そっと推しを見守りたい

藤森フクロウ

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ストーカーと幼い推し①

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 推しが尊いてえてえ

 こんにちは、今日も推しを全力でストーカー。
 人外転生を果たした、綾瀬寧々子。略してアヤネコ。
 顔はまんじゅう型フォルムに三角耳と円らな丸い瞳、シンプルマズルのついた標準でデフォルメスタイル。ただし首から下は200デニールタイツを思わせる純白の八頭身。背中にはチャック、中身は混沌のパンドラボックス。
 下手に推しをはじめとする人間に見つかったら、間違いなく不審者扱い。
 今日も今日とて、遠くからストーキング。今日も推しが美しければ、世界は美しいのです。
 いや、まだ10歳の推しは可愛らしさと美しさを絶妙なバランスで保つ奇跡の存在。

 尊いてえてえ(真理)

 推しは乙女ゲームで不遇な幼少期を過ごした、ちょっと警戒心の強い美人さんです。
 ヒロインちゃんの明るく屈託のない性格に癒され、絆されていくらしいのですが、ヒロインちゃんの登場は遥か未来。
 推しを酷い目に合わせてたまるかと暗躍する所存です。
 王宮の権謀術数に巻き込まれ8歳の時に母を暗殺され、10歳の時に王宮を追い出されるはずです。その2年間も命を狙われるという設定。
 全力阻止です。
 あ、推しとその弟妹のお茶になんか怪しい薬を入れているメイド発見。
 テメエに喰らわすぞ☆オルァ。
 闇討ちして、喉元を押さえて悲鳴を上げようとした口にアッツアツの紅茶を注いでやりました。悶えていたけどシラネ。
 お茶を注ぎ切ったころには、メイドは白目になってぶっ倒れた。
 この役に立たないどころか、推し達に仇為すメイドの代わりに私がサーブしますかね。
 転生特典でもらえたスマホ的ななものでちょちょいと調べ、美味しいお茶の淹れ方を検索。
 あーっ! この茶葉湿気ってんじゃねーか! こんなん推しに飲ます気だったのか、あの糞駄目イド!
 このスマホってTP溜めるとカミゾンで通販できるらしい。TPって何かって?
 徳ポイントだって。善行を重ねたり、人の役に立ったり、人の信仰を集めることができると神の使いとしてレベルアップするらしい。
 私は神の使いで、天使の一種らしい。
 中身、推しのことしか考えていない俗物オタクなんですが。

 お茶を淹れて気づく。

 推しにどうやって運べばいいの……?

 いや、天使とは名ばかりの外見モンスターよ?
 一瞬頭を抱えたが、ちらりと見た推しは読書中。
 ………推しは別にS級冒険者とか、伝説の勇者じゃないしそっと置いてそっと退場すればイケる?
 TPで高級クッキーセットを発注し、ティーセットをワゴンに乗せて推しに近づく。本に夢中の推しにテーブルにそっとカップとクッキーを置いて逃げた。
 暫くして、紅茶に気づいた推しは「いつの間に」とぽつりとつぶやいて、そのままカップを持ち上げて傾ける。
 推しが一瞬止まった。
 え……淹れ方間違えた? 嘘、ちゃんと調べて温度管理してやったよ!?
 アヤネコアイのサーモグラフィー機能を全力作動させて、温度管理したよ!?


「……美味しい……」


 そういって、頬を緩めこくこくと飲み始める推し。推しの喜びに悶える変態が一匹。我が人生に悔いなし、と口から魂が昇天して大気圏を突破しそう。
 だが、寸でのところで踏みとどまる。やることがあるから。
 あの糞メイド、今まで推しにどんな紅茶を出していた。
 死体蹴りをかましたろか。
 少し多めのクッキーと、傍にあるもう二つのカップにも気づいた推しは弟妹達を呼びに行った。
 よっしゃー! 今のうちにテーブルセットを野ざらし使い古しの木製じゃなくて、真新しいクルミ製+白レースのテーブルクロスに変えるんじゃー! 
 あとケーキスタンドとスコーンとジャムとクロテッドクリームじゃー!
 ここのメイドは使えねー奴らばかりなので動きやすい。

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