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これより洗礼の儀を執り行う
18、セラトナカ回収作戦
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「響季。折り入って頼みがある」
「なんだい兄弟。水くせえな」
登校した響季が自分の教室へ入ると、柿内君が芝居がかった言い方で話しかけてきた。
朝イチコントは億劫だが、せっかくなのでこちらも合わせると、
「これを」
柿内君は四つ折りにした紙を中指と人差し指で挟んで渡してきた。
「何これ。兄弟が初めて書いたラップのリリック?」
「違う」
「YO!YO!セイホー!問われて名乗るもおこがましいがー、お前の頭をブレイキンシェーカー。十四の歳からジューシージューシーなにこれ」
紙を開きながら適当なラップを口ずさんでいたが、響季はすぐにそこに書かれた内容に目を奪われる。
パソコンでプリントアウトしたらしいそれは、
「文屋真希、のポスター?が貰えるの?献結すると」
いま献結をしてくれた人には人気声優のポスターをプレゼント!というお知らせだった。
「また随分マニアックだねえ。普通にアイドルとかにすればいいのに」
「転売ヤーが多いんだろ。それだと問題があるし、ホントに人気があってかつマニアック、ぐらいの方が呼び込めるんだと思う。声優ポスターだって転売するやついそうだけど。ただ、場所が」
「あらあら」
見るとキャンペーンの開催地区が限られている。
響季達の地元では該当せず、上り電車に一時間ほど乗らなければならない。
「しかも俺様はバージョン違いで二枚欲しい」
そう言って柿内君がすちゃっ、と揃えた中指と人差し指を額の辺りに持ってくる。
お一人様一枚しか貰えないポスターを二枚欲しいということは、響季以外に誰か献結出来る人を連れていかなければならない。
それもこんな面倒くさそうで楽しそうなイベントに乗っかってくれそうな人を。
「また遠征ぃ?この前も行ったのにぃー」
そううんざりした口調で響季が言う。顔と態度だけは愉しそうに。
「ニパターンって…、へえー、ブラッディの人はエロ女教師バージョンしか貰えないけどムスビーの人は二種類貰えるんだ」
ポスターは二種類、献血バージョンと献結バージョンがあった。
「なんであたし達だけ優遇されてんの?」
「それだけムスビーする中高生が少ないんだろ」
「ああ、そっか」
どうぞこの期間に初献結を、あるいは何度も献結してください中高生様、ということなのだろう。
血の方は《知ってますか?献血のいいコト。》と女教師風の文屋真希が黒板の前に立ち、献血について講義しているポスターだった。
黒板には、
:血液検査の結果を後日送付します。
:有名アーティストによる啓蒙ライブ開催
:謝礼をプレゼント
:回数に応じて謝礼ジャンプアップ
などの美味しい文句が書かれているが、
:献血をする前にはきちんと食事を摂って
:開始可能年齢、可能体重をご確認の上
:一回やったら期間をおいてください
などの制約も書いてある。
結の方は、《TB生成資格ありと出たら献結にご協力を》という文字とともに、こちらは女医風の文屋真希がホワイトボードで献結の重要性を説明してくれていた。
こちらも美味しい文句の他に、
:放っておくと無気力、無軌道な若者に
:採取した成分は青年、壮年層の支えに
:社会の基盤を形作ります
など、献結を促すような文句が書かれている。
「ポスター可愛いね」
それらを見比べ、響季が女子高生らしい感想を述べる。
文屋真希は身長があり、ショートカットでシュッとした体型なのでコスプレが絵になる。
茶化してエロとは言ってみたが、ポスターからはスタイリッシュささえ伺えた。
「っていうかカッキー、文屋真希好きだっけ」
「いや、なんだかオシャンティなので」
「あらそう」
こんなオシャレ推進ポスターが欲しいという我が親友は、女性声優を健全な男子高校生とは少し違う目線で見ているのかと響季は納得する。だが、そんなことより、
「あ、TB。うわ見えん」
結のポスターにはTB成分の意味がかっこ書きで書いてあったが、印刷した紙が小さいため潰れて見えない。
いまだにTB成分が何の略か覚えられない響季は知りたかったのだが。
「TBってなんの略?」
「そっちのが詳しいだろ」
柿内君に訊いてみたものの、もっともなことを言われた。
「いやあ、前に何度か聞いたんですけど長ったらしくて覚えらんなくて」
てっへへー、と響季が昭和リアクションで頭を掻いてみせると、
「れーじ君に訊いてみれば」
「えっ?」
