【R18】この華は紅く芽吹く

蒼琉璃

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この華は紅く芽吹く

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 アウラの母は、その美貌とは裏腹にいつも目の下に隈を作り、人目を避けて、買い物や裁縫の仕事をしていた。
 年老いた両親と共に暮らしていた内気で信仰心の厚い彼女は、結婚もしていないと言うのに、お腹が大きく膨らみ始めていた。
 両親は相手の男を問い詰めたが、彼女自身が、敬虔な信者である事はよく知られていたし、恋人と呼べるようなふしだらな関係にある男は居ない、相手に覚えもないと泣きながら訴えたので、祖父母は娘の言葉を信じる事にした。
 悪魔憑きを疑われたが、この村では中絶する事は許されなかったので、父親不在のままアウラを産んだ。
 アウラをとても可愛がってくれた優しい祖父、祖母は彼女が五歳になる頃に、病気で他界する。
 それからは祖父母の家で、母と二人きりの生活が始まった。
 アウラの記憶の中にある母は、綺麗な人だったが、厳格で、神経質で、気まぐれで口うるさく、時々自分の娘の事を、まるで化け物でも見るような目で、見下ろしていた。

「ママ、アウラのパパはどこにいるの?」
「お前の父親は、闇に隠れてやってくるの。神に見放された、哀れな悪魔なのさ」

 母の機嫌が良い日に、父親の事を尋ねると、彼女はまるで魔女のようにクシャクシャと表情を歪ませて、悪態をつく。どうして、母は父を憎んでいるのだろうと、アウラはぼんやりと思っていた。
 アウラが六歳になった頃、母は街角に立つ娼婦のように化粧を濃くして、入れ代わり立ち代わり我が家に男を連れ込むようになる。
 子供ながらにアウラは、母がいかがわしい仕事をしているのだろうと思っていた。
 そんなある日の事。
 プラムで作った蒸留酒ツイカを飲み、酔っ払っていた母を心配そうに見ていたアウラに言った。

「何を見ているの。アウラ、お前は日に日に美しくなっていくわね。肌も髪も、私より綺麗になって。あの人に愛されるつもり? 憎らしい……憎らしい。あの人がようやく私に会いに来たかと思ったら、お前を引き取りたいだなんて!」
「パパがアウラに会いに来たの!」
 
 目を輝かせたアウラに、母は無情にも手を上げると、頬を叩いた。アウラは冷たい床に転がりながら、母が抱いている、奇妙な感情の意味を考えていた。
 
(ママは、アウラに取られたくないくらいパパが好きなのね)

 幼いアウラにはまだ、漠然とした答えしか思いつかない。けれど、自分と同じように母が父に愛されたいと願っているという事だけは分かる。
 アウラは、会った事も見た事もない父が、母よりも自分を選んだ事に例えようもない優越感と喜びを感じた。

「今日の食事は無しだよ。さっさと寝な」
「……はい。ママ」

 アウラは沈んだ声で頷いた。
 こんな事はしょっちゅうで、育ち盛りの彼女が空腹に耐えられるはずもなく、ぐぅぐぅと腹の虫が鳴いている。
 城塞教会を中心に、赤茶けた屋根が群生するこの村で、母が眠った後にアウラは、近所の家の一軒一軒扉を叩いては物乞いをする。残ったパンをくれる優しい人もいれば、ロマ人のような真似をするな、と注意をする村人もいた。
 時には、真冬に彷徨さまよう幼いアウラを哀れに思って、暖炉の前でスープを食べさせてくれる親切な村人もいる。

「アウラ。もう、暗闇の中を歩くのはおよし。人さらいや、闇の貴族の吸血鬼ストリゴイに連れ去られてしまうよ」
「暗闇なんて、ちっとも怖くないわ」
「早くお帰り。そして主に祈りなさい。あんたが娼婦の子でも、主はお救い下さるわ」

