婚約破棄された芋女ですが、北で砂糖を作ったら王国が甘くなりました

ふわふわ

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第十四話 白き結晶の誓約

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第十四話 白き結晶の誓約

 北へ戻ったその日、精製塔の窓から見える景色が、少し違って見えた。

 煙は静かに立ちのぼり、てんさいを煮詰める釜は規則正しく泡を立てている。結晶室では、乾いた冷気の中で白い砂糖がゆっくりと育っていた。

 王都との駆け引きはひとまず終わった。

 だが、これは勝利ではない。

 “持久戦の開始”だ。

 私は執務室で帳簿を広げる。

 砂糖収益は安定。
 精製歩留まりも改善。

 だが、拡大には限界がある。

 原料は農地。
 農地は季節。
 季節は天候に左右される。

 安定供給こそ、次の課題。

 そこへ工房長が報告に来た。

「令嬢様、再結晶工程の改善案がございます」

 彼は新しいろ過布を差し出す。

 より細かい繊維。
 不純物除去が向上する。

「白度が増します」

 私は光に透かす。

 透明感が違う。

 かつては黄味が残っていた。
 今はほぼ純白。

 白い砂糖。

 それは単なる甘味ではない。

 “象徴”だ。

 私は静かに頷く。

「進めなさい」

 白度が上がれば、価格は上がる。

 高級市場へも食い込める。

 南方との住み分けを守りつつ、
 北は“品質”で戦う。

 その夜、私は一枚の契約書を作成した。

 題して――

 北部砂糖生産連合誓約書。

 内容は単純。

 ・てんさい栽培農家への最低買取価格保証
 ・精製工房の利益配分明確化
・過剰生産時の備蓄基金設立

 産業は、個人の才覚だけでは続かない。

 仕組みが必要。

 農民が安心して作付けできるように。

 工房が長期投資できるように。

 私は領主としての立場を明確にする。

 “公爵令嬢”ではなく。

 “産業設計者”として。

 数日後、農民代表が集まった。

 粗末な外套。
 だが目は真剣。

「本当に最低価格を保証してくださるのですか」

「ええ。収穫が豊作でも暴落はさせません」

 彼らは顔を見合わせる。

 これまで、余剰作物は値崩れしてきた。

 てんさいは違う。

 私は続ける。

「代わりに品質基準を守りなさい」

 選別、保管、搬送。

 品質が落ちれば、ブランドが落ちる。

 北の砂糖は、安さだけではない。

 “信頼”で売る。

 代表の老人が深く頭を下げた。

「公爵令嬢様……我らはついて参ります」

 胸が静かに温かくなる。

 これは支配ではない。

 協働だ。

 その頃、王都では。

 王太子が報告を受けていた。

「北は生産連合を設立しました」

「連合だと?」

「価格保証制度を敷いたようです」

 王太子は舌打ちする。

 専売は断念。

 模倣は難航。

 そして今、北は内部結束を固めた。

 政治的圧力は効きにくくなる。

「囲い込め」

 彼は命じる。

「北の優秀な技術者を引き抜け」

 なるほど。

 直接攻撃が無理なら、分断。

 だが北は寒い。

 生活は厳しい。

 それでも人が残る理由がある。

 安定。

 誇り。

 未来。

 数日後、工房長が報告する。

「王都から好条件の誘いが来ております」

「断ったのね」

「もちろんです」

 彼は笑う。

「私はこの白さを完成させたい」

 私は小さく笑う。

 人は金だけでは動かない。

 やりがい。
 誇り。
 土地への愛着。

 それが北を支える。

 夜、私は結晶室を歩く。

 静かな空間。

 冷気。

 棚に並ぶ白い砂糖。

 光を受けて輝く粒。

 絶望から始まった。

 砂糖が高すぎて、カフェは不可能。

 蜂蜜も買えない。

 酸っぱい林檎しかない。

 だが今。

 白い結晶が並ぶ。

 私は一粒、指でつまむ。

 甘い。

 だが、この甘さは努力の味。

 白い砂糖は誓約だ。

 北を豊かにする。

 民を守る。

 政治に振り回されない。

 私は窓を開ける。

 冷たい夜風が吹き込む。

 北の寒さは、かつては敵だった。

 いまは味方。

「甘味は、私たちの剣ですわ」

 次の戦いが来ても、折れない。

 北は結束した。

 白き結晶の誓約のもとに。
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