婚約破棄ですか。別に構いませんよ

井藤 美樹

文字の大きさ
169 / 344
我儘を言っていいですか

第一話 ピアス

しおりを挟む


「平和ですね~~」

 少ししかない休憩時間に、大好きなお友達と一緒にお茶とお菓子を楽しめるのって、ほんと久し振りですわ。幸せで体の力が抜けますね。

 ちょっとはしたないですけど、だらけても構いませんよね。えっ、もうだらけるって。見逃して下さいませ。

「クスッ。そうよね。いきなり突撃して、絡んでくる馬鹿もいないし、わざと見せつけに来る馬鹿もいなくなったからね。ほんと、平和だわ」

 相変わらず絶好調ですね、リーファは。

「それが普通なのでは」

 静かに突っ込むジーナ様。確かにジーナ様の仰る通りですわ。

 これが普通なのです。今までが普通ではなかっただけですわ。明らかに異常な状態が続いていましたもの。二度と起きないことを、心から願うばかりですわ。

 正直に言えば、例え起きたとしても、私たちに関わらなければお好きにどうぞ。それが今の心情ですけどね。別に、投げやりになったわけではありませんわ。もう、当事者はこりごりなのです。

「で、セリアはどうなの? 着けないの?」

 いきなり、リーファの顔がアップになりました。過去に意識が飛んでいましたわ。全く会話が耳に入っていませんでした。

「ごめんなさい、リーファ。聞いていませんでしたわ」

 ここは素直に謝ります。

「もう。しょうがないわね。セリアはピアスは着けないの? って訊いたのよ」

 リーファは耳たぶを飾っている、小さな紅いピアスを見せながら訊いてきます。

 いつ見ても、紅くて綺麗な宝石ですね。魔法を付与されてますし、これを贈った方は、余程リーファのことを大事に想ってらっしゃるのですね。

「ピアスですか……それは、今すぐにでも着けたいですわ」

 ずっと羨ましく思ってましたから。私も着けたいですわ。

 緑色のピアスを。

 前々からそう希望していました。だって、年頃の女子なら皆夢見ますもの。普通の女子から掛け離れている私でも。

 お父様もリムお兄様もお母様も着けています。勿論、目の前にいるリーファも。

 愛する人の瞳の色のピアスを。

 そして反対に、私の瞳の色のピアスをシオン様に着けてもらいたい。でもそれって……私の我儘なのでは。

「婚約して、それなりに日も経つんだから、別に着けてもおかしくないでしょ。それに、良い魔除けにもなるんじゃない?」

 確かに、リーファの言う通りですけど。

「……それは、私からは言えませんわ」

 男性側から渡してくれるものですし。催促するものじゃありませんから。

 とはいえ、本当はとてもとても欲しいですわ。実はコッソリと、シオン様の分は用意しているのです。宝石ではありませんが、それ以上の付加価値を付与したものを。まだピアスに加工はしていませんが。いつでも加工出来ますわ。

「セリアって、妙なところで弱気になるのよね」

 そんなの、自分でも分かってますわ。

 私から逆プロポーズして、押しに押しまくって落とした自覚はありますわ。あの時は必死でしたから。どうしても、シオン様の隣に立ちたくて。娘ではなく、伴侶として見て欲しくて必死でしたもの。

 でも、今は……これ以上望んでいいのか不安になりますわ。だって、今が幸せ過ぎるから。シオン様の気持ちを疑ってる訳ではないのです。十分過ぎるほど、愛されています。

 だから、怖いのです。

 私のおねだりが、大きな波紋になってしまうかもしれないのが。ほんと、私らしくはありませんね。

「……リーファは、婚約してからプレゼントされたのですよね」

 ジーナ様の前で訊くのはどうかとは思いましたが、振ってきたのはリーファなので、ここは素直に訊きましょう。

「ううん。違うわよ。私がおねだりしたの」

「えっ……えぇ~~!! ほんとに!? リーファから!?」

 思わず、大声をあげてしまいましたわ。いらない所で注目を浴びた私が、慌てて座るのを、リーファは悪戯が成功した子供のように笑って見ています。いい性格してますわ。

「そうでもしないと、絶対くれなかったわね。あの人は、白い結婚を全面に出したかったみたいだし」

 リーファは苦笑しながら教えてくれました。やはり、お互い愛し合っていても、政治的意図が強い結婚だからでしょうか。それとも、リーファを護るために。どちらにせよ、部外者の私は何も言えませんわ。

 ただ……お互いに、辛かったのだと推測は出来ます。

 でもリーファは一歩を踏み出した。

 その勇気は賞賛に価しますわ。

「そんな顔しないでよ、セリア。私は今、とても幸せなんだから。まぁ正直、これから先色々あると思うけど、心からおねだりして良かったって思ってるんだから」

 そう言いながら微笑むリーファの顔は、とても綺麗で光が満ち溢れていました。だけどその笑顔は、今の私には眩し過ぎて、親友なのに直視出来ませんでした。

 人を愛するのって、こんなにも臆病になってしまうものなんですね……シオン様。



しおりを挟む
感想 776

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

婚約破棄をありがとう

あんど もあ
ファンタジー
リシャール王子に婚約破棄されたパトリシアは思った。「婚約破棄してくれるなんて、なんていい人!」 さらに、魔獣の出る辺境伯の息子との縁談を決められる。「なんて親切な人!」 新しい婚約者とラブラブなバカップルとなったパトリシアは、しみじみとリシャール王子に感謝する。 しかし、当のリシャールには災難が降りかかっていた……。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ

綾雅(りょうが)今年は7冊!
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」 物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。 ★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位 2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位 2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位 2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位 2023/01/08……完結

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。