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エルヴァン王国の未来
第五話 王都まであと少しですわ
しおりを挟むハンター本部からの返信が来る前に、私たちは移動を開始しました。緊急性がある案件だと、シオン様が判断したからですわ。
移動と言っても、途中までは転移魔法で短縮しますけど。移動する時間は、朝から陽が暮れるまで。ケルヴァン殿下の時と同じですわ。移動はコクエンたちの力を借ります。
とはいえ、コクエンはお母様の召喚獣、見た目は魔獣ですからね。王都まで往路を、魔獣の姿のままで爆走するわけにはいきませんわ。
なので、少し細工をいたしました。
コクエンたちに〈変異魔法〉を掛けてみましたの。私たち以外には、さぞかし立派な軍馬に見えるでしょうね。
細工をしなければならない理由は、王都までの道のりが、第ニ王子に比べて林や森が少ないからですわ。いかに彼が身を隠しながら移動したかわかりますよね。
この速度で進めば、一週間は掛かりません。
通常なら、馬車で一か月以上は掛かる距離ですのに。さすが、コクエンたちですわ。後で、ブラッシングしてあげますわ。皆、大好きですものね。
あと、ケルヴァン殿下ですが、砦の暮しで体幹が考えていた以上鍛えられてますね。コクエンたちの速さに体が順応していますもの。
反対に、従者は気を失ってますね。彼に合わせるつもりはありませんので、スピードを落としませんわ。おとなしく、そのまま気を失っててくださいね。その方が楽ですから。
幸いなことに、道中は特に問題は起きませんでしたわ。町に立ち寄らなかったからですね。
なので、五日後には、王都に一番近い町に到着しました。
シオン様たちとの相談の結果、今回は町に寄ることにしましたの。王都の情報を仕入れるためですわ。
王都に近いだけあって、賑わいはあります。だけど、全体的に陰りがあるのは隠せていません。住民たちも、どこか緊張している様子で、些細な音にも反応し、ビクビクとしていますからね。
自ずと、どういう状況下かわかりますね。
まぁ、最高権力を持った狂人が近くにいるのだから、当然の反応でしょうね。下手したら、胴体と首が簡単に離れてしまいますから。
「第一王子の驚く顔が楽しみですね」
大通りをシオン様と歩きながら、私は小声で話し掛けます。
その後ろを従者を背負ったケルヴァン殿下が続きます。後は、侍女二人と案内人、そしてお母様も一緒です。やはり、気になるのでしょうね。ひょっこりと現れ、私に抱き付いてきましたから。
そうそう、今回はとくに姿を変えていませんの。黒髪黒目の私と、英雄として有名なシオン様は、嫌でも人目を引きますわ。なので、名乗らなくても、私たちが入国していることは簡単に知ることができるはずです。
通常なら、王都にいる第一王子にすぐさま報せが飛びますね。転移魔法の魔法具や通信魔法具を使うのが通例ですが、騎士たちは魔便を使ったようです。いやはや、呆れますね。驚きはしませんよ。
なぜ、魔法具を使わなかったのか……
使えなかったと言った方が正しいですね。
だって、魔法具に使われている魔石を一番最初に利用するでしょうから。人から魔力を搾り取っているのですもの、当然、そこにも手を出しますわ。この時点で、すでに国として終わってると思いますが。魔便なら、私たちの遥か後方ですね。コクエンたちに追いつけるわけないですよ。
「驚くっていうより、歓喜に打ち震えるんじゃない」
シオン様の代わりに答えたのは、お母様でした。スルリと私の横に来て腕を組んできます。あいかわらず、お母様はスキンシップ過多ですね。別に構いませんが。
「確かにそうでしょうね。黒髪黒目が二人いるのですから。さぞかし、高待遇で迎えてくれるでしょう。楽しみですわ」
ニッコリと微笑みながら答えます。するとなぜか、ケルヴァン殿下たちが半歩距離をとりましたわ。
「ほんと、楽しみよね」
お母様もクスクスと笑って同意します。その目は全く笑っていませんでしたが。
あっ、また半歩下がりましたわ、ケルヴァン殿下たち。殺気は抑えますのに。漏れ出でてるのかしら? なら、気をつけませんと。変な輩が出てきますから。
今、私たちの前に現れたようにね。
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