 この村では日が暮れれば、全員が家の中に閉じこもる。夜になると、人の生き血を吸う吸血鬼が徘徊はいかいすると信じられていたからだ。
 串刺し公の事を吸血鬼だと恐れる他国の者もいるが、彼はこの国の英雄で侵略者から国民を護った王である。
 村人達が恐れる、闇の貴族ストリゴイは遥か昔より存在し、人の生き血を求めて夜闇から現れ、処女や童貞の血を吸う。
 アウラは、爪先がボロボロに破けた靴を履きながらランタンを片手に彷徨っていた。
 今夜のおこぼれは、パンの欠片とチーズだけ。これだけでは物足りない。
 ふと、遠くでぼんやりとした明かりと陽気な音楽が風に乗ってやって来た。

「あれはなぁに……? お祭りでもしているのかしら。ううん、違う……! あれはサーカス!」 

 民族衣装を纏って村中を歩く祭りかと思ったが、そうではないようだ。アコーディオンの音と、陽気なラッパ、ふざけた笛の音に、軽やかな太鼓がドンドン鳴り響く。
 その音楽にアウラは、誘われるようにして、星屑が散りばめられた天幕のサーカステントの中へ導かれて行く。
 炎に包まれた輪に飛び込む猛獣。
 白いチュチュを着た美しいバレリーナ。
 スキンヘッドの小太りの男が炎を吐く。
 赤い風船を持ったピエロは、おどけながら踊っていた。

「わぁ、きれい」

 アウラは、まるで美しくて妖しい悪趣味な夢を見ているような気分になった。彼らは幼いアウラを一瞥いちべつするだけで、話し掛ける事もなく、それぞれの役割を演じている。
 ぼんやりしながら、歩いていくと暗幕の隙間から、するりと黒衣の男が現れた。
 炎のように燃える赤い髪に、長い睫毛。神秘的な美貌。そして血のように紅い瞳が印象的だった。年齢は三十代くらいに見える。
 シルクハットをゆっくりと脱いだ男は、幼いアウラの心を掴んだまま離さなかった。そして、彼女は本能のままに強く確信した。

(パパが迎えに来たんだわ!)

 なんて美しい人だろうとアウラは思った。まるで広場にある彫刻のように、完璧な造形で、見つめていると吸い込まれてしまいそうになる。彼はアウラに小さな薔薇の花束を差し出すと優しく囁く。

「お前がアウラかい?」 

 その仕草も貴族のようで、指先まで惚れ惚れしてしまうほど、繊細な動きをする。

「ええ! やっぱりパパが迎えに来たのね」
「――――どうかな。私は怖ろしい悪魔かもしれないよ」 
「嘘、絶対にアウラのパパだわ!」
「ふふ。私を恐れないとは面白い子だね。私と共に来るかな、アウラ」

 大きな手を差し伸べられたアウラは、迷う事なく頷き、冷たい彼の手を取った。
 

 ――それが、アウラと『彼』との出会いだった。


✝✝✝

 ――ミハイ・ドラレイン。
 それが彼の名前である。
 彼は深いモミの木に囲まれた薄暗い城に住んでいた。ミハイは初めて出逢った時から、刻が止まったかのように美しいままだ。
 昼間でもこの森は薄暗く、寒々しい。
 ミハイの活動の時間のほとんどが夜で、明るいうちに活動をする時は彼が始祖ちちと呼ぶ、フランシス公から貰った、家紋の紋章が刻まれた指輪を、肌身離さず持っている。そして彼は、人前で決して食事を取らず、真っ赤なワインで喉を潤すだけだ。
 
「――――お父様。何時いつになったらわたくしにも、そのワインを飲ませて下さるの」
「アウラ、お前にはまだ早いだろう。だが、このワインをねだるのは、おませなアウラだけだね。他の娘達は、私のワインより別の事に興味があるようだが」
「わたくしはもう成人しましてよ。あの子達はドレスや宝石、異性にしか興味がありませんわ。わたくしはお父様と同じ時間を共有し、同じ物を飲みたいのですわ」

