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魔王の言い分

魔王と執事と人質と酒。2

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普通に乾杯して軽く飲んでから。


「なんで魔王と飲んでんだかな!」

これ本当にわけわかんねぇな!


「本当に!僕もびっくりしてる~」

ヘラヘラ~と笑うサイファ。

その隣でフェンリルは不満げに呟く。

「お前が図々しいせいで段取りが狂った。今日やるはずの仕事が滞ってんだよ。まったく……人間のくせにどんな神経してんだ……」

「確かに予定は狂っちゃったけどさ、この方が楽しいって。こういう形じゃない出会い方したかったなぁ」

ねぇ?と首を傾げて見つめられた。

確かに。頷く。


「なんで人間と喧嘩すんの?そりゃ私は拉致られてるし、魔物に殺されたやつだっているけど、あんたら根っこは悪いやつじゃなさそうだよ」

政府から飛ばされてうちの村で役人やってるオッサンの方がよっぽど悪人っぽい。小物だけど。

「僕らとしても戦いたいわけじゃないのさ。でも長く続いた体制はすぐに変わらないね。それが戦いってこと」

「まだ魔王赴任三年目なのに、あんたはよくやってるよ」

フェンリルはぼそりと言う。声がいいせいなのか、言い方のせいか、妙に渋い。

「へぇ。三年目なんだ。責任重いでしょ。大変ねー」

「ありがとう。まだまだヒヨッコなんだよ」

「偉いよ。なんかビジョンがあって仕事してんでしょ?」

「そう。魔物は見た目のせいで差別もあるし、先代からの戦いもあるし……そういうの全部平たく取っ払いたいんだよね。だから今回、僕の代で人間側に勇者が出たことはありがたいんだ。『決着がつく』って啓示だからね」

真面目に、だけど楽しそうにサイファは言った。落ち着いた物言いのおかげで、内容がシンプルに頭へ入ってきた。

でかい目標を掲げているが、こいつならできそうな気がする。そういうカリスマがある。

もちろん、今すぐ完全に信頼しきるつもりではない。それは行動をもって示してもらうことである。

「そういう世の中を楽しみに待ってるよ」

おつまみがうめぇ。なんだろうこの卵。ふわっふわしてる。


そんな私をじぃっと見て、頬杖をつきながらニコニコしているサイファ。

「人間と魔物が偏見なく恋愛できる世の中っていいと思わない?」

「お前チャラいな……ほんっとにチャラいな」

「こうやって普通に話せる子がなかなか周囲にいないんだよ。男女問わずね。だから嬉しくってさ」


私はチラとフェンリルを見た。

頭は悪くないけど馬鹿を見そうな生真面目な正直者。神経質で気難しいからこそ裏切らないだろう。

うーん。魔王も苦労してんだろうな……。
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