婚約破棄された芋女ですが、北で砂糖を作ったら王国が甘くなりました

ふわふわ

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第八話 白い砂糖、そして王都のざわめき

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第八話 白い砂糖、そして王都のざわめき

 ノルディック・カフェの開店から一か月。

 北の地は、目に見えて変わり始めていた。

 朝早くから製糖工房の煙突から白い煙が上がる。
 てんさいを運ぶ荷馬車が、列をなす。
 公爵芋の畑の隣には、新しい畝が広がっている。

 甘味は、農作物の価値を塗り替えた。

 これまで「家畜の餌」と軽んじられていた根菜が、
 今や銀貨を生む。

「今年のてんさいは倍に増やせます」

 農場長が報告する。

「芋の作付けは減らしすぎないように。食料は基盤ですから」

「承知しております」

 私は帳面を閉じる。

 収益はすでに王都の中規模商会を上回っている。

 だが私は浮かれない。

 本当の勝負は、ここからだ。

 白い砂糖。

 それを完成させなければならない。

 現在のてんさい糖は、淡い生成り色。
 甘さは十分だが、見た目は南方産に劣る。

 王都の貴族は、味よりも「白さ」に価値を見出す。

 だから私は、精製工程をさらに改良した。

 濾過を二重に。
 灰汁取りを徹底。
 再結晶を低温でゆっくりと。

 北の冷気を利用する。

 夜間の外気を取り込み、
 ゆっくりと結晶を育てる。

 数日後。

 私は皿の上に広がる結晶を見つめた。

 白い。

 南方産と遜色ない。

 厨房長が息を呑む。

「……これが、本当にてんさいから?」

「ええ」

 私は一粒、指でつまむ。

 光を受け、きらりと輝く。

 白は、権威の色。

 王都の砂糖細工と同じ色。

 だがこれは。

 北の畑から生まれた白。

 私は即座に決断する。

「王都へ送りましょう」

 家宰が目を見開く。

「正式に、ですか」

「ええ。隠しても意味はありません」

 箱に詰める。
 丁寧に包装する。
 印章を押す。

 送り先は、かつての婚約者の屋敷ではない。

 王宮。

 真正面から行く。

 数日後。

 王都。

 大理石の広間で、白い砂糖が皿に広げられた。

「北の公爵家から?」

「はい。自領産とのことです」

 宮廷料理人が結晶を口に運ぶ。

 静寂。

「……南方産と、違いが分からない」

 ざわめき。

「そんなはずはない。寒冷地で砂糖など」

「不可能だ」

 不可能。

 その言葉が、私の耳に届くかのようだった。

 だが現実は、皿の上にある。

 白い結晶。

 王都の商人ギルドが動き出す。

「北の製法を調査せよ」

「契約を打診しろ」

「独占できるか?」

 甘味の利権が揺らいでいる。

 一方、北では。

 カフェの前に、王都からの馬車が並ぶ。

 貴族の子弟が、半信半疑で入店する。

 パンケーキを口にする。

 沈黙。

「……これが、北の甘味か」

 私は静かに応じる。

「寒さが、育てた甘さですわ」

 彼らは、王都では味わえなかったふわふわを知る。

 そして理解する。

 王都でカフェが成立しなかった理由。

 湿気。
 保存性。
 輸入砂糖依存。

 だが北では違う。

 気温が低い。
 湿度が低い。
 天然冷蔵庫環境。
 自給砂糖。

 条件が揃っている。

 北だから可能。

 私は窓の外を見た。

 夕陽に染まる畑。

 てんさいの葉が風に揺れる。

 あんな芋女と蔑まれた私が。

 今や、甘味を供給する側に立っている。

 そして王都は、ざわめいている。

 婚約破棄の噂は、もう過去。

 今の噂は、これだ。

 「北が白い砂糖を作った」

 私は椅子に腰を下ろす。

 白い砂糖は、象徴だ。

 北の寒さが、劣等ではなく優位である証。

 甘味が、貴族の飾りではなく経済の核になる証。

 そして。

 シュガー・ビート公爵令嬢。

 その名は、もはや嘲笑ではない。

 甘味革命の旗印。

 私は静かに呟く。

「まだ序章ですわ」

 白い砂糖は完成した。

 だが本当の大逆転は、これから。

 北のお菓子の国は、
 王都を巻き込む段階に入った。
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