 アウラが城に連れて行かれると、そこには二人の少女がいた。どの娘も自分と同じようにみすぼらしい姿で、目をギョロギョロとさせていたのを覚えている。黒髪の少女がセラ、茶色の髪の少女をカテラと名乗った。
 ミハイは、三人を保護しそれぞれに教育係と侍女を付けて、何不自由なく成人するまで、大切に箱庭の中で育ててくれた。
 他の娘達はちっとも彼の素性を気にしないが、ミハイは闇の貴族、吸血鬼ストリゴイだとアウラは確信していた。
 深夜に訪れたミハイが、アウラの手首や指、首筋に牙を立てて喉を潤している事はぼんやりと記憶の片隅に残っている。
 贅沢が大好きな、我儘で意地悪なセラや、丸々と太ったカテラの部屋にも、恐らくこの美しい吸血鬼は訪問しているだろう。あの血のように紅いワインだって、自分や彼女達の血液かもしれない。
 そんな事を考えると、アウラの嫉妬の炎に心が焼かれそうになる。自分以外の娘で喉を潤すミハイの姿を思うと、嫉妬し、独占欲に狩られるのだ。

「アウラは甘えん坊だね」
「お父様だからですわ。だってわたくしはお父様と、結婚したいくらい愛していますのよ。子供の頃からずっと、お父様にそう伝えていますのに」
「ふふ、そうだね。アウラは子供の頃から変わらないようだ。光栄だが、あまり父を困らせないでくれ。お前と愛し合う御子息が現れたら、私は素直に送り出せなくなるからね」 

 ワインを飲むミハイの膝に両手を乗せて寄りかかり、彼を見上げるアウラは、不満そうに彼を見つめた。ミハイは青白い冷たい指先で、彼女の頬を撫でる。
 それだけで、アウラは天にも登るほどの高揚感を感じた。社交界で出逢う、どんなに身分の高い美しい貴族の異性も、ミハイほど魅力的で心惹かれるような存在は居なかった。

(嘘つきね、ミハイ。わたくし達を保存食にしているくせに、結婚なんてさせるつもりはないはずですわ。けれど、わたくしにとっては、その方が都合がいい。ですが……あの子達が邪魔ですわね)

 大人になるにつれてアウラも、ミハイが実の父親ではない事くらい理解していた。いつまでたっても、彼女は血の乾きを覚えず、人間を吸血したいという欲求が、沸いて来ないのだから。
 今なら、足繁く教会へと熱心に通っていた母の行動からして、実の父親が誰なのかなんとなく察する事が出来た。
 例え、自分の存在が保存食だったとしても、彼の側で死ぬまで共に一緒に居られるのならば、構わないとアウラは思っていた。
 他の娘達は、養父であるミハイを父として敬愛しているが、アウラほど彼を特別に愛している者はいないだろう。

(わたくしは、貴方の特別になりたいのですわ。ミハイと釣り合うよう勉学に励み、教養を身に付けたのは、貴方に妻として選ばれる為ですのに)

 そして、アウラはついに以前から考えていた、怖ろしい計画を実行する。
 意地悪で我儘なセラを、バルコニーから突き落とした。そして、外出を渋るカテラを湖畔にまで連れ出し、彼女を薬で眠らせると、そのまま溺死させた。
 カッコウは、親の愛情と餌を得る為に巣の中にある他の卵や、孵化ふかした、義兄弟の雛を、巣から落とすと言うが、アウラもまた同じで、淡々と彼女達の命を奪った。

(わたくしの体は人間でも、心は化け物なのかもしれないですわね)


✝✝✝

「娘を二人も失ってしまうなんて、なんという事だ」

 ミハイは深い溜息をつき、ワイングラスを置くと、額を指で押さえて溜息をついた。アウラは悲しみにくれるミハイの隣で寄り添い、冷たい彼の手に指を添える。
 二人の葬儀を終え、嘆き悲しむミハイにアウラは囁く。

「これからは、わたくしがお父様を支えますわ。ですからどうぞ、わたくしの血で喉を潤して頂きたいのですわ、ミハイ。もう二人はいらないでしょう?」
「お前はやはり気付いていたのだね」
「わたくしは貴方をずっと注意深く見ていましたもの」
「嫁ぎ先が見つかれば、お前たちの記憶から私の存在を、消すつもりだったのだがね」
「そして、貴方は新しいむすめを養女に迎えるのですわね。貧しい娘は裕福な家庭に育ち、貴族の家に嫁がせるなんてお互いの利益は一致しますわね。けれどお父様、その方々は闇の貴族ではなくって?」

 アウラは、ミハイの腕に絡まりながら蕩けた瞳で彼を見つめた。娘達を慈しみ、何不自由なく愛を注いでくれた養父は、優しくも残酷だ。
 彼等の生命線となる血を確保し、新たに血を欲する闇の貴族達へと、手塩に掛けた娘達を嫁がせるのだから。

