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アニラジを聴いて笑ってる僕らは略(乗り換え連絡通路)

1、かなしいおしらせ全国放送

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 響季になんだか酷いことを言われた後。
  零児はどうやって雨の中ショッピングモールから家に帰ってきたのか、自分でもわからなかった。
  ただ、気づいたら家に辿り着いていて、

 「やだっ!れい、ビショビショじゃないっ。傘持っていかなかったの?制服ちゃんと乾かしときなさいよ?」

  びしょ濡れで帰ってきた娘に母親はどうしたの?とも訊かず、制服を濡らして帰ってきたことだけを咎めた。
  いつもと変わらぬ不機嫌そうな顔を作り、零児は洗面所に向かうと濡れた制服を脱いで適当にドライヤーで乾かし始めた。
  そのうちどんどん惨めな思いに駆られてくる。
  どうしよう、泣くかも知れない。
  だがもし家族が入ってきたら?
  今度こそどうしたのと訊かれたら?
  そんな恐怖に怯え、零児は浴室へ逃げたが、熱いシャワーを浴びても涙なんか出なかった。
  身体が温まるのに反して頭がいつもの冷静さを取り戻す。
  顔面にお湯を浴び続けながら零児は考えた。
  ついさっきまでは上手くやれていたはずなのに。
  博士と助手コントだって上手くやれていたはずなのにと。

  そして思い出す。
  響季が小さい子にバレエのステップを見せ、一緒にダンスを踊り、ディーヴァ達を前にオロオロし、小さな子に最後まで手を振って、嬉しさを噛みしめていた姿を。

 「……可愛かったな」

  ぽつりと、そんな言葉が唇から自然と零れ落ちた。
  それよりもっと前の、勝手に始めたコントに必死に食らいついてきたり、こっちが展開する青臭い論説にショックを受けた姿も思い出す。
  ついさっき頬や額に触れてくれた手のひらも。
  この前のお腹まくらも。
  今まで見てきて響季の顔、反応、体温、声、必死さ、優しさ、そのすべてが愛おしかった。
  でも、それらにはもう自分は近づけないのかもしれない。
  最後に見た響季の表情は拒絶そのものだった。

 「……フラれたのかな」

  シャワーを止め、零児が自分に問いかけてみる。

そうだ、フラれたわけではないのだ。
じゃあ何があった?
 嫌いだと言われた気がする。
 女の子によくある、絶交というやつだろうか。
あのくだらないやつか。
いや違う。
ならば女の子の同士の恋模様によくある、気持ち悪いというやつか。
いや違う。
しかしそれと同等の態度を取られた気がする。
 自分が相手を好きだから、好き過ぎて、平静が保てなくなって。
まるで自分が自分でなくなるようで。
 相手に全てを委ねたくなるような、それが心地よくて。


 「……誰だお前」

  浴室の、大きな鏡の中の自分に言われた言葉を投げかけてみる。
  シャワーで額に張り付いた前髪。
  その下にはぼんやりとして覇気がない、情けない顔をした自分がいた。
  泣いてもいないのに瞼が腫れぼったい。

 「そうか…。だからか」

  言葉にしてみて、零児は気づいた。
  昨日の自分。いつか行った献結ルーム。初めて行った教室の床で、寝転がったままでつい出てしまった言葉。
  自分は、好きという気持ちに乗っ取られていた。

 「そっか」

  自分を失くすほど好きになってしまってはいけなかったのだ。
  好きという思いを溢れさせてはいけなかったのだ。
  響季は自分のことを少なからず面白いと思ってくれているから、側に居てくれたのに。
  好きが溢れだした結果、その核のようなものがなくなり、魅力を感じなくなったのだ。
  あれほど自分は大した人間ではないと言ったのに。

 「買い被り過ぎだよ」

  今は目の前にいない相手にそう言うと、零児はシャワーを一度止め、浴室内を見回す。
  シャンプー、コンディショナー、通風口、バスタブ、シャワーヘッド、ボディブラシ、入浴剤。
  視界から情報として入ってくるもの。
  それらを適当に単語として拾い、蓄えた知識でもって肉付けする。
  あるいは想像力、ひらめきでもって珍奇な文章を作り上げてみようとするが、

 「……あれ」

  そんな脳内でする手遊びが出来ないでいた。
  いつもは呼吸をするのと同じくらい簡単に出来ることだったのに。

 「違う。シャンプー…、シャンプーハット」

  とりあえずで連想ゲームのように言葉を繋げ、ネタを膨らませていこうとするが、

 「シャンプーハット…、シャンプーハットフリスビー、殺人事件」

  シャンプーハットをフリスビーみたいに投げ、憎き者の首をスパーンと狩る。


  -デカ長、どうやらガイシャは鋭利な刃物のようなもので首をはねられたようで。


 「…違う」

  濡れた頭に手をやりながら、零児が呟く。
  さっき見た瞼のように、脳が妙に腫れぼったい。
  全然、まったく面白くない。
  第一脳内の下っ端刑事が振っているのにデカ長は何も返してこない。
  何よりシャンプーハットフリスビー殺人事件という一文が長過ぎる。
  そもそもどこで息継ぎをすればいいのか。
  もっとスパッと切れ味鋭く決めたいのに決まらない。

 「…ヘアカットマネキンの」

  今度は急にひらめいたモノを当てはめ、もう一度組み立ててみる。


デカ長…、テレビ…、デカ長一旦この部屋出ましょう!それでコンビニ行きましょう!
えっ?何言ってんのキミ。まだ部屋の中の物全部クリックし終わってないよ?あとテレビが何?
いえあの、テレビの、テレビに、あの…、女の顔が映ってて、ベッドの下に…、誰か隠れているような。
えっ!?よ、よしっ、一旦コンビニに行こう。よーし我々はコンビニに行くぞっ!それで肉の臭さを消すためにスパイス効かせ過ぎなチキンを食べて、スパイシー放屁をみんなでしよう。そうしよう。………と、見せかけてベッドの下にいるのは誰だァー!!
キャー!デカ長ー!いやああー!
ってヘアカット用マネキンかーい!!



 「……違う」

  デカ長は出てきてくれたし勇気凛々だったが、面白さではなく何か怖い想像に向かっている気がする。
  なんだか都市伝説的な。
  いやそれ以上に壊滅的につまらない。
  どうにも思い描く方向性に考えが向かわない。

  ゆっくり髪と身体を洗いながら零児は更に考えてみる。
  面白いことを。
  何か作業をしながらの方がそういったことは思いつく。しかし長年の経験からそれをしてみても何も思い浮かばない。
  わざわざ脳の多目的ホールを開放してやっても、何も。
  回路が完全に途切れてしまっていた。
  面白いことを考える回路が。
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