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その声がいつも魂の叫びでありますように
けつばん《奥さん!R―12に相当しますよ奥さん!》
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録画した番組を早送りで消化し消去、一度見た番組でも残したい部分は編集して切り取る。
そんなことを繰り返していくうち、だいぶ残量が増えてきた。
「……疲れた」
一旦作業を止め、ふう、と息をついて起き上がると、響季は客人に淹れた紅茶を一口啜る。だが、
「寒い」
読書体勢のまま、顔だけこちらに向けた零児が眉を顰め、そう訴える。
起き上がったことで布団が捲れてしまっていた。
「あ、ごめん」
カップを置き、響季がまた布団に入るが、
「寒い」
「え?」
布団を直しても零児は尚もそう訴えた。
捲れたことで空気が入ってしまったかと、子供を寝かしつけるように響季が掛け布団を上からとんとんと手で抑えるが、
「寒い」
「ええっ?エア、コン、入れる?」
「暑い」
「ええー?」
零児は寒いか暑いしか言わない。要求がわからない。
わがままを言い、困らせようとしているのではないようだ。
しかし何かを訴えているようには見えた。
なんだと響季が必死に考えていると、零児は本を自分の横に置き、壁際に向けていた身体を仰向けにする。
手をバンザイするようにして。
まるで何かを迎え入れるように。
少なくとも、響季にはそう見えた。
肘をついて身体を起こすと、その頭に、ある情景が浮かんだ。
例えば遭難した雪山で。
そこでようやく見つけた雪小屋の中で、遭難した二人は互いの体温で身体を温め合う。
そんなチープな展開が。
ごきゅ、と響季が唾を飲み込む。
水分で喉を潤したばかりなのに、喉がカラカラだった。
ひょっとしたら自分の考えは間違っているかもしれない。
だがそうなら向こうが言ってくれるはずだ。
馬鹿か貴様、違うやろと。
自分の考えは合っている。もし間違っていたら向こうがいつものように正してくれる。
そう信じて、響季はまるで儀式のように眼鏡を外してテーブルの上に置くと、布団の中を移動して零児の身体に覆いかぶさるようにした。
そして出来るだけ体重をかけないように、真上から抱きしめた。
顔を耳の横辺りに逃し、ぴったり隙間なく抱きあうと、
「…あ」
今更気付いたように響季が声を出す。
上半身は服を着ているからいい。だが下半身は。
スカートを履いていないむき出しの太もも同士が触れる。
すべすべとして柔らかいそれを、響季は自分の両足で挟みこむようにした。内腿の柔らかい部分で。
「ん、ぐ」
カラカラの喉で無理やり唾を飲み込む。
相手と顔が重なり合わないようにしているため、自然と目の前に広がる黒髪の中に鼻先をつっこむことになるが、
「ふ、は」
そこからは、目の眩むようないい香りがした。
呼吸を乱すな、変に思われるぞと自分に言い聞かせてもどうにもならない。その香りをもっと肺で満たしたくて仕方なくなる。
「んっ、ふ。ううっ?」
どうにも自分が保てず、目を瞑ったまま響季が少し身体を離そうとすると、逆に下から伸びた手に引き寄せられた。そしてうりうりと頬擦りをされた。
「あ、あ」
見た目以上に柔らかく冷たい頬に、響季の熱い頬が蹂躙される。
熱を吸い取ってくれるような心地よさに思わず声が出るが、
「あぅ」
逃げようとすると今度は熱を持った耳が相手の冷たい耳と擦れる。
「は、あ」
もっと触れ合いたい、でもこれでもう充分だという欲求と充足感が均衡しあう。
そこにこれ以上は危険だという想いが第三勢力として押し寄せてくる。
ぎゅうと縮んだようになっている心臓が、暴れるようにどぐどぐと五月蝿かった。
沸騰しそうな血液が、心臓と脳に注がれる。
冷静な判断が出来なくなりそうになる。
それはおそらく、初めてする無理な体勢にだ。
でなければおかしい。
友達と暖を取るために布団の中に入り、暖房嫌いな友達のために身体を使って温め合っているだけ。ただそれだけだ。
元来触れ合うのが好きな女の子なら、女の子同士ならなんてことはないコミュニケーション。
キャッキャとウフフにごろごろとヌクヌクが追加されただけだ。
そう響季は自分に言い聞かせた。
ドキドキするのはおかしいと。
理性が崩壊しそうになるのはおかしいと。