「お前は賢い子だね、アウラ。お前たち人間が家畜を育て食べるように、私達にも人間の血が必要なんだよ。昔と違ってこうして私達は人間と共存しているのだ。理解しておくれ」

 ミハイは溜息混じりにそう言いながら、アウラの細い首に指を這わせた。
 
「私は哀れな少年少女に手を差し伸べ、教育し、望まれる場所に出荷するのだ。しかし、手塩に掛けたセラとカエラが、お前の手によって殺されてしまうなんて、予想もしなかった事だよ」

 しかし、彼女は少しもミハイに恐怖を感じない様子で、うっとりと見つめる。長い睫毛から覗く血のように紅い瞳は凍りついていて、怒りのままにこのまま首をへし折られてもおかしくはないというのに、アウラは彼に魅せられている。
 このままこの手で殺されたって良い、本望だと思うくらい、ミハイを深く愛していた。

「ずっと、わたくしはお父様を独占したかったのですわ。他の娘の血なんて飲んで欲しくなかったんですもの。わたくしがこうして教養を身に付けたのも、ミハイ、貴方の妻になる為ですわ。でも貴方がわたくしを殺すというなら、それでもいい」
「ああ、本当に困った子だね、アウラ。お前が一番、貴族ファミリーからのご指名が多かったと言うのに。本当に私の妻になりたいのかい?」
「ええ、初めて出逢った時から、そう願っておりましたわ。貴方の世界に、わたくしを連れて行って下さいませ。ミハイと共に生きていけるなら、人間である必要なんてありませんもの」

 アウラはそう言うと、ミハイの頬に両手を添えて唇を重ねる。触れるだけの口付けに、彼はソファーの上でされるがままになっていた。アウラの柔らかな金髪を撫でるとミハイは言う。

「共に育った義姉妹を、なんの躊躇もなく殺せるお前は、人間よりも私達に近いのだろうね。私の作り出した幻覚のサーカスでお前に出逢った時、私は怖ろしい悪魔だと名乗ったはずだが、お前は全く怯えず、なんの迷いもなく私の手を取った」
「お願いよ、ミハイ。わたくし以外は愛さないで」
「永遠が欲しいのかい、アウラ。私がお前を迎え入れれば、永遠に私と離れる事が出来なくなる。他に年の近い、素晴らしい御子息もいるだろうに。人間として安らかな死を迎える事も出来ないだろう。それでも後悔はないのだね?」
「なんの後悔もないですわ。わたくしにはミハイが居ればそれでいいの」
「ふふ、根負けだな。お前を迎え入れよう」

 アウラの答えは揺らぐ事はなかった。青白く冷たい指先が、華奢な首筋を撫で、ミハイが顔を近付けると白い肌に、牙が立てられる。

「あっ……あぁっ……!」 

 鋭い痛みが走り、次の瞬間に痺れるような快感が全身に走った。吸血される度に陰部がじわりと濡れる。
 深い夢の中で、ミハイに牙を立てられ浮き沈みするような快楽に飲み込まれていた日々よりも、もっと甘くて蕩けそうな感覚に、アウラは彼の広い背中に腕を回した。
 血を吸われ、やがて意識が朦朧もうろうとするアウラの首に、ミハイは手を掛けると、ギリギリと締め上げられた。

「はぁ……やはり、処女の血はまろやかだ。特にお前の血は格別だったから、残念だがね。さぁ、一度目の死を」

 呼吸が出来なくなったアウラはそのまま絶命する。ミハイの膝の上で寝かされ、暫くするとアウラは目を見開き息を吹き返した。
 今まで感じた事がないほどの激しい喉の乾きに、アウラはミハイに手を伸ばす。彼はアウラの髪を撫でながら、自分の手首を差し出すと、本能的に血管に歯を立て、血を啜り始めた。

「良い子だね、アウラ。落ち着いてゆっくり飲むといい。さぁ、これでようやく私と共にワインを嗜める」
「ミハイ……んっ……嬉しいですわ。これが新しい世界。これが貴方が見ていた世界なんですわね」

