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魔王の言い分

魔王と執事と人質と酒。

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並び順はサイファを真ん中にして、出口側にフェンリル、壁側に私だ。

普通ならこんな逃げられない配置は嫌だけど、そもそも拉致られてるし、一番偉い人が座る場所だと解釈することにした。


「好きなのある?」

と、ずらりと並ぶ酒瓶を指さしてサイファに聞かれた。

「わっかんないから同じのちょうだい」

と言っておいた。

フェンリルは「じゃあ俺も」と空気を読んだ。別に合わせなくてもいいのに……お前はいつものがあるだろうよ。


マスターが目の前にお酒を出される。宝石みたいに綺麗なカットの入った透明なグラスに、とろりとしたあめ色のお酒が注がれている。これだけですでに綺麗だ。

「とりかえっこして」

隣のサイファのグラスと交換する。

何をされたのかわからないようだ。サイファはきょとんと小首をかしげる。

テーブルに肘をついて、フェンリルが睨みつけてくる。

「おい、失礼にもほどがあるぞ」

「誘拐犯に言われたくない。私に文句があるならつべこべ言わず家に帰せばいいじゃない」

「そういうわけにはいかないんだよ。こっちはもてなしてんだ。立場を理解して、お客さんらしくしおらしくしてたほうがお利口だぜ?寒くて暗い牢屋にぶちこんだっていいんだぞ」

脅かす、というよりは、からかっていたぶるようにフェンリルが笑った。

このいじめられ方は嫌いじゃない。顔のせいかな。きゅん……。


「……あ。そうか!」

しばらくぼんやりしていたサイファが目を見開いて大きく頷いた。

「今までこんなことされたことないからわかんなかった!そういう意味か!大丈夫!何にも入ってないよ!」

合点が行ったらしく、何やら嬉しそうに肩をパンパン叩かれてしまった。

このリアクション見たら、出されたものを何も考えず口にしてもいい気がしてきた。これで騙されたら諦めよう。


フェンリルがサイファを肘でつつく。

「これまで何度毒を盛られてきたんだよ……」

「数えてないや。いっぱい?」

「気が付けよ」

「女の子に拒否られたことないからさ~」

人懐こいへらへらした笑みはゆる~くて締まりがない。魔王なんだよな、こいつ……まだこの事実を受け止めきれない。


サイファがグラスを持ち上げる。さっき私と取り換えたグラスだ。

「じゃ、乾杯ということで?」

「何に?」

とは私の質問。

「僕らの出会いとこれからに」

……私、人質だけど?

でも、人間関係は作っておいたほうが安全だ。悪いやつじゃなさそうだし。楽しそうだし。

まあ、いっか。
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