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一人より二人
人質、決断を迫られる。
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答え辛い内容と眼力に、思わず視線をそらした。
「そ、それは……そこまでは言わないよ。諦めてくれればいいっていうか……」
「そうか……お前が人間の心を持っててよかったよ……」
フェンリルの皮肉も、いつもよりヒヤヒヤした細い声だった。
鳥肌が立つ。部屋の空気が急に何度か下がった気がした。
「これ冗談じゃないからね。勇者一行を殺したあとに友好関係を築いたように偽装してから不運な事故で失う方法もないことはない。僕ならできる」
ひんやりとした真顔だ。口元が笑わないだけでこんなにも冷たい顔になるのだ。
拳を握って逃げそうな足を踏ん張る。そうでもしないとフェンリルの後ろに隠れてしがみついてしまいそうだった。そんなの負けみたいなものだろう。睨みつけてやる。
「そういうの違うと思う。人間と和解するためにやってるって言っただろ」
「あぁ、ごめんごめん。腐った政治屋みたいな発想だったね。簡単な手段に逃げようとするのはよくない癖だ」
あははっ!と空笑いをあげて、サイファは椅子の背もたれに体重をかけた。
あ、いつものヘラヘラしたサイファに戻った。願わくばもう二度とあんな顔で見られたくない。感じたことのないタイプの生命の危機を覚えた。よくわからないけど、根本的に自分と感性とか住んでいる世界が違うのだろうな、と思わされる。
「……魔王様は人間界と魔界を三回滅ぼすことができる魔力を持っている、と言われている。実際にはやったことがないから平和なわけだが」
遠慮したように、フェンリルが控えめな小さい声で言う。
「自分より弱い相手を力でやりこめても何一つ得るものはないだろう。だから自分を通すレミィちゃんが大好きだよ。なかなかこうはやりあえない」
「お、お前!試したのか!からかったのか!?」
思わず机に手をバンとついてしまう。本気で怖かったから怒りに変わるスピードも速い。
サイファは唇の片方を釣り上げて笑う。素直ではない笑い方だった。
「そんなつもりはないよ。本気で聞いたさ。でもご指摘の通りだ。僕は間違っていた」
そうやすやすと認められるとなかなか二の句は継げない。
サイファは椅子から立ち上がる。そして、机についた私の手へ、自分の手を重ねてきた。大きな手がすっぽりと私の手を覆い隠す。
何!?と顔を上げると、サイファの顔が額をくっつけるくらいに近いところにあった。
近い!美しすぎる!
思わず腰が引ける。その分だけ追われる。
「僕ね、恋愛するの大好きなんだ。女の子が好きってのもあるけど、男女が対等にぶつかって勝負できるのはこれだけだと思う」
顎に手を添えられた。だからこういうのダメだって、根が単純だから弱いんだってば……。
ぐいと引き寄せられると紫色の瞳に陶酔してしまいそうになる。理性がやめろと言っているから、なんとかかんとか力が抜けず、惚れずに済んでいる。
「魔王城で素敵な恋愛してるんでしょ?僕とも勝負しようよ」
キス寸前のところで思わず目を閉じてしまう。それを確認したからか、サイファはすっと身を引いた。
うぐぐっ……!私っ……おあずけされた気分になっているんじゃないっ……!滅多に味わったことのない心臓のバクバクがすごく楽しい……!こんな感じで弄ばれたらメロメロになってしまうではないかぁ……!
サイファは再び椅子に腰かけた。ハルへのお手紙を人差し指と中指で挟んで、ひらひらと降る。
「この手紙は出しませーん。誘拐のことだけ伝言しとくね」
ダメだったか。
「そ、それは……そこまでは言わないよ。諦めてくれればいいっていうか……」
「そうか……お前が人間の心を持っててよかったよ……」
フェンリルの皮肉も、いつもよりヒヤヒヤした細い声だった。
鳥肌が立つ。部屋の空気が急に何度か下がった気がした。
「これ冗談じゃないからね。勇者一行を殺したあとに友好関係を築いたように偽装してから不運な事故で失う方法もないことはない。僕ならできる」
ひんやりとした真顔だ。口元が笑わないだけでこんなにも冷たい顔になるのだ。
拳を握って逃げそうな足を踏ん張る。そうでもしないとフェンリルの後ろに隠れてしがみついてしまいそうだった。そんなの負けみたいなものだろう。睨みつけてやる。
「そういうの違うと思う。人間と和解するためにやってるって言っただろ」
「あぁ、ごめんごめん。腐った政治屋みたいな発想だったね。簡単な手段に逃げようとするのはよくない癖だ」
あははっ!と空笑いをあげて、サイファは椅子の背もたれに体重をかけた。
あ、いつものヘラヘラしたサイファに戻った。願わくばもう二度とあんな顔で見られたくない。感じたことのないタイプの生命の危機を覚えた。よくわからないけど、根本的に自分と感性とか住んでいる世界が違うのだろうな、と思わされる。
「……魔王様は人間界と魔界を三回滅ぼすことができる魔力を持っている、と言われている。実際にはやったことがないから平和なわけだが」
遠慮したように、フェンリルが控えめな小さい声で言う。
「自分より弱い相手を力でやりこめても何一つ得るものはないだろう。だから自分を通すレミィちゃんが大好きだよ。なかなかこうはやりあえない」
「お、お前!試したのか!からかったのか!?」
思わず机に手をバンとついてしまう。本気で怖かったから怒りに変わるスピードも速い。
サイファは唇の片方を釣り上げて笑う。素直ではない笑い方だった。
「そんなつもりはないよ。本気で聞いたさ。でもご指摘の通りだ。僕は間違っていた」
そうやすやすと認められるとなかなか二の句は継げない。
サイファは椅子から立ち上がる。そして、机についた私の手へ、自分の手を重ねてきた。大きな手がすっぽりと私の手を覆い隠す。
何!?と顔を上げると、サイファの顔が額をくっつけるくらいに近いところにあった。
近い!美しすぎる!
思わず腰が引ける。その分だけ追われる。
「僕ね、恋愛するの大好きなんだ。女の子が好きってのもあるけど、男女が対等にぶつかって勝負できるのはこれだけだと思う」
顎に手を添えられた。だからこういうのダメだって、根が単純だから弱いんだってば……。
ぐいと引き寄せられると紫色の瞳に陶酔してしまいそうになる。理性がやめろと言っているから、なんとかかんとか力が抜けず、惚れずに済んでいる。
「魔王城で素敵な恋愛してるんでしょ?僕とも勝負しようよ」
キス寸前のところで思わず目を閉じてしまう。それを確認したからか、サイファはすっと身を引いた。
うぐぐっ……!私っ……おあずけされた気分になっているんじゃないっ……!滅多に味わったことのない心臓のバクバクがすごく楽しい……!こんな感じで弄ばれたらメロメロになってしまうではないかぁ……!
サイファは再び椅子に腰かけた。ハルへのお手紙を人差し指と中指で挟んで、ひらひらと降る。
「この手紙は出しませーん。誘拐のことだけ伝言しとくね」
ダメだったか。
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