婚約破棄ですか。別に構いませんよ

井藤 美樹

文字の大きさ
66 / 344
貴方の傍らで

第十一話 その気持ち悪い笑み止めてくれませんか

しおりを挟む


「ーーなんてことがあったんですよ、シオン様。ルーク隊長を出し抜くなんて、凄いと思いませんか?」

 若返ったシオン様は眠り続けています。そんなシオン様に、いつもと同様話し掛けます。姿形が変わってもシオン様ですからね。今回報告するのは、勿論、休憩時間で見た映像のことですわ。

 シオン様の隣に潜り込み、太い腕を抱き締めながら話し続けます。でも返ってくるのは沈黙だけ。せめて、ピクリとでも動いてくれたなら、反応してくれたのなら……そう希望してしまう自分がいます。身勝手ですよね。そんな自分がとても嫌になります。

 一番大変なのは私ではなく、シオン様なのに……戦っているのもシオン様なのに……ほんとに私は駄目ですわね。

 心から、私はシオン様が目覚めると信じています。

 お祖父様聖獣様も「間もなく目が覚めるだろうと」と言ってくれました。若返りが止まったからですわ。言われたのは、二週間前ですけどね。でも、その言葉にどんなに救われたか。

 それでも、ふと……不安が過ります。最悪なことを考えてしまいます。その考えを追い払おうと強く目を瞑ります。だけど消えません。

 そんな時、私はシオン様の体温をより身近に感じたくなるのです。体全体で縋り付きたくなるのです。

 今もそうです。

 自然と抱き締める手に力が入ります。

 まだ眠るのは早いけど、このまま眠りにつくのもたまにはいいですよね。

 目を閉じた時でした。コンコン。誰かがドアをノックしています。

 こんな時間に誰? お祖母様かしら? 

「はい。今、開けます」

 私はベッドから抜け出すとドアを開けました。

「お、お母様!?」

 尋ねて来たのはお母様でした。まさか、お母様が尋ねて来るとは思っていませんでしたわ。もし尋ねて来たとしても、ドアをノックするとは思いませんでした。驚きです。

 室内に招き入れると、私の目の下を優しく指の腹で撫でます。

「隈……少し薄くなったわね」

 お母様なりに心配してくれてたようです。シオン様が眠ってしまった時も、取り乱していたそうですから。

「ええ。仕事が一つ減りましたから」

「ほんと、アークが来てくれてよかったわ」

 泣きそうな笑みです。心配を掛けていたんだと心から思います。原因はお母様ですけどね。お母様なりに責任を感じていたみたいですけど。

 それはそうと、お母様は私を心配してここまで来てくれたのですか? あっ、もしかして完成したのですか!?

 お父様が言っていたことを思い出しました。

「ええ。完成したわ。間に合ってよかったわ」

 そう言って見せてくれたのは小さな耳飾りでした。ブレスレットか指輪を想像していたから、意外でした。正直にそう言うと、

「だって、指輪は駄目でしょ。義理の母親が息子に贈ったら。それが魔法具でも。ブレスレットもギリアウトね。ネックレスも考えたけど、落とす可能性もあるからね。そう考えたら、耳飾りが妥当でしょ」

 それが普通ですか? 特に気にもしませんが。だって、シオン様を護るものでしょ。指輪でもブレスレットでも構いません。ちゃんと機能してくれたら。でもまぁ、気遣いはありがたく受け取っときますわ。

「そういうものですか……」

「セリアって……まぁいいわ。早速着けるわね」

 そう言うと、お母様がシオン様に近付き耳を触ろうとします。

「待って!!」

 反射的でした。耳を触ろうとしたお母様の手を掴んでいました。自分の行動に吃驚です。

 そんな私を、お母様は何とも言えない気持ち悪い笑顔をしながら「へぇ~~セリアがね」と呟きました。勿論手は引っ込めてます。

 その笑顔に、何故か無性に腹が立ちます。

「気持ち悪い笑み、止めてくれませんか」

 ムスッとしながらそう言うと、お母様は「はい。はい」と素直に手を退けてくれました。





☆☆☆


 第四回キャラ文芸大賞にエントリーしてます。

 タイトルは【護国神社の隣にある本屋はあやかし書店】です。

 少し古い作品ですが、親子愛がテーマになってます。

 気楽に読めますので、是非どうぞ(。•̀ᴗ-)✧





しおりを挟む
感想 776

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

【完結】王妃を廃した、その後は……

かずきりり
恋愛
私にはもう何もない。何もかもなくなってしまった。 地位や名誉……権力でさえ。 否、最初からそんなものを欲していたわけではないのに……。 望んだものは、ただ一つ。 ――あの人からの愛。 ただ、それだけだったというのに……。 「ラウラ! お前を廃妃とする!」 国王陛下であるホセに、いきなり告げられた言葉。 隣には妹のパウラ。 お腹には子どもが居ると言う。 何一つ持たず王城から追い出された私は…… 静かな海へと身を沈める。 唯一愛したパウラを王妃の座に座らせたホセは…… そしてパウラは…… 最期に笑うのは……? それとも……救いは誰の手にもないのか *************************** こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。