善夜家のオメガ

みこと

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葉月

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城に戻ったサイードはがむしゃらに働いた。特に国内への視察に力を入れ、各地に赴いた。
その先々でオメガの生活を見聞きする。やはりあまり良いものではないようだった。
今日もアーシムと一緒に黄金の谷と言われているサワブハーディーに来ていた。

「アーシム、我が国は随分と遅れているのだな。」

「そうですね。バースで学校を分けたり、就職先も制限される。特にオメガには冷たいですね。」

「はぁ。どうしたものか。」

自国のバースに対する考え方の実態に頭が痛くなる。
しかしサイードだってつい最近まではそうだったのだ。葉月と出会いその考えは一変したが、それがなければ変わらなかっただろう。

「うーん、そうですね。先ずはオメガを差別するような条例や法律を変える必要があるかと。あとは国からオメガに手当を出すとか…。」

アーシムの意見にサイードは頭を悩ませる。金さえ出せば幸せになれるのだろうか?差別をなくすのにそれでは逆効果なのではないか?
しかし現実、オメガの就職先は制限され賃金も安い。
自分一人ではどうしようもない出来ない。サイードの意見に賛同し、協力してくれる人間が必要だ。しかもそれはアルファでなくてはいけない。アグニアで一番力を持っているアルファに理解してもらわなければ、この国の考え方は変わらないだろう。
頭を抱えているサイードがふと見ると小さな子どもが二人、楽しそうに歩いている。良く似ているので双子のようだ。
三歳くらいだろうか。上質のカンドゥーラを着ているので、上流階級の子どもだろう。肌艶も良く、イキイキとしている。

「こら、勝手に外に出ちゃダメ!」

双子の後ろから男のオメガが追いかけて来た。
まだ若そうなかわいらしい男だ。
そのオメガも子どもたちと同様、滅多に見ない上質なカンドゥーラに身を包んでいる。首から下げているネックレスもゴールドの地金にダイヤモンド、サファイア、エメラルドなどをたっぷりとあしらった一目で高価だと分かるものだ。

「パパー。」

「パパ、お外行くぅ。」

二人を捕まえたオメガを子どもたちがパパと呼んでいる。

「ダメ。お父様が帰って来たらね。」

オメガが優しく諭して二人を連れて行こうとする。
優しい笑顔だ。その顔でオメガが子どもたちのことを愛情を持って育てているのが分かる。

「だってぇ、お父様は帰って来てもパパにべったりだよ。」

「そうだよ。全然遊んでくれなーい。」

子どもたちの訴えにそのオメガは苦笑いをした。

「じゃあ四人で出かけようか?」

「本当?」

「うん。お父様にお願いしてみるね。」

三人は手を繋いで歩いて行った。その後ろ姿を見ながら、サイードはあること気がつく。

「そうか…。」

あまり公にしてはいないが、オメガと番いになったり夫婦になったりしているアルファもいるはずだ。
先ほどのオメガはかなり大事にされている。
サイードも今なら分かる。この人だと思ったオメガに会ってしまったら他のことなど考えられない。
たっぷり愛情を注いで大事にするはず。アグニアにだってそんなアルファはきっといる。
そのアルファたちに協力を仰ぐのだ。

「アーシム、少し道が開けてきたぞ。」

サイードは勢いよく立ち上がり、明るい顔でアーシムに振り返った。





「ここ数年、金の採掘量が格段に減っていているな…。」

サワブハーディーの市長から見せられた市の財政の状況だ。黄金の谷と呼ばれているサワブハーディーだが、年々金の採掘量が減ってきている。そのせいで世界の金の値段が上がり続けている。

「ええ。天然資源は有限です。採掘量に制限をかけてはいるのですが…。」

「そうか…。これは?」

サイードは去年から急激に利益を上げている箇所に目を留めた。

「これは、サワブハーディーの南にある黄金の城の観光産業です。何でも『映える』とかで急に観光客が増えているのです。この辺り一体でホテルを経営しているカラム家の納税が増えていますね。なので金の採掘量が減っても市の財前にあまり動きがないんです。」

「観光か。」

「ええ。サワブハーディーは黄金の城以外にも女神の泉や妖精の森と呼ばれる美しい自然や、歴史的建造物も多くあります。今までは金だけで十分にやって来れたのですが、今後はこちらの方にも力を入れていきたい。ぜひ、殿下にもご協力をお願いしたいのです。」

「もちろんだ。」

サイードは力強く頷き、国家を挙げて全面協力をすると約束した。そしてカラムの当主と話をする手筈を整えた。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


「アーシム、父上はまだ帰還されないのか?」 

「ええ。まだあちらで療養を続けたいと知らせが来たようです。」

サイードはファールークにすぐにでもバースの考え方について進言したいのが、肝心の彼が帰って来ない。予定よりもかなり遅れている。

「療養…。父上はそんなに良くないのか?手術は成功したのだろう?」

「それが、よく分からないのです。陛下の側近のガレルはそんなに心配することはないと言っておりますが…。」

「うーん、一度見舞いに行くか。こんなに療養期間が必要だなんて心配だ。」

「はい。すぐに手配致します。」

アーシムが下がり、時計を見るとあの時間だ。
サイードもすぐに奥のベッドルームに籠った。






「葉月!元気か?」

パソコンを立ち上げネットに繋ぐ。画面に映った葉月に破顔し話しかけた。

「うん。昨日と変わりないよ。サイードは少し疲れてるね。」

「まあ、いろいろと忙しくてな。」

「電話してて平気?」

「もちろんだ。今の俺にはこれしか癒されるものかない。」

「ふふふ。」

サイードは少し照れたように笑う葉月に釘付けになった。そして画面に何度もキスをし始める。

「葉月、葉月、早く会いたい…。あれからもう二週間も経ってしまった。葉月は大学のリコメンデーションとやらが終わったら会いに来てくれるんだろ?」

「うん。」

「それでもまだ当分会えない。だから葉月に頼みがあるんだ…。」



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