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第三章 超ハードモードの人生に終止符を

追跡開始です

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「取り敢えず、阿婆擦れの部屋に来たが、かなり薄くなってるな。現状維持するように指示してたんだが……」

 殿下の眉間に皺が寄る。

「何言ってるのですか。ちゃんと現状維持出来ているではありませんか。これ以上望んだら酷ですわよ」

 薄っすらとだが、まだ魔力の痕跡が残ってるわね。ほんと良かったわ。お花畑で害悪しかない阿婆擦れだけど、魔力量だけは天才クラス。その無駄な魔力量の多さが功を奏したわけね。

「「こんなに薄い痕跡が分かるのですか!?」」

 インディー様とサクヤが同時に突っ込んでくる。そんなに驚かなくてもいいのに。それにしても二人共仲がいいよね。

「分かりますわ。ちょっとコツがいりますけどね」

 そう言いながら、魔力を目に流し集中する。繊細な魔力操作。流す量が多過ぎても少な過ぎても駄目。因みに多過ぎると目が潰れるからね。

 そもそも、私は殿下のように魔力量が多くない。それで強力な魔獣を討伐や高難易度のダンジョンを攻略しているのよ。そのカラクリがこれ。

 必要な箇所に多めに魔力を流す。

 身体強化を全身に掛けるより安上がりだからね。その分を防御や攻撃に回せる。効率的でしょ。下手したら殺られるけどね。

 だけど、簡単そうにみえてこれが結構難しいんだよね。実は殿下も苦手なの。そもそも、魔力操作なんてしなくてもいいからね。仕方ないわ。

 なので、今回は私が頑張らないとね。

「コツって……普通、誰も出来ませんよ」

「そうですか? 魔力を操作するなんて、基礎中の基礎ですよね」

 そう答えながら、集中する。

 すると、薄っすらとだけど染みみたいなものが見えてきた。この染みみたいなものが、魔力の痕跡。ワインや飲み物を溢した時に出来る染みに近いかな。

「侵入者は窓から出て行ったみたいですね」

「追跡出来るか?」

「正直、アイリーンさんの魔力だけでは難しいですね。気絶していると、排出される魔力量は少ないですから。でも、手がないわけではありませんわ。私たちには救世主が近くにいますからね」

「救世主?」

「ええ」

 そう答えながら、私は視線をインディー様に向ける。

「ああ!! なるほど、そういうことか」

 さすが殿下。直ぐに分かりましたね。

 インディー様とサクヤは分からないみたいね。説明する時間が勿体ないので、移動しながら種明かします。行儀悪いけど、窓から外に出た。

「…………こっちですね」

 結界を張り、声が外に漏れないようにしているから大声でも大丈夫なんだけど、やっぱり小声になるわね。

「どうして方角が分かるんです?」

 インディー様が訊いてきた。

「簡単ですわ。二人分の魔力を追ってるからですよ」

「二人分?」

「阿婆擦れとインディー、お前だ。正確に言うと、お前に似た魔力を追っている」
 
 私の代わりに殿下が答えてくれた。集中したいから助かるわ。

「たっ、確かに、血筋で魔力の質が似るって話は聞いたことがありますが……だからといって……」

「別に不可能じゃない。誘拐犯の中に、お前の血族、直系がいるなら話は別だが。あっ、いたら追いやすいか」

「「殿下」」

 今度はインディー様とハモる。声も一段と低い。

 流石にそれは言ったら駄目なやつです。無神経過ぎます。分かってますか。

「すまない。言い過ぎた」

 殿下の長所は非を認めることが出来るところね。

 上位貴族になる程、出来ない人が多い。心の中で認めても、態度で示さなければしてないことと同じ。妙な矜持が邪魔してね。まぁ中には、それがどうしたって開き直る人も多いけどね。そういう奴程、自分より上の人間にゴマをするのが上手いのよね。昔からそこは変わらない。人間の本質ってそうそう変わらないわ。

「殿下。次は許しませんよ」

 インディー様の声が冷たい。当然よ。

「分かった。すまない」

 気まずい空気が流れる。そんな中でも、足を進める。何度か足を止めながら。

 流石に一時間も続けてると疲れてくるわね。でも、この方向に間違いない。

「…………ほんとにこっちでいいのか?」

 本当失礼なんだけど。だけど、そう言いたい気持ちは分かるわ。私も信じられないもの。

 だって、この先にある建物は学生なら何度もお世話になってる場所だよ。私も阿婆擦れが行方不明になってからも何度もお世話になってるし。私だって信じたくないよ。でも、

「間違いありませんわ。前もって言っときますが、インディー様の魔力を追ったわけじゃありませんから」

 途切れ途切れになっている阿婆擦れの魔力の痕跡。それに時折重なるインディー様に似た魔力。

 私は私を信じる。それだけの努力を長い間してきたのだから。

「怒るな。一応確認しただけだ。俺はマリエールを信じている」

 ここで少しでも疑ったら殴ってたわ。

「では行きましょうか。学生らしく図書館に」


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