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本編
1.つがい制度
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――やっと、やっと思い出してくれた。ありがとう。とてもとても心が苦しかった、痛かった。素直に彼に恋をすることができなくて、辛かった。ありがとう。もう、あなたを縛るものは何もないの。心の思うがままに、大好きな彼と……
この世界にはつがいというものが存在する。つがいというのは運命の相手同士と言えばいいのか、その人物と出会うと一瞬でわかるのだという。その人が唯一無二で一度見つけたらその人に振り向いてもらえるまでアタックし続けるのだ。
一度つがいと出会ってしまえばもうその人しか見えなくなってしまうのだという。よくあるのが家同士の政略で婚約した恋人同士の片方が自分のつがいと出会ってしまい破断になったとか、結婚してから見つかって離婚してまでつがいを求めてしまうとか。
まあ、それは昔の話で、今はつがいがいる者達には政略結婚はさせず、つがい同士が一緒になることが一般的となっている。
一応ここは乙女ゲームの世界で、イギリスが舞台のモデルとなっている。王族や貴族が存在する世界なのだが、このつがいのおかげでこの国は結婚も離婚も自由で、一応爵位はあるものの結婚に際してはそれが取り払われるのだという。
よくある高位貴族が平民と結婚できないとかそういったものもない。まさに平民でも王妃になりうるそんな不思議な世界なのだ。
そして、つがいをつがいだと認識できるのは片方だけらしい。主に男性なのだが、つがいがいると気付いたその時から本能的につがいを求めてしまうようで、本人は自覚しているらしい。もう片方は主に女性で誰がつがいかはわからないのだが、つがいとなる相手への目印が現れるのだ。
ただし、みんながみんながつがいなんてあるはずもなく、傾向として貴族に多く見られ、つがいに縛られない人々も多くいる。
こうして近年では、つがい同士が結婚できるようにつがいを求めるものと、体に印のあるものは必ず国に届け出る。
そして定期的にパーティーが行われ、そこでつがい探しをするのだとか。
つがいを求めるものは男性が多いことからハデス、紋様のある女性をペルセポネと呼んでいる。これは神話から来ているのだとか。
そしてわたしは、ルシア・アルノルド。十五歳である。アルノルド子爵家令嬢で、長女。それから前世は日本という国で暮らしていた異世界転生者というものだ。といっても思い出したのはつい最近でそれ以前の記憶があまりないのだけど。
そしてこの国は前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だった。その中でわたしはゲームを盛り上げる役だったはずなのだが……
わたしの左太腿の内側、付け根のあたりにはなぜか蝶の模様が描かれている。おかしい。ゲームの中の彼女は確かつがいなど全く関係ないただのモブだったはずだ。意地悪をする悪役令嬢の取り巻きというポジションで、特に特徴なんてなかったはずなのに……
首を捻る。捻りまくる。
困ったわたしはお父様に聞いてみることにした。
「お父様、わたし紋様なんてなかったですよね?」
いきなり意味のわからないことを話す娘に困惑しているお父様は、怪訝な顔をしながら答えた。
「子供の頃に、神殿へ行って隅々まで調べられるだろう?忘れたのか?」
「そう言えばそうでしたね。申し訳ありません。変なことを言ってしまって」
未だ怪訝そうな顔をしているお父様の部屋を後にして自室に戻る。
この紋様、突然現れるなんてことあるの……? お父様がないというのならないのでしょうけど。そうだ、湯浴みや着替えを手伝ってくれる侍女に聞いてみればいいのね。
「ローラ、わたしに紋様なんてないわよね……?」
「おかしなことを聞くのですね。小さい頃からお世話させていただいていますが、見ておりません。小さい頃に検査もされておりますでしょう?」
そうよねぇ……。どうしましょう。侍女が気づいていないってことは、このままでも気づかれないのかしら。
よし、最後まで隠し通して、普通の恋愛がしたいわっ。誰かに強制的に決められた相手なんてごめんよ。
「そうだったわね」
直近で誰かに見つかる可能性があるのは乙女ゲームの舞台でもある学園だろう。不特定多数の貴族が通うのだ。そんな中に集められたらもしかしたらわたしのハデスに見つかるかもしれない。それは避けたいのだ。
どうしよう。学園に通わなくていもいい方法が何かないかしら……
よくあるのは病弱だということだけど、生まれてこのかた健康体だ。風邪すら滅多に引かないのにそれは無理がある。
後は……駄々をこねる? いや、ちょっと流石にそれはできない。
諦めるしかないのか……
あ、いや待てよ。確かこのゲーム、目的の攻略者とつがいになるためにつがいの紋様を隠す薬があったはず。このゲームは幼い頃のパーティーで初めに出会った人物とつがいになる設定だったはずだ。ただし、裏ルートに行く場合はつがいの紋様を隠す薬と、特殊クエスト攻略報酬の薬を使うと裏ルートに行けるはず。
この裏ルートというのが、好きな攻略対象者と恋愛を経てつがいの紋様が浮き上がってみたいな話だったかな。
パーティーで出会うのは攻略対象者五人の中の二人だけなのだ。そのほか三人は裏ルートへ行かないと結ばれない設定だったはず。
攻略が簡単な二人は確か騎士と宰相家嫡男だった気がするな。後は、第二王子殿下と公爵家嫡男、それと王弟殿下だったはずだ。あまりはっきりとは覚えていないけど。
それに紋様を隠す薬を飲むと、一時的に相手につがいだとバレないらしい。ちょっとお高いけど、元々浪費する方じゃないからお小遣いは溜まってる。多分買えるはずだ。
