スパダリ社長の狼くん

soirée

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第四章

八話

「初めまして。君の担当医の矢田、っていいます。執刀医も俺になったからよろしくね。あ、ちなみにヤダヤダ……って駄々を捏ねてると呼ばれたと勘違いして俺が出てきて痛ぁ~い注射とか苦~いお薬を出すからいい子にしててね。って自己紹介でわかる? 俺、小児外科が専門。君はどっちかっていうと俺の出番だって聞いたもんで、長谷部に」
 面と向かっての臆面もない自己紹介に思わず小さく舌打ちをする。
(長谷部さんも忍も……なんなんだよ、俺は3歳児じゃねぇぞ……)
 そうは言ってもさすがに社会人生活も半年を迎え、瞬もあまりにもあからさまに顔に内心を出すことはないように心がけている。極力平静を保って軽く会釈をする。
「はぁ……よろしくお願いします」
 だが、相手は思春期を迎えた少年までもが相手になる百戦錬磨の小児科医。瞬の浅はかな強がりなど通じるわけもなく、大きな手でわしわしと髪を撫でられてしまう。腹立ち紛れに力一杯払い除ける。こんな扱いを受けるのは忍からだけで十分だ。二十歳を過ぎた野郎がみっともないと悔しさのあまり赤面する。
「いいねぇ。思春期まっ只中って感じ。カワイイって言われると腹が立つお年頃でしょ? 家族はまだ来てくれないの?」
「揶揄わないでください。忍は……家族、は……まだ仕事なんで」
 こう言う時忍をなんと呼べばいいのだろうかと言葉に詰まる。夫? 配偶者? 恋人? どれも不審な顔をされる気しかしない。忍の名前を確認した矢田が首を傾げる。
「お姉さんの旦那さん……とか?」
「あっえっと……そ、そう……です……」
 咄嗟に話を取り繕う。槙野が聞いていたらまた手を叩かれそうだと内心頭を抱えてしまう。ふーん、と頷いた矢田がそのままさて、と両手を合わせた。
「んじゃ、これも伝えとくね。これから退院まで、君のメンタルを面倒見るのも俺だから。なんでも話して。不安に思ったこととか、術後は傷が痛くてつらいとかでもいい。俺たちはできる限り君のサポートをしたいから何でも甘えて。というわけでお近づきにこれあげる。好き?」
 差し出されたカルピスをつい圧されるまま受け取ってしまう。
「お礼、言ってくれないの?」
「何なんですか……あ、ありがとうございます……」
 不満を漏らしつつ素直に礼を言う瞬を見下ろす矢田の視線が一瞬冷たくなる。こういう、素直すぎる「子供」は蹂躙してやりたくなる……と瞳の奥の暗い光が瞬を品定めするように眺めた。
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