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いざ、エルヴァン王国へ
第四話 この映像は報告できませんね
しおりを挟む彼は何かを知っているのかもしれない。
もしくは、何かを目撃したのかもしれない。
少なくとも、見知らぬ者に、忠告しなければならないことを彼は知っている。
それが何なのか、知る必要がありますね。
それに、私から去って行く小汚い男の後ろ姿は、それなりの手練感が見え隠れしていますからね。でも、ソロで動けるほどの腕ではなさそうです。そのような男がパーティーを組まずに一人で行動している。それだけでも、不審感は否めません。
なので、薄汚れた男の後ろ姿を一瞥した後、私は軽く頷く仕草をします。すると、髪が短い方の侍女がスーと私たちから離れ、男の後を追います。いい情報を期待していますわ。
私はそれを確認すると、待ち合わせしていた場所へ皆で向かうことにしました。
「……普通、国境沿いの町や村は、活気があり栄えているのだけど……」
大通りを歩きながら、私はふと感想を声にしていました。
国境沿いの町や村は、必然的に人の往来がどこよりもありますからね。人の往来が多ければ、彼らを狙って商売をする者が現れる。そして、そんな彼らを商売にする者も現れる。結果、必然的に活気が溢れ栄えます。コンフォート皇国側は栄えてましたわ。色々な屋台が出ていましたもの。なのに、ここは……屋台は数えるほどしかありません。
「寂れてますね」
「確かにそうだけど、そんなにはっきりと言うものではないわよ」
残った侍女に、苦笑しながら注意する私。侍女は変わりませんが、私は話し方を少し砕けたものにしています。貴族言葉は目立ちますからね。
「リア様の方が、さり気に酷いです」
ここから先は、ハンターカードに記載されている偽名でいくことにしました。貴族言葉もそうですが、誰が聞いてるかわかりませんからね。
「そうかしら」
私と侍女が言葉の掛け合いをしている間も、ケルヴァン殿下は難しい顔のまま考え込んでいます。いや、違いますね、呆然としているようです。
「ヴァン。大丈夫?」
私は侍女との会話を止めると、ケルヴァン殿下の顔を下から見上げるようにして尋ねます。
「悪い、もう大丈夫だ」
無理した笑顔で答える、ケルヴァン殿下。
「そう?」
無理しているのでは?
そう思いましたが、あえて口にはしませんでした。
「ああ。数か月前はもっと活気があったんだ……なのに……痛っ!!」
私はケルヴァン殿下の背中を思いっ切り叩きます。いい音がしましたわ。涙目になるケルヴァン殿下。
「大袈裟ですわね、そんなに強く叩いてないわよ」
軽く叩いただけなのに。
「嫌、絶対、手形が付いてる。紫になってるはずだ」
「大袈裟ね。なら、ここで確認する?」
「ちょっ!! 何考えてるんだ!!」
上着を捲ろうとする私から、慌てて距離をとるケルヴァン殿下。
「相変わらずウブよね、ヴァン」
「リアが破廉恥過ぎるんだ!!」
上着の裾を押さえながら言われても、迫力はありませんね。
「ハンターの仕事をしていて、異性の半裸なんて珍しいものではないわよ」
怪我をしたら脱がせることもありますし、野営になれば、隣で異性が寝ることもありますわ。多少は考慮されますけどね。それに、訓練後、半裸になる方もいますよ。
「そうだけど!!」
「ほら、さっさと行くわよ」
私はケルヴァン殿下の腕を掴み歩き出します。
「引っ張るな!!」
喚きながら、素直に引っ張られるケルヴァン殿下。
しばらく歩いてから、ポツリとケルヴァン殿下の「……ありがとう」という声が聞こえました。私は聞こえない振りをします。私ならそうして欲しいから。
少し離れて後ろを付いてくる侍女は、そんな私とケルヴァン殿下のじゃれ合う姿を見て微笑んでいます。
「……この映像は報告できませんね」
とても小さく呟く声は、私とケルヴァン殿下には届きませんでした。
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