婚約破棄された芋女ですが、北で砂糖を作ったら王国が甘くなりました

ふわふわ

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第七話 開店、そして甘味の反乱

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第七話 開店、そして甘味の反乱

 開店初日。

 北の風は冷たく、空は灰色だった。

 だが店の前には、見慣れない列ができている。

 農民、職人、商人の妻、子どもたち。
 誰もが半信半疑の顔で、看板を見上げている。

 ――ノルディック・カフェ。

 王都にしか存在しなかった「茶を飲む場」。
 だがここは違う。

 甘味を出すカフェ。

 私は深く息を吸い、扉を開けた。

「いらっしゃいませ」

 最初の客は、鍛冶屋の青年だった。

「本当に甘いものがあるって……?」

「ええ。こちらをどうぞ」

 私は焼きたてのパンケーキを皿に乗せ、てんさい糖のシロップをとろりとかける。

 ふわり、と甘い香りが広がる。

 店内がざわめく。

 青年が恐る恐るフォークを入れる。

 沈む。

 柔らかい。

 一口。

 目を見開く。

「……やわらかい」

 静まり返る店内。

「甘い……!」

 その声が、爆発の合図だった。

 次々と注文が入る。

 パンケーキ。
 焼き菓子。
 てんさい糖入りの温かいミルク。

 冷蔵室で保存していた乳は、まだ新鮮だ。
 寒さが味方している。

 私は忙しく厨房を動かしながら、冷静に計算する。

 原価は抑えられている。
 輸入砂糖を使っていない。
 蜂蜜も不要。

 利益は十分。

 そして。

 子どもが、声を上げた。

「もう一枚!」

 私は思わず笑う。

 王都では考えられなかった光景。

 甘味は貴族の特権ではない。

 ここでは、日常だ。

 昼過ぎには、行列は通りの角まで伸びていた。

 噂は瞬く間に広がる。

 北の地で、甘いふわふわが食べられる。

 しかも安い。

 夕刻。

 家宰が静かに告げる。

「王都の商人が、様子を見に来ております」

 私は振り向く。

 入口付近に、見慣れた衣装。

 商人ギルドの紋章。

 ついに来た。

 彼らにとって、これは脅威だ。

 南方から運ばれる砂糖の利権。
 高額な関税。
 独占価格。

 それが崩れかねない。

 商人がパンケーキを口に運ぶ。

 表情が変わる。

「……砂糖は、どこから?」

「北の畑から」

 私は微笑む。

 彼は黙り込む。

 理解したのだ。

 輸送も関税も不要。

 寒冷地でも生産可能。

 価格競争では、勝てない。

 商人は低い声で言う。

「その製法、公開されるおつもりで?」

「領地の発展のために、適切な契約ならば」

 私は一歩も引かない。

 甘味は、独占の道具にはしない。

 だが無防備にもならない。

 契約は選ぶ。

 夜。

 閉店後。

 売上帳を確認する。

 予想を上回る数字。

 てんさい糖の需要は急増するだろう。

 製糖工房を増設しなければならない。
 畑も拡張。
 人員育成も急務。

 私は窓の外を見る。

 暗い空の下、町に灯りが増えている。

 経済が動き始めた。

 甘味が、富を生む。

 そして。

 芋女と笑った王都の噂も、もう変わる。

 北の公爵令嬢が、白い砂糖を作った。

 ふわふわの菓子を売っている。

 莫大な収入を得ている。

 私は静かに椅子に座る。

 婚約破棄から始まった物語。

 絶望からの計算。

 寒さという伏線。

 てんさい糖という武器。

 ベイキングパウダーという爆弾。

 すべてが繋がり、今ここにある。

 北のお菓子の国。

 それは誇張ではない。

 もう始まっている。

 私は白い結晶をひとつまみ手に取る。

 灯りの下で、きらりと光る。

「甘味の反乱、ですわね」

 王都の常識を、甘さで塗り替える。

 シュガー・ビート公爵令嬢。

 芋女と蔑まれた名は、
 今や甘味革命の象徴へと変わった。
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