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アニラジを聴いて笑ってる僕らは、誰かが起こした人身事故のニュースに泣いたりもする。(上り線)
22、天才にはその自覚がない。困ったものだ
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DOLCE GARDENの無料ライブ当日。
いつもの巨大ショッピングモールのイベントステージ付近にて。
「ほう」
集まった観客を見て零児がなるほどと息を吐く。
黒髪率が高いが、髪を染めた人達もいる。ちらほらとだが親子もいた。
平日で、始まるまでまだ時間があるのにそこそこに客の集まりがいい。自分達のような制服姿の学生もいた。
かといって集まり過ぎてイベントが中止になるには程遠い集客人数だ。
係員達も、他の客や通路の妨げにならない程度の人数にどこかのんびり警備していた。
集まったファンにもマナーの良さが伺えた。
最前線に座り込んで場所取りをしたり、気合が入り過ぎて異様な風貌のものもいない。
普段のライブとは違い、多くの一般人の目に触れやすいとわかっているのだろう。
こういった場所でのライブは一般人への無差別なアピールが出来る。
が、ファン達が眉を顰められるような行動をすれば、それが逆のアピールになってしまう。
さわさわとさざ波のような興奮を抑えつつも、ファン達はお行儀よくディーヴァ達の出番を待っていた。
「始まるまであそこで待つ」
これだけの人数なら始まってからでもある程度いい場所で見れるだろうと判断し、零児が近くにあるコーヒーショップのテラス席を指さす。
そこからならステージが見えるので、始まったらすぐに移動すればいい。
寒空の下、棒立ちで待つのは少々辛かった。
「はい…」
響季もそれに従う。
そしてそれぞれが温かい飲み物を頼み、席につくと、早速といった体で零児は携帯ゲーム機を取り出した。
響季から譲り受けた、時間潰しには持って来いのアイテムを。
対して響季は何も出さず、目の前の少女を見ているだけだった。
いつもならゲームに夢中になる零児を、もうこの子ったらと見つめる母親気分になっていただろう。
だが、目の前にいるのは世の中を裏から操っている少女だった。
今日顔を合わせてから、響季はつい十数時間前知ったことを訊こうかどうかずっと迷っていた。
売れない女芸人に鉄板ネタを授け、それによって売れないアイドルを引き上げてライブ出演へと誘い、過去にはこれまた陽の目を見そうもないアイドルを地下からメジャーステージへと押上げていたことを。
-訊きたい。でも訊いたら嫌な顔しそう。どうしよう。冗談っぽく訊いたら大丈夫かな。
そんな響季のモヤモヤなど露知らず、
「またすれ違ったよ」
天才はゲーム画面を見て言う。
嬉しさを、そうとわからない程度に滲ませて。
零児はSPIRITを貰って以来、そでフレ通信に夢中だった。
見知らぬ誰かと電波を通じて触れ合う。その一瞬の繋がりを楽しんでいたが、
「そう…」
響季の声に硬さがあったのに気づいたのだろう。ゲーム画面から目を離し、
「なに?」
「いや…」
どうしたと訊いてみるが、訊かれた方は曖昧に答えて目を伏せる。
しばらくその姿をむうっと唇を尖らして見ていたが、すぐにかちゃかちゃとSPIRITを操作し、
「はい」
「え?おおう」
なぜかご機嫌斜めな響季に画面を見せる。
そこにはDOLCE GARDENのメンバー四人を模したアイムがいた。
華やかなぱっちり目をした永遠の少女のような雰囲気を持つCrispy-Na、カチッとしたはっきり顔のイケメン姐さんGURASSE、華奢で金髪美少年風のParfait、背が高く迫力あるエキゾチック美人のpinet。
「へえー。似てるぅー」
決して多くはない顔パーツを駆使し、それぞれの特徴を上手く捉えていた。