 アウラの金髪がさらに波打ち腰まで長く伸びると、薄い灰色の瞳が血のように紅く染まる。その肌は青白く血色を失い、突き出た牙がゆっくり元に戻ると、ミハイに口付けをねだるようにして唇を重ねた。
 舌を絡めると、互いの血が混じり合って呼吸が荒くなる。

「ふふ、本当に欲しがりな子だね。私のような悪徳仲立人ブローカーの妻になりたいだなんてね」
「もう、子供扱いしないで下さいませ……んっ……ずっと、大人になれる日を待ち望んでおりましたもの。愛していますわ、ミハイ」
「私も愛しているよ、アウラ。新しい指輪が必要だね。家族が増えて始祖ちちも喜ぶ事だろう」

 そう言うと、ミハイは華奢なアウラを抱き上げて寝室へと向かった。


✝✝✝

 太陽の光を遮るような黒いカーテン、漆黒の重厚な天蓋付きのベッド。二人を照らすように、オレンジの燭台が揺らめいていた。
 白いシーツに寝かされたアウラは、ミハイの唇と舌の感触に酔いしれる。甘い血の味は消え、やがて二人の粘膜に変わった。口腔内を舌先でなぶられ、犬歯を擽られると、甘い声が漏れる。

「はぁっ……ぁっ……んっ……んぅ……は……んぅ、これが口付け……? んっ……はぁ、熱い……蕩けてしまいそう……んっ……んぅ」
「ん……そうだよ。お前が待ち望んでいた快楽を与えよう」

 ミハイは唇を離すと、首筋に舌を這わせた。泡立つようなゾクリとした快感に、アウラは彼の広い背中に抱きつく。首筋を伝う唇が張りつき、大きな掌が太腿を撫でた。
 ドレスから零れ落ちた柔らかな乳房に、ミハイが慈しむように口付ける。長い舌が豊かな乳房の輪郭をなぞると、アウラは腰を軽く浮かせた。

「んっ、はぁっ……あっ、ああっ、んっ……はぁっ、ミハイ、気持ちいいですわ、はぁっ……あっ……はっ、んんっ……」
「アウラ、本当に美しい。私はお前の真摯しんしな気持ちに気付いていたが、見ないふりをしていたのだ。いずれ手放さなければならない娘だったから……。それに私の役目はお前達を保護し、立派な淑女や紳士に育てる事。それが毎回うまく行くわけでもないが、曲りなりにも私は養父なのだから、アウラを愛してしまっては、ならないと思っていたのだ」

 薄紅色の乳輪に舌が絡み付くと、さらにアウラの甘い声が部屋に響いた。熱い舌が敏感な乳頭の周りを舐め、アウラは彼の赤髪を撫でる。自分の意志とは無関係に、先端が硬くなり勃起する。
 うねうねと蠢く舌が、執拗に周囲を愛撫し、撫で回すと、先端を潰すように舌で押し付けられ、喘いだ。

「はぁっ、あっ、やっ、あんっ、んっ、ひっ……はぁっ、ミハイ……はぁっ、あぁん……わたくし達に、人間の道徳なんて必要……かしら?」
「ふ……。そう、私達は闇の貴族だね。神や人間が作った道徳感など関係のない話だ」

 乳房を揉んでいたミハイは、ふと笑みを零すとドレスを捲し上げて、無毛の恥丘に口付ける。閉じた脚の上から見える蠱惑こわく的な割れ目クレバスを舌でなぞると、両足を開いた。

「はぁっ……み、ミハイ……? なにをされますの……その……わたくし」
「アウラは、積極的に私を誘うが、あまりセックスの事は知らないのかい?」
「いいえ。わたくしの母が、娼婦になってからは、毎晩男性を連れ込んでいましたの。でも、わたくしはそれが嫌で、自分の部屋に逃げ込み、耳を塞いでベッドの下に隠れていましたの。ですから、わたくしは……」
「そうだったね、アウラ。怖がる事はない。これは、私からのアウラへの愛の奉仕なのだから」

 ミハイはそう言って笑うと、アウラの両足を開いた。吸血でじわりと濡れていた陰部に顔を寄せ、長い舌で優しくそこを舐めた。
 割れ目を開くように、舌でこじ開け重なった肉の花弁を優しく丁寧に愛撫すると、わなわなとアウラの太腿が震える。

