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連載
スキル、ボッシュート
しおりを挟む思いがけないシンの一言に、百戦錬磨の貴婦人たちにざわめきが広がる。
エマに操られていた男たちを縛り上げていた面々も、その時ばかりはこちらを向いた。
神子だと威張り散らし、神の意を振りかざしたくないが、主神からのお願いが来ているのは事実。
「こちらとしても、エマの魅了の力はさっさと失くしてもらったほうがありがたいわね。
これだけ対策を用意し、スキルの弱体化をしたのに完全に無効化することはできなかった……使っているのは馬鹿だけれど、ポテンシャルは洒落にならないもの」
マリアベルが床に転がされたエマを見下ろしながら言う。
ティンパインの王宮魔術師たちが労力と魔力と知恵を絞りに絞りまくっても、エマのスキルを完封できていない。これは脅威だ。
「陛下たちには、私から説明をしましょう。お願いします、神子様」
この部屋で一番高位である王妃マリアベルが了承をしたので、シンは頷いてエマに近づく。
『指先でエマに触れてもらえますか? どこでもいいので』
フォルミアルカの声が耳元で聞こえる気がする。
視線を動かすと、顔の横に丸い光がぽわぽわと漂っていた。綿毛を思わせる頼りなさで浮いている。
シンがエマを見下ろし、嫌々ながらに額に指先を触れさせる。つんつんと突くと、さっと手を戻した。
(これでいいでしょうか?)
『OKです! 回収と神罰完了です! エマはやりすぎでしたので、ちょっと反省してもらいます!』
神罰までと思ったが、エマの傲慢ぶりややらかしを考えるとそれもそうかと思い直すシンである。
ちらりとエマを見下ろすと額に大きな×が付いており、顔にビビットなピンクや紫のゼブラ模様が浮かんでいた。
目がちかちかする。えげつない色彩の暴力である。
『ファウラルジットから教えてもらいました! 若作りで美貌自慢のタイプには一番これがきついと!』
フォルミアルカにしては容赦ないと思ったら、美と春の女神からの入れ知恵である。
確かにエマが気づいたら盛大にショックを受けそうである。
ついでに他人を外見で判断して、やたら見下す癖をやめるきっかけになればいい。
『エマは随分と他の人から奪い続けていたようですね……返せるものは返しておきましょう』
何やらぶつくさ言っている球状主神フォルミアルカ。
光の球の周囲には小さな輝きがキラキラと舞っていたが、風が強く吹いたかと思うとすべて消えていた。
小さな輝きだけでなく、フォルミアルカも消えていた。
彼女の神域に戻ったのだろう。
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