「これにそでフレさせてステマらせてる」
更に零児が操作すると、DOLCE GARDENのメンバーを模したアイムからポポポポッとメッセージが出てきた。
通信時に言わせるメッセージは、「アルバム出るよ」という意味の言葉になっていた。制限のある文字数の中に、発売日とタイトル名を詰め込んで。
「そんなあからさまな。っていうか効果あるの?それ」
ステルスどころではない宣伝法に、響季は思わず笑いながら言うが、
「さあ?」
そう画面を見ながら言う零児は、さして興味が無さそうだった。
「……そおっすか」
その温度の低さに響季はまた距離を感じた。
天才との距離を。
面白いからやっている。結果なんてどうでもいい。
零児は、ただそれだけだった。
そしてそれだけが彼女の原動力だった。
自分の仕掛けた爆弾がどうなろうと興味はない。
ただ目の前の光景に火種を投げ込む。
きっとマイナーアイドルや女芸人達に鉄板ネタを授けたのも、大したことではないのだ。
それがブレイクのきっかけになったことも。
ブレイクしたことも興味が無く、あるいは興味が無いゆえ知らないかもしれない。
だがたとえ知っていても、あれは私がやりましたなんて言いふらしたりもしない。
あんな面倒くさそうな音声ネタを作り、加工までしてもだ。
単にメールを送るだけで精一杯の自分とはスタンスからして違うのだ。
勝手に差を感じ、勝手に響季が打ちひしがれていると、
「なに?」
零児が苛立った声をかけてくる。
勝手に重い雰囲気を出してくるのにいい加減苛立っていた。
「あのさ」
だから、響季は訊くべきではないと思いつつも訊いてしまう。
「……リリ×ハナヤシキって知ってる?」
「花屋敷ZOZO美の?」
「そう」
最初の切り込み方としては大丈夫かと確認しながら更に切り込んでいくが、
「最近、すごい話題になってるじゃん」
「へえ」
反応が鈍い。
本当に知らないのか。しらばっくれているだけなのか。
響季は初めてのデートのことを思い出す。
ラジオのネタ職人としてのことを訊いた時もこんな反応だった。
これ以上訊かない方がいいのかと思うが、結局は目の前のテーブルを見つめたまま言葉を続ける。
「あの次回予告風のネタってさ、あの…、地下アイドルの紹介とアニメの次回予告の音楽のやつ」
零児はゲーム画面を見つめてはいるが、瞳は動いていなかった。
「あれって」
顔を上げて響季が零児を見ると、向こうもまっすぐ見つめ返していた。
そのアーモンドアイは冷たく、それ以上訊くなと言っていた。
「あ…」
そして響季は改めて理解する。
それを訊くのは無粋なのだと。
自分ではない、電波上のもう一人が仕組んだ爆弾が上手いこと炸裂した。
零児にとってはそれでいい。
火種の行く末が巨大な花火になった。
その花火をあげた職人が誰かと暴くのは粋ではない。
誰がやったのかなんてどうでもいい。自分がやりました、なんてことは彼女にとってはどうでもいいことのだ。
それでも響季は訊かずにはいられなかった。
「くれッ、しぇンど、ふルむーんは、」
「は?」
リリ×ハナヤシキの件は確認がとれたのでもう良しとした。
「あれも、あれは、くれっしぇんどふるむぅーんは知ってる?」
声がひっくり返りながらも、もうひとつの過去の偉業について訊いてみると、向こうはなんだそれという目で見てきた。
「あのほら、献結ライブにも出るんだって。くれっしぇんどふるむぅーん。あの、あたしが応募した。最近、アニソンとか歌ってて」
そこまで言って零児がああ、という顔をする。
知らないはずはない。
アニメソングを主として歌うアイドルとして売り出し中なのだから、こちらサイドに身を置いているならある程度は耳に入ってくるはずだ。
だが質問の意図までは理解してないようだった。
「それの、リーダー会議ネタをさ」
その言葉に、零児がぴく、と動きを静止する。
