お金がありすぎて困っています。 ――その言い方、嫌な女にしか聞こえませんわ』

「――お金に困っているそうですね?」

若くして侯爵家を継いだ貴婦人、
シグネット・フレッジリン。
亡き父が決めた婚約者・プロフィット公爵令息から、
彼女はある日、唐突に婚約破棄を告げられる。

理由は簡単。
金遣いが荒く、借金まみれで、
ベルフラワー公爵家の財産を狙っているに違いない――
そんな噂を、彼が信じ込んだから。

だが、その噂は「半分だけ」正しかった。

確かにシグネットは“お金に困っている”。
ありすぎて、その運用に困っているだけで。

婚約破棄を喜んで受け入れ、
静かに距離を取ったシグネットだったが、
やがてプロフィットは
小麦の買い占めによる大暴落で窮地に陥る。

破滅するのは、彼一人ではない。
使用人、領民、生活――
愚かな判断の結果に、無関係な人々が巻き込まれようとしていた。

「これは、施しではありませんわ」
「責任を引き受ける、ただそれだけのことです」

彼女は救う。
だが、それは元婚約者のためではない。
ましてや復縁でも、情けでもない。

引き受ける覚悟のない男は、最初から選ばれていなかった。

名声も賞賛も求めず、
誰かの上に立つことも望まない。
ただ、責任を引き受けるという基準だけを残し、
静かに世界を変えていく侯爵令嬢の逆転譚。

これは、
選ばれる物語ではない。
引き受けた者だけが立てる未来の物語。
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