「はぁっ……あっ、んっ……ああっ……はっ、んぁっ……んっ、ぁっ……ああっ、ミハイ……はぁっ……ミハイっ……はぁっ……あぁ」

 子供の頃に聞いた、母のおぞましい嬌声、あの獣のような声はどうして出るのだろうと思っていたが、深く陰部を口付けられ、舐められると、抵抗が出来ないほどの快感が押し寄せてくる。
 ぷっくらと膨れた陰核を、ミハイが口に含むと吸い上げ、転がすように舐めた。

「ひっ、あ、あぁっ……あんっ、気持ちいい、ミハイっ、はぁっ……んっ、あっ、はぁっ、そこ、んぅ……すご、い、んっ……はぁっ、だめ、変になりますっ……わ!」
「アウラの陰核クリトリスがこんなに硬くなっているね。可愛らしい敏感なここを責めてあげよう。はぁっ」

 ミハイの指が、アウラの陰裂を開けると硬くなった陰核の粒を舌で突付き、上下に舌を動かして、弱々しく硬い粒を扱く。アウラはシーツを握りしめて体を反らすと、頭の奥で火花が散って、真っ白になる。

「~~~~ッッ!」

 彼女が絶頂に達するのも構わずに、ミハイは陰核に吸い付くと、素早く舌を動かして、つけ根から上下に舐める。膣口から溢れた愛液を指でなぞると、中指をゆっくりと挿入した。

「はっ、はっ、あ、ああっ……んぁっ、気持ちいい、はぁっ、お父様っ……ああっ、もっと……あっ、やぁぁっ、はぁぁ、やぁ、あっ、あふっ、あんん、凄い、蕩けそう」
「はぁっ……お父様と呼ばれると、とても背徳的に感じるな。ふふ、アウラ。こんなにいやらしい蜜を垂らして、私の指を受け入れるとは、健気だな。毎晩、私に吸血される度にアウラは、ここを濡らしていたのかな?」

 ミハイの長い睫毛から見える紅い瞳に見つめられると、興奮して腟内なかが収縮する。上品で美しいミハイが、自分の不浄の場所を舐め、指で愛撫をしていると思うだけで感じてしまう。
 じゅぼ、ちゅく、にゅり、じゅぶ、と卑猥ひわいな音を立てながら指を動かされると、アウラの媚肉は喜びに震えて、ミハイの指を締め付けた。
 優しく出入りを繰り返し、敏感な陰核の皮を剥き、舐められると快楽に追い詰められた彼女の陰部から、愛液が飛び散る。

「んぁぁっ、はっ……あっ、んん、そうですわ。ミハイの牙が……はぁぁん、突き立てられる度に、あっあっあっ、はぁ、お父様に血を吸われる度に、わたくしはいやらしく感じておりましたの、はぁっ、ああんっ……ひっ、だめ、イクッ、あぁぁ!」

 ミハイの指の腹が、陰核の裏を撫で回す。
 はさみ打ちするように唇で、陰核と周囲のヒダを甘噛みし、追い詰めるように嬲ると、アウラは唇の端から、唾液を垂らしながら、ガクガクと体を震わせた。
 ねっとりと舌を離し、ミハイは薬指をさらに挿入させてアウラの腟内なかで指を動かした。
 ミハイの指の腹が、クニクニと奥にある硬くなった壁を押すと、彼女は耳まで紅くなり息も絶え絶えになって喘いだ。
 吸血よりも激しい感覚に飲み込まれ、快楽に理性を刻まれるようで、アウラはされるがまま、指の愛撫に蹂躙じゅうりんされていた。

「あ、あっあっあ! はぁっ、あっ、あんっ……ミハイ、はぁぁっ、あっ、あっ、はぁっ、あぁ、もうっ……んんっ、あっあっ、はぁ、だめ、わたくし、イクッ、イクッ! ああっ、やぁぁっ、~~~~ッッ!」
「はぁ……。そろそろ私の方が我慢出来なくなってきたよ、アウラ」