視線を巡らし、何かを思い出そうとしていた。そして、
「あ」
と、小さな声で言う。
思い出したらしい。かつて送った、地方ラジオの箱番組へのメールを。
いつもの巨大ショッピングモールのイベントステージ付近にて。
「ほう」
集まった観客を見て零児がなるほどと息を吐く。
黒髪率が高いが、髪を染めた人達もいる。ちらほらとだが親子もいた。
平日で、始まるまでまだ時間があるのにそこそこに客の集まりがいい。自分達のような制服姿の学生もいた。
かといって集まり過ぎてイベントが中止になるには程遠い集客人数だ。
係員達も、他の客や通路の妨げにならない程度の人数にどこかのんびり警備していた。
集まったファンにもマナーの良さが伺えた。
最前線に座り込んで場所取りをしたり、気合が入り過ぎて異様な風貌のものもいない。
普段のライブとは違い、多くの一般人の目に触れやすいとわかっているのだろう。
こういった場所でのライブは一般人への無差別なアピールが出来る。
が、ファン達が眉を顰められるような行動をすれば、それが逆のアピールになってしまう。
さわさわとさざ波のような興奮を抑えつつも、ファン達はお行儀よくディーヴァ達の出番を待っていた。
「始まるまであそこで待つ」
これだけの人数なら始まってからでもある程度いい場所で見れるだろうと判断し、零児が近くにあるコーヒーショップのテラス席を指さす。
そこからならステージが見えるので、始まったらすぐに移動すればいい。
寒空の下、棒立ちで待つのは少々辛かった。
「はい…」
響季もそれに従う。
そしてそれぞれが温かい飲み物を頼み、席につくと、早速といった体で零児は携帯ゲーム機を取り出した。
響季から譲り受けた、時間潰しには持って来いのアイテムを。
対して響季は何も出さず、目の前の少女を見ているだけだった。
いつもならゲームに夢中になる零児を、もうこの子ったらと見つめる母親気分になっていただろう。
だが、目の前にいるのは世の中を裏から操っている少女だった。
今日顔を合わせてから、響季はつい十数時間前知ったことを訊こうかどうかずっと迷っていた。
売れない女芸人に鉄板ネタを授け、それによって売れないアイドルを引き上げてライブ出演へと誘い、過去にはこれまた陽の目を見そうもないアイドルを地下からメジャーステージへと押上げていたことを。
-訊きたい。でも訊いたら嫌な顔しそう。どうしよう。冗談っぽく訊いたら大丈夫かな。
そんな響季のモヤモヤなど露知らず、
「またすれ違ったよ」
天才はゲーム画面を見て言う。
嬉しさを、そうとわからない程度に滲ませて。
零児はSPIRITを貰って以来、そでフレ通信に夢中だった。
見知らぬ誰かと電波を通じて触れ合う。その一瞬の繋がりを楽しんでいたが、
「そう…」
響季の声に硬さがあったのに気づいたのだろう。ゲーム画面から目を離し、
「なに?」
「いや…」
どうしたと訊いてみるが、訊かれた方は曖昧に答えて目を伏せる。
しばらくその姿をむうっと唇を尖らして見ていたが、すぐにかちゃかちゃとSPIRITを操作し、
「はい」
「え?おおう」
なぜかご機嫌斜めな響季に画面を見せる。
そこにはDOLCE GARDENのメンバー四人を模したアイムがいた。
華やかなぱっちり目をした永遠の少女のような雰囲気を持つCrispy-Na、カチッとしたはっきり顔のイケメン姐さんGURASSE、華奢で金髪美少年風のParfait、背が高く迫力あるエキゾチック美人のpinet。
「へえー。似てるぅー」
決して多くはない顔パーツを駆使し、それぞれの特徴を上手く捉えていた。
「これにそでフレさせてステマらせてる」
更に零児が操作すると、DOLCE GARDENのメンバーを模したアイムからポポポポッとメッセージが出てきた。
通信時に言わせるメッセージは、「アルバム出るよ」という意味の言葉になっていた。制限のある文字数の中に、発売日とタイトル名を詰め込んで。