そう言った柿内君の目は、何か言葉以上のことを訴えていた。
TBとは何の略でしょう。
それはまるで、大喜利のお題を出す師匠のような目をしていた。
「そう、だね。そうだそうだ、訊いてみよう」
こちらも口許にワクワクの笑みを浮かべながら、響季が素早くメールを打つ。
しばし待たれよと響季は自分の席に、柿内君も近くの適当な席に座るが、
「わっ」
返信はすぐに来た。
「なんだって?」
訊きながら柿内君はわざわざ持っていたペットボトルのお茶を口に含む。
これで準備OKだ。
そこまで待って響季が送られてきたメールを読み上げる。
「『ところてんバリューセット』だって」
それを聞いた柿内君の頬が一瞬ぶぐと膨らむが、どうにか持ちこたえた。
吹き出すまでの笑いには至らなかったらしい。
「うーん。…まあまあかな」
響季が呟く。
もっと爆発的なボケが来るかと思ったのだが。
朝から突然の大喜利ならこんなものか、期待し過ぎたかと少々残念がっていると、
「けっへ。ちょっど待で」
無理やりお茶を飲み下し、咳き込みながら柿内君が言う。
「なに?」
「バリューセットはVだぞ」
「……え」
「Bじゃない」
サワつく朝の教室、響季達二人だけの間に沈黙が降りる。
「どゆこと」
「ボケか、あるいは天然か」
前者ならツッこまなくてはボケ殺しになるが、もしも後者なら。
「送れ!すぐメール送れッ!」
「はいっ」
親友に急かされ響季がメールを打つ。
《バリューってVだけど》と。
今回の返信には少しだけ時間がかかった。
「なんか軽自動車をみんなで担ぐ奴。♪ソレソレー、フッワフッワ!オイ!オイ!イエスイエス!みたいな」
「なんだそれ。力士かなんかがワッショイワッショイって?」
「いやあー、当時の若者?たぶん、バブル期に流れてたんだと思う」
「若者って頭がトサカみたいなチャンネーと肩パット過多の男とかか?」
「そうじゃなくて。普通の若者が」
「浮かれてんな」
「バブルだし。たぶん」
響季が柿内君と共に、家にあるビデオテープで見たという曖昧な記憶で懐かCMについて話し、プロファイリングしていると、
「あ、来た」
零児からメールが返ってきた。
返ってきたメールにはたった一言、
《知ってたもん。》
とあった。
「うわああ!柿内君何!?」
柿内君は今度こそお茶を吹き出した。
自分の中の萌えあがる思いで。
そして近くにいたクラスの女子がびっくりする。
その横で、響季はこのメールは保存しておこうと決めた。
「なんだい兄弟。水くせえな」
登校した響季が自分の教室へ入ると、柿内君が芝居がかった言い方で話しかけてきた。
朝イチコントは億劫だが、せっかくなのでこちらも合わせると、
「これを」
柿内君は四つ折りにした紙を中指と人差し指で挟んで渡してきた。
「何これ。兄弟が初めて書いたラップのリリック?」
「違う」
「YO!YO!セイホー!問われて名乗るもおこがましいがー、お前の頭をブレイキンシェーカー。十四の歳からジューシージューシーなにこれ」
紙を開きながら適当なラップを口ずさんでいたが、響季はすぐにそこに書かれた内容に目を奪われる。
パソコンでプリントアウトしたらしいそれは、
「文屋真希、のポスター?が貰えるの?献結すると」
いま献結をしてくれた人には人気声優のポスターをプレゼント!というお知らせだった。
「また随分マニアックだねえ。普通にアイドルとかにすればいいのに」
「転売ヤーが多いんだろ。それだと問題があるし、ホントに人気があってかつマニアック、ぐらいの方が呼び込めるんだと思う。声優ポスターだって転売するやついそうだけど。ただ、場所が」
「あらあら」
見るとキャンペーンの開催地区が限られている。
響季達の地元では該当せず、上り電車に一時間ほど乗らなければならない。
「しかも俺様はバージョン違いで二枚欲しい」
そう言って柿内君がすちゃっ、と揃えた中指と人差し指を額の辺りに持ってくる。
お一人様一枚しか貰えないポスターを二枚欲しいということは、響季以外に誰か献結出来る人を連れていかなければならない。
それもこんな面倒くさそうで楽しそうなイベントに乗っかってくれそうな人を。
「また遠征ぃ?この前も行ったのにぃー」
そううんざりした口調で響季が言う。顔と態度だけは愉しそうに。
「ニパターンって…、へえー、ブラッディの人はエロ女教師バージョンしか貰えないけどムスビーの人は二種類貰えるんだ」
ポスターは二種類、献血バージョンと献結バージョンがあった。
「なんであたし達だけ優遇されてんの?」
「それだけムスビーする中高生が少ないんだろ」
「ああ、そっか」
どうぞこの期間に初献結を、あるいは何度も献結してください中高生様、ということなのだろう。
