婚約破棄された芋女ですが、北で砂糖を作ったら王国が甘くなりました

ふわふわ

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第十三話 専売の檻

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第十三話 専売の檻

 王宮の謁見の間は、相変わらず豪奢だった。

 だが、その空気は重い。

 王太子は玉座の一段下に立ち、私を見下ろしていた。

「北の砂糖は、すでに国政に影響を及ぼしている」

「恐れ入ります」

「褒めているのではない」

 私は一礼したまま顔を上げない。

 周囲には財務官、商人ギルド代表、宰相。

 完全な包囲。

「王家専売とする」

 その一言で、場が凍った。

 専売。

 すなわち、王家が全量を買い上げ、販売権を独占する。

 価格決定権も王家。

 流通も王家。

 実質的な没収に近い。

 私は静かに息を吸う。

「お断りいたします」

 さざめきが広がる。

 王太子の眉が跳ねた。

「貴様、王命に逆らうのか」

「王命ではなく、ご提案と承っております」

 言葉の選び方が重要だ。

 まだ正式勅令ではない。

 今は“圧力”。

「専売にすれば、北の負担は減る。販路を気にせずに済む」

「代わりに、価格は王家が決める、と」

「当然だ」

 当然。

 その響きに、私は心の中で苦笑する。

 専売は一見安定。

 だが価格を抑えられれば、農民の利益は減る。

 工房の雇用も縮小。

 北は再び寒村へ逆戻り。

 私は顔を上げる。

「殿下は、北の税収が増えたことをご存じでしょう」

 財務官が小さく頷く。

「はい、確認済みでございます」

「その税収の三割は王家へ納めております」

 専売にすれば?

 王家は全量買い上げ資金を必要とする。

 流通管理費も負担。

 リスクは王家。

 現在は北がリスクを負っている。

「専売は、王家の財政を圧迫いたしますわ」

 財務官が明確に頷いた。

 王太子の視線が鋭くなる。

「脅しているのか」

「事実を申し上げております」

 私は続ける。

「専売を敷けば、南方との交易関係も悪化いたします」

 南方商会との共存合意。

 それを破れば、外交摩擦。

 香辛料、ワイン、布地。

 王都は南方に依存している。

 専売は一手で複数の火種を生む。

 宰相が静かに口を開いた。

「……殿下。専売は時期尚早かと」

 王太子は拳を握りしめる。

 彼は支配したい。

 だが現実は数字だ。

 私はさらに一歩踏み込む。

「北は王家に忠誠を誓います」

「ほう?」

「ですが、砂糖は“産業”でございます。政治道具ではございません」

 産業を潰せば、民が離れる。

 北の民は今、誇りを持っている。

 それを奪えば、反発が生まれる。

 王太子は沈黙した。

 しばらくの後。

「専売は見送る」

 空気がわずかに緩む。

 だが彼は続けた。

「代わりに、王都に精製工房を設立せよ」

 なるほど。

 専売が無理なら、模倣。

「土地がございません」

「王都近郊に農地はある」

「てんさいは寒冷を好みます」

 湿度も重要。

 結晶化には乾燥が不可欠。

 王都は夏に蒸す。

 保存効率が落ちる。

 私は淡々と説明する。

 感情ではなく理屈。

 王太子は苛立つ。

「ならば技術だけでも提供せよ」

 私は微笑んだ。

「基礎は公開いたします」

 隠すのは核心だけ。

 技術は模倣可能。

 だが土地は移せない。

 結局、北優位は変わらない。

 会談は終了した。

 王宮を出ると、私は深く息を吐く。

 甘味は、戦場になった。

 だが勝ったのは感情ではない。

 計算。

 数字。

 土地。

 馬車に乗り込み、北へ戻る。

 窓の外、王都の市場には北の砂糖が並ぶ。

 人々は笑顔でそれを買う。

 安くて甘い。

 生活が変わる。

 私は静かに思う。

 王太子は専売という“檻”を用意した。

 だが私を閉じ込められない。

 北は、もう自立している。

 寒風の中で培った産業。

 民の信頼。

 そして。

 私自身の覚悟。

 甘味革命は次の段階へ進む。

 政治は抑えた。

 次は金融。

 収益は膨らみ続ける。

 北の未来は、白く輝いている。

 私は小さく呟く。

「砂糖は甘い。でも、甘くは見ませんことよ」
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