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15、まずお互いの呼び方を決めましょう
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「…あ、れ」
響季が目を覚ましたのは、献結ルームの休憩スペースだった。
白い天井。程よく効いた空調。
壁に貼られた献結の萌えイメージキャラクター 結伊ちゃんのポスター。
確か最近ショートアニメも作られたらしい。声優はなぜか非公開だった。
どうやら自分は休憩スペースのソファに寝かされているということを響季が理解し、まだぼんやりとしている五感を呼び覚ます。
まず額に、濡れた冷たい感触。
手をやり、濡れた物体を掴む。
物体の正体は水で濡らして二つ折りにされた結伊ちゃんのミニタオルだった。
視界がぼやける。寝起きだからではない。
顔に触れると眼鏡が無かった。寝かされた時に誰かに外してもらったか。
そして、すぐ近くで女の子の匂いがした。
匂いの方に視線を向けると、頭の先に零児が座り、響季を、空調よりも冷ややかな目で見ていた。
「零ちゃん」
名前を呼ばれても冷ややかなアーモンドアイを向けるだけで返事もしない。
「もしかして、あたしが目ぇ覚ますの待っててくれた?」
零児は返事をしない。
「ごめんね、なんか。帰っていいっつったり、待ってって言ったり。頭に酸素回んなくてさ、とっちらかっちゃったよ」
零児はじっと見ているだけだった。
「…あたし響季、よろしくね」
改めて自己紹介をする響季が、握手をしようと寝たまま手を差しだすが、
「『ラジオネーム 三年連続雨天中止』」
零児はその手を掴まず、響季の前髪を鷲掴みにし、
「あれ、あなたでしょ」
「響季で、いいよ」
その手の中で響季の前髪が何本かぶちぶちと抜けた。それぐらいの怒りは致し方ないと響季は思った。
響季がやったことは騙りだ。ラジオのネタ職人としては最低な行為だ。
前髪を毟られようが、ソファから蹴落とされようが仕方ない。響季はそれだけのことをした。
痛みに顔を歪めただけの相手に、零児が眉をひそめる。
「そうだよ」
痛みを堪え、響季が真剣な表情で見てくる。その顔を見て零児はやっと手を放した。
「なんで」
「いやあ、気付いてくれるかなって」
勢いをつけて響季がソファから起き上がるが、
「あたしの想いびとちゃんに、さ」
目の焦点が合っていない。
「うわー、ごめん。まだ喋るのきつい…」
目の辺りを手で押さえながら響季が下を向く。一度大きく息を吸い、吐きだす。
「零ちゃん、もう献結したの?」
下を向いたまま響季がまた零ちゃん、と呼んだ。手紙の中でも呼んでいたので、音声で呼ばれてもあまり違和感がなかった。馴れ馴れしいと咎める気もなかった。
「した」
「休憩した?」
時計を見ると、なんだかんだで零児が献結をしてから30分が経っていた。
休憩という点ではもう充分だ。
「した」
「もう帰っちゃう?」
「…べつに」
あれだけ逃げたかったのに、なんだかソファに根が生えたように零児は動くのが億劫だった。
「そっか。じゃあもうちょいお話しようよ」
響季が目の辺りから手を放し、零児を見る。今度はちゃんと焦点が合っていた。
そしてソファから立ち上がり、
「なんか飲む?」
「いらない」
「そうっすか…。すいませーん、お水あります?」
響季が職員さんに呼び掛ける。
「響季ちゃんっ。起きて大丈夫っ?」
「なんとか。水あります?あと眼鏡が…」
「ああ、うん」
心配顔の職員さんが、パタパタとミネラルウォーターと紙コップと、響季の赤いアンダーリムの眼鏡を持ってきてくれた。
それらを受け取り、代わりに響季は結伊ちゃんのミニタオルをありがとうございましたと職員さんに返した。
響季が目を覚ましたのは、献結ルームの休憩スペースだった。
白い天井。程よく効いた空調。
壁に貼られた献結の萌えイメージキャラクター 結伊ちゃんのポスター。
確か最近ショートアニメも作られたらしい。声優はなぜか非公開だった。
どうやら自分は休憩スペースのソファに寝かされているということを響季が理解し、まだぼんやりとしている五感を呼び覚ます。
まず額に、濡れた冷たい感触。
手をやり、濡れた物体を掴む。
物体の正体は水で濡らして二つ折りにされた結伊ちゃんのミニタオルだった。
視界がぼやける。寝起きだからではない。
顔に触れると眼鏡が無かった。寝かされた時に誰かに外してもらったか。
そして、すぐ近くで女の子の匂いがした。
匂いの方に視線を向けると、頭の先に零児が座り、響季を、空調よりも冷ややかな目で見ていた。
「零ちゃん」
名前を呼ばれても冷ややかなアーモンドアイを向けるだけで返事もしない。
「もしかして、あたしが目ぇ覚ますの待っててくれた?」
零児は返事をしない。
「ごめんね、なんか。帰っていいっつったり、待ってって言ったり。頭に酸素回んなくてさ、とっちらかっちゃったよ」
零児はじっと見ているだけだった。
「…あたし響季、よろしくね」
改めて自己紹介をする響季が、握手をしようと寝たまま手を差しだすが、
「『ラジオネーム 三年連続雨天中止』」
零児はその手を掴まず、響季の前髪を鷲掴みにし、
「あれ、あなたでしょ」
「響季で、いいよ」
その手の中で響季の前髪が何本かぶちぶちと抜けた。それぐらいの怒りは致し方ないと響季は思った。
響季がやったことは騙りだ。ラジオのネタ職人としては最低な行為だ。
前髪を毟られようが、ソファから蹴落とされようが仕方ない。響季はそれだけのことをした。
痛みに顔を歪めただけの相手に、零児が眉をひそめる。
「そうだよ」
痛みを堪え、響季が真剣な表情で見てくる。その顔を見て零児はやっと手を放した。
「なんで」
「いやあ、気付いてくれるかなって」
勢いをつけて響季がソファから起き上がるが、
「あたしの想いびとちゃんに、さ」
目の焦点が合っていない。
「うわー、ごめん。まだ喋るのきつい…」
目の辺りを手で押さえながら響季が下を向く。一度大きく息を吸い、吐きだす。
「零ちゃん、もう献結したの?」
下を向いたまま響季がまた零ちゃん、と呼んだ。手紙の中でも呼んでいたので、音声で呼ばれてもあまり違和感がなかった。馴れ馴れしいと咎める気もなかった。
「した」
「休憩した?」
時計を見ると、なんだかんだで零児が献結をしてから30分が経っていた。
休憩という点ではもう充分だ。
「した」
「もう帰っちゃう?」
「…べつに」
あれだけ逃げたかったのに、なんだかソファに根が生えたように零児は動くのが億劫だった。
「そっか。じゃあもうちょいお話しようよ」
響季が目の辺りから手を放し、零児を見る。今度はちゃんと焦点が合っていた。
そしてソファから立ち上がり、
「なんか飲む?」
「いらない」
「そうっすか…。すいませーん、お水あります?」
響季が職員さんに呼び掛ける。
「響季ちゃんっ。起きて大丈夫っ?」
「なんとか。水あります?あと眼鏡が…」
「ああ、うん」
心配顔の職員さんが、パタパタとミネラルウォーターと紙コップと、響季の赤いアンダーリムの眼鏡を持ってきてくれた。
それらを受け取り、代わりに響季は結伊ちゃんのミニタオルをありがとうございましたと職員さんに返した。
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