血の方は《知ってますか?献血のいいコト。》と女教師風の文屋真希が黒板の前に立ち、献血について講義しているポスターだった。
黒板には、
:血液検査の結果を後日送付します。
:有名アーティストによる啓蒙ライブ開催
:謝礼をプレゼント
:回数に応じて謝礼ジャンプアップ
などの美味しい文句が書かれているが、
:献血をする前にはきちんと食事を摂って
:開始可能年齢、可能体重をご確認の上
:一回やったら期間をおいてください
などの制約も書いてある。
結の方は、《TB生成資格ありと出たら献結にご協力を》という文字とともに、こちらは女医風の文屋真希がホワイトボードで献結の重要性を説明してくれていた。
こちらも美味しい文句の他に、
:放っておくと無気力、無軌道な若者に
:採取した成分は青年、壮年層の支えに
:社会の基盤を形作ります
など、献結を促すような文句が書かれている。
「ポスター可愛いね」
それらを見比べ、響季が女子高生らしい感想を述べる。
文屋真希は身長があり、ショートカットでシュッとした体型なのでコスプレが絵になる。
茶化してエロとは言ってみたが、ポスターからはスタイリッシュささえ伺えた。
「っていうかカッキー、文屋真希好きだっけ」
「いや、なんだかオシャンティなので」
「あらそう」
こんなオシャレ推進ポスターが欲しいという我が親友は、女性声優を健全な男子高校生とは少し違う目線で見ているのかと響季は納得する。だが、そんなことより、
「あ、TB。うわ見えん」
結のポスターにはTB成分の意味がかっこ書きで書いてあったが、印刷した紙が小さいため潰れて見えない。
いまだにTB成分が何の略か覚えられない響季は知りたかったのだが。
「TBってなんの略?」
「そっちのが詳しいだろ」
柿内君に訊いてみたものの、もっともなことを言われた。
「いやあ、前に何度か聞いたんですけど長ったらしくて覚えらんなくて」
てっへへー、と響季が昭和リアクションで頭を掻いてみせると、
「れーじ君に訊いてみれば」
「えっ?」
そう言った柿内君の目は、何か言葉以上のことを訴えていた。
TBとは何の略でしょう。
それはまるで、大喜利のお題を出す師匠のような目をしていた。
「そう、だね。そうだそうだ、訊いてみよう」
こちらも口許にワクワクの笑みを浮かべながら、響季が素早くメールを打つ。
しばし待たれよと響季は自分の席に、柿内君も近くの適当な席に座るが、
「わっ」
返信はすぐに来た。
「なんだって?」
訊きながら柿内君はわざわざ持っていたペットボトルのお茶を口に含む。
これで準備OKだ。
そこまで待って響季が送られてきたメールを読み上げる。
「『ところてんバリューセット』だって」
それを聞いた柿内君の頬が一瞬ぶぐと膨らむが、どうにか持ちこたえた。
吹き出すまでの笑いには至らなかったらしい。
「うーん。…まあまあかな」
響季が呟く。
もっと爆発的なボケが来るかと思ったのだが。
朝から突然の大喜利ならこんなものか、期待し過ぎたかと少々残念がっていると、
「けっへ。ちょっど待で」
無理やりお茶を飲み下し、咳き込みながら柿内君が言う。
「なに?」
「バリューセットはVだぞ」
「……え」
「Bじゃない」
サワつく朝の教室、響季達二人だけの間に沈黙が降りる。
「どゆこと」
「ボケか、あるいは天然か」
前者ならツッこまなくてはボケ殺しになるが、もしも後者なら。
「送れ!すぐメール送れッ!」
「はいっ」
親友に急かされ響季がメールを打つ。
《バリューってVだけど》と。
今回の返信には少しだけ時間がかかった。
「なんか軽自動車をみんなで担ぐ奴。♪ソレソレー、フッワフッワ!オイ!オイ!イエスイエス!みたいな」
「なんだそれ。力士かなんかがワッショイワッショイって?」
「いやあー、当時の若者?たぶん、バブル期に流れてたんだと思う」
「若者って頭がトサカみたいなチャンネーと肩パット過多の男とかか?」
「そうじゃなくて。普通の若者が」
「浮かれてんな」
「バブルだし。たぶん」
響季が柿内君と共に、家にあるビデオテープで見たという曖昧な記憶で懐かCMについて話し、プロファイリングしていると、
「あ、来た」
零児からメールが返ってきた。
返ってきたメールにはたった一言、
《知ってたもん。》
とあった。
「うわああ!柿内君何!?」
柿内君は今度こそお茶を吹き出した。
自分の中の萌えあがる思いで。
そして近くにいたクラスの女子がびっくりする。
その横で、響季はこのメールは保存しておこうと決めた。
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