「あったかい?」
乾いた声で、抱きしめたまま訊くと、零児が小さく頷く。
それだけで、響季は心臓そのものを掴まれたような気になる。
身体が沈み込み、零児と融け合うような気持ちになる。
そして、気づけばこちらから一方的に抱きしめるという行為から、背中に手を回され、抱きしめ合っていたことに戸惑っていた。
だが零児の手は背中から徐々に下の方へと下がっていき、
「今日どんなパンツ穿いてんの?」
変質者風のグフフ声にするでもなく、いつものトーンでそんなことを訊いてきた。
まるで世間話でもするように。
「どんな、だっけ」
「覚えてないの?」
れいちゃんは?と訊こうとし、下半身は遮る布が下着しかないことに響季が気付く。
そしてその下着同士が触れ合っていた。
自分は、自分達はなにかとんでもないことをしているのではないかと響季が狼狽えていると、
「わっ、あ」
突然おしりを触られた。
しかしそれは生地に包まれた柔らかさを堪能するのではなく、生地の素材を確かめるようにだった。
さらさらと表面を触り、生地を摘んで引っ張られ、
「綿ひゃくぱー」
「そう、だね」
訊かれたことに肯定する。確かにそうだった。
よほどデザインにこだわりがなければ、響季が普段買う下着は綿100%だった。
そんな普段は意識しないことを再確認していると、手はおしり部分から上へと移動し、
「あ」
響季が声を上げる。
零児が幅広のウエストゴムを発見した。
それも何度か摘んでひっぱり、伸縮具合を調べる。
伸び縮みする幅広ゴムがぺち、ぺちと肌を叩き、なんだこれは、一風変わったえすえむというものではないのかと響季が真っ白な頭で考えていると、
「ボクサー?」
「あ…、そうだ。今日ボクサーパンツ」
そう指摘されて気付く。確かに今日穿いていたのはローライズのユニセックスボクサーパンツだった。
デザインが可愛いく、安売りしていたのでオシャレ雑貨屋で買ったものだが、
「お」
また生地を撫で回していた零児がおしりの辺りに謎のポケットを発見する。
小さな正方形の、ある程度決まったものしか入れられないポケット。
ユニセックスなので当然男性が履く場合も想定してこういったものが付けられていた。
その存在に気付き、零児が指を突っ込みながらにひひっ、と悪戯っ子の笑い声を上げるが、響季はその笑い声に、ああこの子はきちんとこのポケットの意味をわかっているのだとなぜかショックを受ける。
「ボクサー好きなの?」
そんなことは露知らず、零児は下着の趣味について訊いてきた。
「こういうゴムのが、好きで…。ぴたっとするから」
「へえ」
下着へのこだわりを答える間も、ぺちぺちとウエストゴムが引っ張られる。
痛みには程遠い刺激に響季は逆らえない。
が、突然しゅるりとゴムの縁から手が侵入し、直接皮膚を触ってきた。
「うわあっ!」
驚いた響季が腰を引くと、
「わ」
「うわっ、あっ」
それに驚いた零児が伸ばしていた足を立たせ、足を挟んでいた響季がバランスを崩し、お布団の中がてんやわんやになる。
結果響季の右足が零児の両足の間に入ってしまった。
「だあ!あ、あ」
慌てて引き抜こうとするが、零児は逆にそれを両足で挟み込んでくる。更に上半身もぐっと抱きしめ、逃がさないようにしてきた。
「うわぅ、んぐぅ」
すべすべしてむにゅむにゅした内腿に足一本を挟まれ、響季が目を瞑り、必死で歯を食いしばる。
「はあ、あっは、んぐっ、うーうー」
体験したことのないくすぐったさと気持ちよさに変な声が出そうになる。
これは遊びなのだ、変な声を出したらおかしいと我慢する。
なのに零児は絡ませ、挟み、しごくようにし、しがみつき、不器用な四の字固めをかけるようにし、足全体で包み込んでくる。
「い、い」
シーツを掴み、響季が攻撃に耐える。
どう攻められるかわからない。
予想できない柔らかさと暖かさと、どこか認めたくはない気持ち良さに、頭がおかしくなりそうだった。
逃れようともがくと、零児の下着が前腿に触れていたことに気付く。
こちらも、おそらくは綿の感触。
「れい、ちゃん」
うっすら目を開き、無理やり身体を起こすと響季が真上から零児を見下ろす。
下半身の荒々しい攻撃とぐっと抱きしめた腕の強さとは対照的に、その表情には何の色も見えない。
ニヤニヤも、それこそ狂気じみた興奮も。
ただただ冷静な瞳で相手の反応を見ているだけだった。
その顏を、響季は慌てさせてやりたかった。
