263 / 297
エルヴァン王国の未来
第八話 特別講義ですわ
しおりを挟む「監視……?」
ケルヴァン殿下が訝しげな表情で尋ねてきました。
彼は、こと魔法に関してはあまり得意ではありませんからね、ここは私が特別に教授してあげましょう。そう思った途端、シオン様の腕の力が入りましたが、それは受け流して進めます。
「おそらく、狂王子は王都全体にある種の結界を張っているのでしょう」
「結界を?」
「ええ、そうです。例えば、高い能力値がある者が寄れば引っ掛かるような類いのものを。探索魔法の応用版みたいなものですわね」
私がそう答えると、さらに、訝しげな表情をするケルヴァン殿下。
「……エルヴィン王国では、イルヴァンはかなりの魔力持ちだったが、こんな大掛かりな魔法を展開するほどの魔力はなかったぞ」
ごもっともなご意見ですね。そのような魔力を有していれば、私の耳にも入ってきますわ。
「確かに、狂王子自身の力ではありませんわ。魔力を増長させている媒体があるのです」
ケルヴァン殿下でもわかるでしょう。媒体がなにか。
「竜石か……」
「ええ、竜石ですわ。封印が解かれていないとはいえ、魔力を増幅させるまでには、封印が解かれつつあるということですよ」
竜石ではなく、腐石ですけどね。
封印が解かれつつあるということは、淀みが生まれつつあるということですわ。そして、淀みを放っておくと魔物が生まれ、大地は腐れ、草一つ育たない地になるでしょう。狂王子の監視のおかげで、どこまで竜石の封印が解けているのか知ることができましたね。
事実、空気に僅かですが腐敗臭がします。
考えていた以上に事態は進んでますわ。猶予がありませんね。
「あ~そういうことか、納得した」
私の説明に、ケルヴァン殿下は晴々な顔をします。これだけのことで。砦の皆に好かれるのがわかりますわ。教えたくなるもの。
「セリア」
耳元でシオン様が囁きます。低い声で。
途中で止めるわけにはいきませんので続けます。
「コホン。話を戻しますが、狂王子は王都全域に結界を張り、引っ掛かる者がいれば監視すると言いましたね。監視に気付けば、なお優秀、といったところですか。竜石の力を一部借りたとはいえ、その努力、なぜ別の場所で使わなかったのでしょうね。使えるのなら、未来も変わったでしょに」
いまさら、言っても仕方ないことですね。散々、その話はしましたし。過去には戻れませんわ。
「だとしたら、セリア様たちは……?」
「狂王子から合格点もらえたでしょうね。褒美は、生贄でしょうか」
謹んで辞退したいですわ。
「生贄にはさせない」
また、耳元でシオン様が囁きます。
「私もさせませんわ」
シオン様も気付いたのですから、当然、生贄対象でしょう。もちろん、お母様も。
「俺も、セリア様たちを生贄にはさせない!!」
一歩身を乗り出して、ケルヴァン殿下はそう宣言しました。
婚約者同士の会話に入り込んでくるケルヴァン殿下。らしいといえば、らしいですわね。侍女たちの冷たい目気付いてます? 従者は溜め息吐いてますよ。反対に、お母様は楽しそうですけどね。全く気付いてませんね。さすが、ケルヴァン殿下ですわ。
友人として、ケルヴァン殿下のお気持ちはとても嬉しいのですが、この中で一番弱いのはケルヴァン殿下ですよね。ダントツに。だけど、ちゃんとお礼は言いますよ。
「ありがとうございます、ケルヴァン殿下」
「ーーほんわかしているのは、どうやら終わりのようだ」
シオン様が私を下ろします。
立ち塞がるのは、町で出会った騎士とは違い、立派な装いをした騎士たちでした。
でも、その目に生気はありません。まるで人形のようですわ。動きもまるで同じ。
「……そう……墜ちるところまで、堕ちた男がやることはゲスいですね」
私は低い声でボソリと呟きます。
味方である騎士の精神に関与し、操り人形のように従属化しているのがわかったからですわ。
「人聞きの悪いことは仰らないでくださいますか、セリア皇女殿下」
人形の騎士の背後から、やや年配の脂ぎった男が出てきた。できれば、生理的に関わりたくない部類の人だった。
応援ありがとうございます!
4
お気に入りに追加
7,521
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。