 開けた服から見える、ミハイの胸板や腹筋に、アウラは鼓動が早くなるのを感じた。彼のそんな姿を見たのは、生まれて初めてだ。
 ミハイは、ベルトを外して勃起した陰茎を取り出す。濡れた花弁に先端を擦り付けると、ミハイは、未開の地に分け入るように濡れた膣口に挿入した。
 ようやく、最愛の人と一つになれた喜びでアウラは歓喜の声を上げる。

「やぁぁんっ……!」
「はっ……処女喪失の痛みはないだろう、アウラ。はぁ……お前は死を乗り越えたのだから……久方ぶりにセックスするが、はぁ……きつい。直ぐに達しないように……しなければならないね」

 ミハイの陰茎を、根元まで受け止めたアウラは、喜びのあまりヒクヒクと媚肉を動かした。処女喪失の痛みはなく、逞しい陰茎がギチギチに自分の腟内にある事に、喜びを感じて瞳を潤ませる。

「あぁっ、んあっ、はぁぁ、ミハイっ、あっ、んんっ、はぁっ、あぁぁ、ミハイがわたくしの腟内なかに、はっ、ああっ、あんっ、あぁ、気持ちいいっ、やぁぁんっ」

 ベッドが軋む音に混じって、愛液と陰茎が絡まる粘着音が響く。出入りする度に媚肉が、陰茎のカリを締め付け、吸盤のように吸い付いてくると、ミハイの呼吸が艶っぽく乱れた。貪欲に、アウラの腟内なかは彼の形を覚えようとしているようだ。
 陰茎が腟内なかの上部を擦り、奥にあるグニグニとした突起を刺激すると、アウラは喉を仰け反らせる。

「~~~~ッッ!」
「アウラ、はぁっ、触れてみるといい。私とお前はこうして繋がっているのだよ」

 アウラは指先を、結合部に沿わされると、確かにミハイの竿が、自分の入口を出入りしているのが分った。こんなにもはしたなく彼を受け入れ、とめどなく愛液を垂らしているのだと思うと、羞恥と喜びで胸が震える。

「あ、ああっ、んんっ、ミハイがわたくしの腟内なかを犯していますのっ、あっあっあ、気持ちいいっ、あんっ、はぁ、もっと、もっと突いてっ……! あ、ぁぁあ」
「アウラ、はぁっ……私を煽るなんて、はぁっ……。こんなにも魅惑的な新妻に逆らえる夫などいるだろうか」

 アウラを抱きしめるようにミハイが覆い被さると、腰をグラインドさせながら動いた。お互いの冷たい肌を感じながら舌を絡め、乾いた音を立てて腰を動かすと、二人の絡まり合う淫靡な音が大きくなっていく。
 ミハイが、自分で感じていると思うと尚更アウラは、興奮を隠せず、快楽の虜になっていった。
 
「んぁ、はっ、はぁ、あんっ、ああっ、はぁっ、激しいっ、あっ、はぁっ、あんっ、ミハイ、一緒にっ、はぁぁ、あ、わたくしと一緒にっ、やぁ、あ、あぅ、ああ、くるぅっ……んぁぁぁ」

 愛らしい新妻の声に煽られるように、腰を激しく動かし、子宮の手前をゴリゴリと擦り付けると、アウラは彼の首に抱きついたまま絶頂に達した。
 冷たい体内に放出された精液にアウラは甘い吐息を漏らす。しかし、まだ二人の熱は冷めず、ミハイの陰茎は彼女の花弁の奥で勃起した。

「はぁっ、ん……もっと、もっと愛して頂きたいですわ、ミハイ」
「はぁ……アウラ、それでは私の上に乗ってごらん。こうするとお前が思うように好きなよう、貪欲に動ける」

 ミハイに腰を抱かれて、回転するとアウラの体は、彼の上に乗り掛った。彼の胸板に抱かれると、アウラは頬を染めながら、恍惚こうこつとした表情で頷いた。
 彼の手でドレスを全て脱がされると、アウラは美しい全裸姿のまま、濡れそぼった花弁にミハイの陰茎を飲み込む。
 利口な彼女は、どう動けば互いに快楽を得られるか、理解していた。

「はぁっ…… あっ、ああっ、わたくしのミハイ……はぁっ、んんっ、ああっ、あっ、あんっ、わたくしだけのものっ! あっ、あぁんっ、ようやく、あっ、んああっ、わたくしだけのものになるっ、愛していますわ。愛していますわ。もう、誰にも渡さなくてよ、ミハイ」
「ああっ……はぁ、貪欲だね、はっ、んんっ……アウラ、はぁっ……ふっ……美しい」