「そんなあからさまな。っていうか効果あるの?それ」
ステルスどころではない宣伝法に、響季は思わず笑いながら言うが、
「さあ?」
そう画面を見ながら言う零児は、さして興味が無さそうだった。
「……そおっすか」
その温度の低さに響季はまた距離を感じた。
天才との距離を。
面白いからやっている。結果なんてどうでもいい。
零児は、ただそれだけだった。
そしてそれだけが彼女の原動力だった。
自分の仕掛けた爆弾がどうなろうと興味はない。
ただ目の前の光景に火種を投げ込む。
きっとマイナーアイドルや女芸人達に鉄板ネタを授けたのも、大したことではないのだ。
それがブレイクのきっかけになったことも。
ブレイクしたことも興味が無く、あるいは興味が無いゆえ知らないかもしれない。
だがたとえ知っていても、あれは私がやりましたなんて言いふらしたりもしない。
あんな面倒くさそうな音声ネタを作り、加工までしてもだ。
単にメールを送るだけで精一杯の自分とはスタンスからして違うのだ。
勝手に差を感じ、勝手に響季が打ちひしがれていると、
「なに?」
零児が苛立った声をかけてくる。
勝手に重い雰囲気を出してくるのにいい加減苛立っていた。
「あのさ」
だから、響季は訊くべきではないと思いつつも訊いてしまう。
「……リリ×ハナヤシキって知ってる?」
「花屋敷ZOZO美の?」
「そう」
最初の切り込み方としては大丈夫かと確認しながら更に切り込んでいくが、
「最近、すごい話題になってるじゃん」
「へえ」
反応が鈍い。
本当に知らないのか。しらばっくれているだけなのか。
響季は初めてのデートのことを思い出す。
ラジオのネタ職人としてのことを訊いた時もこんな反応だった。
これ以上訊かない方がいいのかと思うが、結局は目の前のテーブルを見つめたまま言葉を続ける。
「あの次回予告風のネタってさ、あの…、地下アイドルの紹介とアニメの次回予告の音楽のやつ」
零児はゲーム画面を見つめてはいるが、瞳は動いていなかった。
「あれって」
顔を上げて響季が零児を見ると、向こうもまっすぐ見つめ返していた。
そのアーモンドアイは冷たく、それ以上訊くなと言っていた。
「あ…」
そして響季は改めて理解する。
それを訊くのは無粋なのだと。
自分ではない、電波上のもう一人が仕組んだ爆弾が上手いこと炸裂した。
零児にとってはそれでいい。
火種の行く末が巨大な花火になった。
その花火をあげた職人が誰かと暴くのは粋ではない。
誰がやったのかなんてどうでもいい。自分がやりました、なんてことは彼女にとってはどうでもいいことのだ。
それでも響季は訊かずにはいられなかった。
「くれッ、しぇンど、ふルむーんは、」
「は?」
リリ×ハナヤシキの件は確認がとれたのでもう良しとした。
「あれも、あれは、くれっしぇんどふるむぅーんは知ってる?」
声がひっくり返りながらも、もうひとつの過去の偉業について訊いてみると、向こうはなんだそれという目で見てきた。
「あのほら、献結ライブにも出るんだって。くれっしぇんどふるむぅーん。あの、あたしが応募した。最近、アニソンとか歌ってて」
そこまで言って零児がああ、という顔をする。
知らないはずはない。
アニメソングを主として歌うアイドルとして売り出し中なのだから、こちらサイドに身を置いているならある程度は耳に入ってくるはずだ。
だが質問の意図までは理解してないようだった。
「それの、リーダー会議ネタをさ」
その言葉に、零児がぴく、と動きを静止する。
視線を巡らし、何かを思い出そうとしていた。そして、
「あ」
と、小さな声で言う。
思い出したらしい。かつて送った、地方ラジオの箱番組へのメールを。
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