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閑話休題〜完結後推奨〜
シルキーキャット
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忍は猫っぽい。
疲れて帰ると必ず長湯をして丁寧に体のケアをしているのを知っている。汚れと共に疲れも落とそうとするかのように、疲れ切っている時ほどセンスのいい香りの入浴剤を使ったり、入念にヘアケアをしている。
性格の悪いやつから見たらきっと、女々しいとか……そんな言葉で貶されてしまうんだろう。でも、俺はそんな忍が好きだ。丁寧に身繕いをする、猫のような忍が。
だって風呂から上がってくると俺の嗅覚でもきついとは感じない、ほどよいいい匂いがして、長湯をしたせいで普段は少し青白ささえ感じる肌がほんのり桜色に染まっていて、色気がすごい。目の毒だって思うけど、釘付けになっちまうくらいに、そんな忍は綺麗だ。
見惚れている俺の視線に気づいて悪戯っぽく笑う虹彩までもがいつもと少し色が違う。色素が薄い人間の特徴なんだと言っていた。忍の碧水は、宝石なんかよりよほど美しい。つい手を伸ばして肩を抱き込み、髪に顔を埋める。しっとりと水気を帯びた艶やかな黒髪に指を通す。絡まるなんてことはあるはずもなく、すっと指先に雫が移る。その下の首筋の肌も、いつもより体温を帯びている。噛みついてしまいたくなるのを堪えて、ソファに座って足元に腰を下ろす忍の髪を乾かしていく。
忍が使っているドライヤーは、頭皮にも髪にもダメージを与えにくく、なおかつ乾きが早い。そんなに早く乾いてくれなくても、俺は全然構わない。こっそり買い替えてやろうかとさえ思う。指先で櫛目を入れながら、絹糸のように細くしなやかな黒髪を温風で撫でていく。忍の好んで使っているシャンプーの、シトラスとユリの香りがほのかに鼻先をくすぐって、俺の耳も少しずつ色づいていく。
乾くにつれて軽くなる手触りの、その気持ちよさがたまらない。ドライヤーを止めて、一房掬い上げて唇を寄せてみる。忍が笑っているのが気配で伝わる。
髪と同じ、シルキーな声が揶揄うように尋ねてくる。
「お人形遊びは終わったかい?」
そんなことを言われると拗ねた顔にもなってしまう。それでも、やっていることはたしかにそんなもんだ。ただ……忍は人形なんかよりよほど綺麗だというだけのこと。
ミネラルウォーターを口に流し込みながら、まだかすかに色づいた目尻で忍は俺を振り返る。白い喉仏が上下する。青く細い血管。
「ありがとう。自分で乾かすのも面倒なものなんだ」
「いいよ。お前、今日疲れてるんだろ? それに俺はお前の髪触るのが好きだから」
「随分期待をしているようだから、少しだけね。ご褒美」
囁いた形の良い唇が、俺の唇を塞ぐ。柔らかな感触にうっとりと瞼を閉じた。
疲れて帰ると必ず長湯をして丁寧に体のケアをしているのを知っている。汚れと共に疲れも落とそうとするかのように、疲れ切っている時ほどセンスのいい香りの入浴剤を使ったり、入念にヘアケアをしている。
性格の悪いやつから見たらきっと、女々しいとか……そんな言葉で貶されてしまうんだろう。でも、俺はそんな忍が好きだ。丁寧に身繕いをする、猫のような忍が。
だって風呂から上がってくると俺の嗅覚でもきついとは感じない、ほどよいいい匂いがして、長湯をしたせいで普段は少し青白ささえ感じる肌がほんのり桜色に染まっていて、色気がすごい。目の毒だって思うけど、釘付けになっちまうくらいに、そんな忍は綺麗だ。
見惚れている俺の視線に気づいて悪戯っぽく笑う虹彩までもがいつもと少し色が違う。色素が薄い人間の特徴なんだと言っていた。忍の碧水は、宝石なんかよりよほど美しい。つい手を伸ばして肩を抱き込み、髪に顔を埋める。しっとりと水気を帯びた艶やかな黒髪に指を通す。絡まるなんてことはあるはずもなく、すっと指先に雫が移る。その下の首筋の肌も、いつもより体温を帯びている。噛みついてしまいたくなるのを堪えて、ソファに座って足元に腰を下ろす忍の髪を乾かしていく。
忍が使っているドライヤーは、頭皮にも髪にもダメージを与えにくく、なおかつ乾きが早い。そんなに早く乾いてくれなくても、俺は全然構わない。こっそり買い替えてやろうかとさえ思う。指先で櫛目を入れながら、絹糸のように細くしなやかな黒髪を温風で撫でていく。忍の好んで使っているシャンプーの、シトラスとユリの香りがほのかに鼻先をくすぐって、俺の耳も少しずつ色づいていく。
乾くにつれて軽くなる手触りの、その気持ちよさがたまらない。ドライヤーを止めて、一房掬い上げて唇を寄せてみる。忍が笑っているのが気配で伝わる。
髪と同じ、シルキーな声が揶揄うように尋ねてくる。
「お人形遊びは終わったかい?」
そんなことを言われると拗ねた顔にもなってしまう。それでも、やっていることはたしかにそんなもんだ。ただ……忍は人形なんかよりよほど綺麗だというだけのこと。
ミネラルウォーターを口に流し込みながら、まだかすかに色づいた目尻で忍は俺を振り返る。白い喉仏が上下する。青く細い血管。
「ありがとう。自分で乾かすのも面倒なものなんだ」
「いいよ。お前、今日疲れてるんだろ? それに俺はお前の髪触るのが好きだから」
「随分期待をしているようだから、少しだけね。ご褒美」
囁いた形の良い唇が、俺の唇を塞ぐ。柔らかな感触にうっとりと瞼を閉じた。
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