 その腰使いは未熟だったが、ミハイの腹筋にギリギリと爪を立てながら、乳房を揺らす姿は、官能的だった。数回上で腰を動かして、倒れ込んだアウラの髪を撫で、口付けると舌を絡ませる。
 両手で形の良い尻を掴むと、ミハイは下から激しく彼女を突き上げた。
 ずちゅ、ぬちゅ、くちゅ、くぷ、と淫らな音を響かせ、陰茎が素早く上下に動く。アウラは彼に縋りつきながら、犬歯を覗かせて喘いだ。

「あっ♡あっあっ♡♡ 激しっ、んんっ♡ はぁっ♡ んんっ、あっ、あっあっ♡ はぁっ、あっ、あっ、ミハイ、すごぃ、イクッ♡ はぁっ、気持ちいい、奥ぅぅ♡ もっと突いてっ、だめぇ、またイキますのぉ♡」
「アウラっ……はぁ、心地が良い……はぁっ、なんという、名器……だっ、絡み付いてくるっ……はぁっ」

 アウラは突き上げられるままに嬌声を上げ、ミハイの陰茎に悶えた。何度も頭の中が真っ白にになる。興奮で犬歯が伸びるミハイを見ると、彼の精を絞り取るかのように、アウラの腟内が蠢いて締め付けた。
 とうとう我慢の限界にきたミハイの、白濁した液体が放たれると、喜びでぶるぶるとアウラの体が震える。

「んぁぁぁ♡♡」

 そして、薄桃色の花弁から陰茎が抜き取られ、吹き出した欲望の残滓ざんしがアウラの白い尻に飛び散った。
 呼吸を乱しながら、二人は抱き合うとアウラは妖しくクスクスと笑って囁く。

「ミハイ、喉が乾きましたわ。真っ赤なワインが飲みたい」
「存分に味わうといい、アウラ。私の愛しい妻よ」

 膝の上に愛しい妻を乗せたまま、二人は極上のワインを交互に飲むと口付ける。人間の血の味は深く上質で、アウラが今まで飲んできたどんな高価な美酒よりも、美味しかった。

✝✝✝

 娼婦として生きていた女は、アウラを失った後悔から、やがて酒浸りになり、老いて客を取れなくなってしまった。
 物乞いをするようになって、いよいよ彼女は転がり込むように、修道院に助けを求める。
 かつて愛した神父が彼女に救いの手を差し伸べたのは、不貞の罪悪感からだろうか。
 彼女は蒸留酒ツイカを断つと、シスターとして孤児の面倒を見るようになった。
 シスターが深夜の祈りを終え、庭を見ると八歳のオーギュストが、ぼんやりと庭に立っていた。
 彼に手を差し伸べているのは、美しいドレスを着た女で、彼女は慌てて庭に飛び出すと声を掛ける。人攫いかもしれない。

「オーギュスト、お戻りなさい! こんな夜遅くに出歩いてはなりません。また手を鞭で打たれたいのですか。ここは教会の敷地ですよ、こんな夜分に何か御用ですか。神に助けを求めるのであれば、正面口からいらっしゃると良いでしょう」

 こんな綺麗なドレスを着た女が、真夜中に教会を訪れるはずもない。ゆっくりと顔を上げた女に、どこか娘の面影を感じて目を見開く。 
 オーギュストはちらりとシスターを見たが、女の手を握ったまま動かなかった。

「ふふ、わたくし達は神様に用はありませんわね。オーギュストは戻りませんわ。この子は、わたくし達の養子に迎えますの。もう鞭で打たれるような事もありませんわ。ねぇ、ミハイ?」

 二人の背後から、長身の美しい赤髪の男が現れると女の肩を抱いた。愛しそうに男の胸板に擦り寄ると、紅い瞳を光らせて妖艶に嘲笑う。

「それでは、永遠にさようならですわね。可哀想なお母様」
「あ、アウラ……!」

 男のマントが二人を覆い隠すと、女の笑い声と共に、夜の闇に跡形もなく溶けていった。


 END
 
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