れいちゃんはどんなの履いてるのと訊くより、もう遊びを止める意味を込めて直接触ってやろうか、驚かせてやろうか、中に手を入れればさすがに驚いて遊びをやめるだろうと響季は考えた。
そして相手の顔の横に置いていた手を布団の中に入れるが、
「あれ?ひぃー。いないのー?」
その声に、驚きのあまり全身の骨が外れ、砕けてしまうのではないかというぐらい身体がびぐんとなる。
姉が、帰ってきたのだ。
響季が目の前のアーモンドアイと見つめ合う。
どうしよう、と。
だがあちらはさっきと一切変わらぬ双眸で、なぜそんなに落ち着いているのかと逆に響季を焦らせた。
冷たい汗が響季の全身から吹き出す。先ほどまでかいていた暑い汗とは別の汗が。
だが、よく考えればどうしようということもない。
ただ寒いから、暖房嫌いな友達と布団に入っていただけだ。
覆いかぶさっている体勢なのは抱きしめ合っていた方が暖かいからで。
突然姉が部屋に入ってきたらそう説明すればいい。
ただの戯れだと。
それでも響季は息を潜め、姉が部屋の前の廊下を通り過ぎるのを待つ。
より音を正確に聞き取れるよう、目をぎゅっと瞑って。
その間、退屈な零児は頬をパプーと膨らませたり、逆に頬をすぼませてピヨピヨとひよこの口真似をしたりして静かに遊んでいた。
目を開けた響季が吹き出してしまえばいいと思いながら。
一方響季は姉がリビングの方へ向かったのを察知すると、
「よしっ。むぐうっ!」
目を開け、すばやく布団から抜けだそうとするが、ひよこ口真似のまま白目をがっつり剥いていた零児を見てしまい、慌てて口を抑えて笑いを押し殺す。
それでもどうにか布団から抜け出し、自分のスカートを取った。
それに足を通していると、
「あれ?ひーいー」
リビングにも妹が居ないとわかった姉が戻ってきた。
その声を聞きながら響季はつんのめるようにしてスカートを穿き、ホックをかけ、
「な、なにっ?」
ドアに向かってそう言った。声が裏返らないのが奇跡だった。
「あれ?いるんじゃん」
ドアを開けることもなく所在の確認だけすると、姉はリビングへと戻っていった。
ホッとしながら響季がぐしゃぐしゃなスカートの位置を直すと、
「かわいいパンツ穿いてるね」
ベッドの上で悠々と肘を突き、こちらを見ながら零児がそう言ってきた。
ボーダー柄のかわいいボクサーパンツはしっかり見られていた。
そんなことを繰り返していくうち、だいぶ残量が増えてきた。
「……疲れた」
一旦作業を止め、ふう、と息をついて起き上がると、響季は客人に淹れた紅茶を一口啜る。だが、
「寒い」
読書体勢のまま、顔だけこちらに向けた零児が眉を顰め、そう訴える。
起き上がったことで布団が捲れてしまっていた。
「あ、ごめん」
カップを置き、響季がまた布団に入るが、
「寒い」
「え?」
布団を直しても零児は尚もそう訴えた。
捲れたことで空気が入ってしまったかと、子供を寝かしつけるように響季が掛け布団を上からとんとんと手で抑えるが、
「寒い」
「ええっ?エア、コン、入れる?」
「暑い」
「ええー?」
零児は寒いか暑いしか言わない。要求がわからない。
わがままを言い、困らせようとしているのではないようだ。
しかし何かを訴えているようには見えた。
なんだと響季が必死に考えていると、零児は本を自分の横に置き、壁際に向けていた身体を仰向けにする。
手をバンザイするようにして。
まるで何かを迎え入れるように。
少なくとも、響季にはそう見えた。
肘をついて身体を起こすと、その頭に、ある情景が浮かんだ。
例えば遭難した雪山で。
そこでようやく見つけた雪小屋の中で、遭難した二人は互いの体温で身体を温め合う。
そんなチープな展開が。
ごきゅ、と響季が唾を飲み込む。
水分で喉を潤したばかりなのに、喉がカラカラだった。
ひょっとしたら自分の考えは間違っているかもしれない。
だがそうなら向こうが言ってくれるはずだ。
馬鹿か貴様、違うやろと。
自分の考えは合っている。もし間違っていたら向こうがいつものように正してくれる。
そう信じて、響季はまるで儀式のように眼鏡を外してテーブルの上に置くと、布団の中を移動して零児の身体に覆いかぶさるようにした。
そして出来るだけ体重をかけないように、真上から抱きしめた。
顔を耳の横辺りに逃し、ぴったり隙間なく抱きあうと、
「…あ」
今更気付いたように響季が声を出す。
