信される、小さな自己顕示欲と過剰な自意識でしかない。
  だからいっそ、零児は名前を隠した。
  ラジオに送るメールにはラジオネームだけ、それだけを書いた。
  名前の由来を聞かれた時も思いつきで話してきた。
  脳内でストーリーを組みたてながら喋った。

  そのすべてを笑い話にした。

  笑い話にしたかった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

不完全防水

BL / 完結 24h.ポイント:319pt お気に入り:1

いたくないっ!

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:660pt お気に入り:713

こころ・ぽかぽか 〜お金以外の僕の価値〜

BL / 連載中 24h.ポイント:944pt お気に入り:783

罰ゲームで告白した子を本気で好きになってしまった。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:347pt お気に入り:104

マジカル☆パステル

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:7

親友彼氏―親友と付き合う俺らの話。

BL / 完結 24h.ポイント:525pt お気に入り:20

孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話

BL / 連載中 24h.ポイント:60,649pt お気に入り:3,761

出雲死柏手

エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:710pt お気に入り:3

処理中です...