効果は多分長いはずだ、多分。そうしてわたしは、こっそりと出かけ、お店の場所までゲームの知識を頼りにお店まで出かけることにしたのだった。
この世界にはつがいというものが存在する。つがいというのは運命の相手同士と言えばいいのか、その人物と出会うと一瞬でわかるのだという。その人が唯一無二で一度見つけたらその人に振り向いてもらえるまでアタックし続けるのだ。
一度つがいと出会ってしまえばもうその人しか見えなくなってしまうのだという。よくあるのが家同士の政略で婚約した恋人同士の片方が自分のつがいと出会ってしまい破断になったとか、結婚してから見つかって離婚してまでつがいを求めてしまうとか。
まあ、それは昔の話で、今はつがいがいる者達には政略結婚はさせず、つがい同士が一緒になることが一般的となっている。
一応ここは乙女ゲームの世界で、イギリスが舞台のモデルとなっている。王族や貴族が存在する世界なのだが、このつがいのおかげでこの国は結婚も離婚も自由で、一応爵位はあるものの結婚に際してはそれが取り払われるのだという。
よくある高位貴族が平民と結婚できないとかそういったものもない。まさに平民でも王妃になりうるそんな不思議な世界なのだ。
そして、つがいをつがいだと認識できるのは片方だけらしい。主に男性なのだが、つがいがいると気付いたその時から本能的につがいを求めてしまうようで、本人は自覚しているらしい。もう片方は主に女性で誰がつがいかはわからないのだが、つがいとなる相手への目印が現れるのだ。
ただし、みんながみんながつがいなんてあるはずもなく、傾向として貴族に多く見られ、つがいに縛られない人々も多くいる。
こうして近年では、つがい同士が結婚できるようにつがいを求めるものと、体に印のあるものは必ず国に届け出る。
そして定期的にパーティーが行われ、そこでつがい探しをするのだとか。
つがいを求めるものは男性が多いことからハデス、紋様のある女性をペルセポネと呼んでいる。これは神話から来ているのだとか。
そしてわたしは、ルシア・アルノルド。十五歳である。アルノルド子爵家令嬢で、長女。それから前世は日本という国で暮らしていた異世界転生者というものだ。といっても思い出したのはつい最近でそれ以前の記憶があまりないのだけど。
そしてこの国は前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だった。その中でわたしはゲームを盛り上げる役だったはずなのだが……
わたしの左太腿の内側、付け根のあたりにはなぜか蝶の模様が描かれている。おかしい。ゲームの中の彼女は確かつがいなど全く関係ないただのモブだったはずだ。意地悪をする悪役令嬢の取り巻きというポジションで、特に特徴なんてなかったはずなのに……
首を捻る。捻りまくる。
困ったわたしはお父様に聞いてみることにした。
「お父様、わたし紋様なんてなかったですよね?」
いきなり意味のわからないことを話す娘に困惑しているお父様は、怪訝な顔をしながら答えた。
「子供の頃に、神殿へ行って隅々まで調べられるだろう?忘れたのか?」
「そう言えばそうでしたね。申し訳ありません。変なことを言ってしまって」
未だ怪訝そうな顔をしているお父様の部屋を後にして自室に戻る。
この紋様、突然現れるなんてことあるの……? お父様がないというのならないのでしょうけど。そうだ、湯浴みや着替えを手伝ってくれる侍女に聞いてみればいいのね。
「ローラ、わたしに紋様なんてないわよね……?」
「おかしなことを聞くのですね。小さい頃からお世話させていただいていますが、見ておりません。小さい頃に検査もされておりますでしょう?」
そうよねぇ……。どうしましょう。侍女が気づいていないってことは、このままでも気づかれないのかしら。
よし、最後まで隠し通して、普通の恋愛がしたいわっ。誰かに強制的に決められた相手なんてごめんよ。
「そうだったわね」
直近で誰かに見つかる可能性があるのは乙女ゲームの舞台でもある学園だろう。不特定多数の貴族が通うのだ。そんな中に集められたらもしかしたらわたしのハデスに見つかるかもしれない。それは避けたいのだ。
どうしよう。学園に通わなくていもいい方法が何かないかしら……
よくあるのは病弱だということだけど、生まれてこのかた健康体だ。風邪すら滅多に引かないのにそれは無理がある。
後は……駄々をこねる? いや、ちょっと流石にそれはできない。
諦めるしかないのか……
あ、いや待てよ。確かこのゲーム、目的の攻略者とつがいになるためにつがいの紋様を隠す薬があったはず。このゲームは幼い頃のパーティーで初めに出会った人物とつがいになる設定だったはずだ。ただし、裏ルートに行く場合はつがいの紋様を隠す薬と、特殊クエスト攻略報酬の薬を使うと裏ルートに行けるはず。
この裏ルートというのが、好きな攻略対象者と恋愛を経てつがいの紋様が浮き上がってみたいな話だったかな。
パーティーで出会うのは攻略対象者五人の中の二人だけなのだ。そのほか三人は裏ルートへ行かないと結ばれない設定だったはず。
攻略が簡単な二人は確か騎士と宰相家嫡男だった気がするな。後は、第二王子殿下と公爵家嫡男、それと王弟殿下だったはずだ。あまりはっきりとは覚えていないけど。
それに紋様を隠す薬を飲むと、一時的に相手につがいだとバレないらしい。ちょっとお高いけど、元々浪費する方じゃないからお小遣いは溜まってる。多分買えるはずだ。
効果は多分長いはずだ、多分。そうしてわたしは、こっそりと出かけ、お店の場所までゲームの知識を頼りにお店まで出かけることにしたのだった。
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