上半身は服を着ているからいい。だが下半身は。
スカートを履いていないむき出しの太もも同士が触れる。
すべすべとして柔らかいそれを、響季は自分の両足で挟みこむようにした。内腿の柔らかい部分で。
「ん、ぐ」
カラカラの喉で無理やり唾を飲み込む。
相手と顔が重なり合わないようにしているため、自然と目の前に広がる黒髪の中に鼻先をつっこむことになるが、
「ふ、は」
そこからは、目の眩むようないい香りがした。
呼吸を乱すな、変に思われるぞと自分に言い聞かせてもどうにもならない。その香りをもっと肺で満たしたくて仕方なくなる。
「んっ、ふ。ううっ?」
どうにも自分が保てず、目を瞑ったまま響季が少し身体を離そうとすると、逆に下から伸びた手に引き寄せられた。そしてうりうりと頬擦りをされた。
「あ、あ」
見た目以上に柔らかく冷たい頬に、響季の熱い頬が蹂躙される。
熱を吸い取ってくれるような心地よさに思わず声が出るが、
「あぅ」
逃げようとすると今度は熱を持った耳が相手の冷たい耳と擦れる。
「は、あ」
もっと触れ合いたい、でもこれでもう充分だという欲求と充足感が均衡しあう。
そこにこれ以上は危険だという想いが第三勢力として押し寄せてくる。
ぎゅうと縮んだようになっている心臓が、暴れるようにどぐどぐと五月蝿かった。
沸騰しそうな血液が、心臓と脳に注がれる。
冷静な判断が出来なくなりそうになる。
それはおそらく、初めてする無理な体勢にだ。
でなければおかしい。
友達と暖を取るために布団の中に入り、暖房嫌いな友達のために身体を使って温め合っているだけ。ただそれだけだ。
元来触れ合うのが好きな女の子なら、女の子同士ならなんてことはないコミュニケーション。
キャッキャとウフフにごろごろとヌクヌクが追加されただけだ。
そう響季は自分に言い聞かせた。
ドキドキするのはおかしいと。
理性が崩壊しそうになるのはおかしいと。
「あったかい?」
乾いた声で、抱きしめたまま訊くと、零児が小さく頷く。
それだけで、響季は心臓そのものを掴まれたような気になる。
身体が沈み込み、零児と融け合うような気持ちになる。
そして、気づけばこちらから一方的に抱きしめるという行為から、背中に手を回され、抱きしめ合っていたことに戸惑っていた。
だが零児の手は背中から徐々に下の方へと下がっていき、
「今日どんなパンツ穿いてんの?」
変質者風のグフフ声にするでもなく、いつものトーンでそんなことを訊いてきた。
まるで世間話でもするように。
「どんな、だっけ」
「覚えてないの?」
れいちゃんは?と訊こうとし、下半身は遮る布が下着しかないことに響季が気付く。
そしてその下着同士が触れ合っていた。
自分は、自分達はなにかとんでもないことをしているのではないかと響季が狼狽えていると、
「わっ、あ」
突然おしりを触られた。
しかしそれは生地に包まれた柔らかさを堪能するのではなく、生地の素材を確かめるようにだった。
さらさらと表面を触り、生地を摘んで引っ張られ、
「綿ひゃくぱー」
「そう、だね」
訊かれたことに肯定する。確かにそうだった。
よほどデザインにこだわりがなければ、響季が普段買う下着は綿100%だった。
そんな普段は意識しないことを再確認していると、手はおしり部分から上へと移動し、
「あ」
響季が声を上げる。
零児が幅広のウエストゴムを発見した。
それも何度か摘んでひっぱり、伸縮具合を調べる。
伸び縮みする幅広ゴムがぺち、ぺちと肌を叩き、なんだこれは、一風変わったえすえむというものではないのかと響季が真っ白な頭で考えていると、
「ボクサー?」
「あ…、そうだ。今日ボクサーパンツ」
そう指摘されて気付く。確かに今日穿いていたのはローライズのユニセックスボクサーパンツだった。
デザインが可愛いく、安売りしていたのでオシャレ雑貨屋で買ったものだが、
「お」
また生地を撫で回していた零児がおしりの辺りに謎のポケットを発見する。
小さな正方形の、ある程度決まったものしか入れられないポケット。
ユニセックスなので当然男性が履く場合も想定してこういったものが付けられていた。
その存在に気付き、零児が指を突っ込みながらにひひっ、と悪戯っ子の笑い声を上げるが、響季はその笑い声に、ああこの子はきちんとこのポケットの意味をわかっているのだとなぜかショックを受ける。
「ボクサー好きなの?」
そんなことは露知らず、零児は下着の趣味について訊いてきた。
「こういうゴムのが、好きで…。ぴたっとするから」
「へえ」
下着へのこだわりを答える間も、ぺちぺちとウエストゴムが引っ張られる。
痛みには程遠い刺激に響季は逆らえない。
が、突然しゅるりとゴムの縁から手が侵入し、直接皮膚を触ってきた。
「うわあっ!」
驚いた響季が腰を引くと、
「わ」
「うわっ、あっ」
それに驚いた零児が伸ばしていた足を立たせ、足を挟んでいた響季がバランスを崩し、お布団の中がてんやわんやになる。
結果響季の右足が零児の両足の間に入ってしまった。
「だあ!あ、あ」
慌てて引き抜こうとするが、零児は逆にそれを両足で挟み込んでくる。更に上半身もぐっと抱きしめ、逃がさないようにしてきた。
「うわぅ、んぐぅ」
すべすべしてむにゅむにゅした内腿に足一本を挟まれ、響季が目を瞑り、必死で歯を食いしばる。
「はあ、あっは、んぐっ、うーうー」
体験したことのないくすぐったさと気持ちよさに変な声が出そうになる。
これは遊びなのだ、変な声を出したらおかしいと我慢する。
なのに零児は絡ませ、挟み、しごくようにし、しがみつき、不器用な四の字固めをかけるようにし、足全体で包み込んでくる。
「い、い」
シーツを掴み、響季が攻撃に耐える。
どう攻められるかわからない。
予想できない柔らかさと暖かさと、どこか認めたくはない気持ち良さに、頭がおかしくなりそうだった。
逃れようともがくと、零児の下着が前腿に触れていたことに気付く。
こちらも、おそらくは綿の感触。
「れい、ちゃん」
うっすら目を開き、無理やり身体を起こすと響季が真上から零児を見下ろす。
下半身の荒々しい攻撃とぐっと抱きしめた腕の強さとは対照的に、その表情には何の色も見えない。
ニヤニヤも、それこそ狂気じみた興奮も。
ただただ冷静な瞳で相手の反応を見ているだけだった。
その顏を、響季は慌てさせてやりたかった。
れいちゃんはどんなの履いてるのと訊くより、もう遊びを止める意味を込めて直接触ってやろうか、驚かせてやろうか、中に手を入れればさすがに驚いて遊びをやめるだろうと響季は考えた。
そして相手の顔の横に置いていた手を布団の中に入れるが、
「あれ?ひぃー。いないのー?」
その声に、驚きのあまり全身の骨が外れ、砕けてしまうのではないかというぐらい身体がびぐんとなる。
姉が、帰ってきたのだ。
響季が目の前のアーモンドアイと見つめ合う。
どうしよう、と。
だがあちらはさっきと一切変わらぬ双眸で、なぜそんなに落ち着いているのかと逆に響季を焦らせた。
冷たい汗が響季の全身から吹き出す。先ほどまでかいていた暑い汗とは別の汗が。
だが、よく考えればどうしようということもない。
ただ寒いから、暖房嫌いな友達と布団に入っていただけだ。
覆いかぶさっている体勢なのは抱きしめ合っていた方が暖かいからで。
突然姉が部屋に入ってきたらそう説明すればいい。
ただの戯れだと。
それでも響季は息を潜め、姉が部屋の前の廊下を通り過ぎるのを待つ。
より音を正確に聞き取れるよう、目をぎゅっと瞑って。
その間、退屈な零児は頬をパプーと膨らませたり、逆に頬をすぼませてピヨピヨとひよこの口真似をしたりして静かに遊んでいた。
目を開けた響季が吹き出してしまえばいいと思いながら。
一方響季は姉がリビングの方へ向かったのを察知すると、
「よしっ。むぐうっ!」
目を開け、すばやく布団から抜けだそうとするが、ひよこ口真似のまま白目をがっつり剥いていた零児を見てしまい、慌てて口を抑えて笑いを押し殺す。
それでもどうにか布団から抜け出し、自分のスカートを取った。
それに足を通していると、
「あれ?ひーいー」
リビングにも妹が居ないとわかった姉が戻ってきた。
その声を聞きながら響季はつんのめるようにしてスカートを穿き、ホックをかけ、
「な、なにっ?」
ドアに向かってそう言った。声が裏返らないのが奇跡だった。
「あれ?いるんじゃん」
ドアを開けることもなく所在の確認だけすると、姉はリビングへと戻っていった。
ホッとしながら響季がぐしゃぐしゃなスカートの位置を直すと、
「かわいいパンツ穿いてるね」
ベッドの上で悠々と肘を突き、こちらを見ながら零児がそう言ってきた。
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