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エルヴァン王国の未来
第十九話 食堂にて
しおりを挟む「……どうして、ここに貴方がいるのです?」
「なんで、お前がいるんだ?」
同時に声を上げる、私とシオン様。
久し振りに砦でご飯を食べようとシオン様と一緒に食堂に顔を出したら、いるばずない人がご飯をがっついていました。
「久し振りです。隊長、セリア様」
ニカッと笑いながら挨拶すると、またがっつき始めます。よほどお腹が空いてたのか、テーブルには空になった皿が五皿重ねられています。
「ケルヴァン陛下!!」
私は彼の前に回り込み、テーブルに両手を付き詰め寄ります。
だって、当然でしょ。目の前にいるのは、エルヴィン王国を救い、王座に継いたはずの人物なのだから。そこまで見届けてから、私とシオン様は戻って来たのに。
「止めてください、セリア様。俺は陛下じゃありませんから。それに、王籍も返還してきました」
苦笑しながら、頭の後ろを掻くケルヴァン殿下。
陛下じゃない!? 王籍の返還!?
「はぁ!? どういうことなの!?」
「どういうことだ!? きちんと説明しろ!?」
私とシオン様に詰め寄られて、渋々ケルヴァン殿下は話し始めました。
「簡単に言えば、国民の総意なんですよ」
「国民の総意?」
「今回のイルヴァン件、片を付けたのは俺じゃないことになってるんで、セリア様も隊長も内緒にしてください」
どういうこと? ケルヴァン殿下じゃないことになっているなら、いったい誰がイルヴァンをーー。
「まさか……あの腰抜け第二王子が陛下になったとか言わないでしょうね」
険しい表情に、ケルヴァン殿下は若干怯みながら答えます。
「そのまさかです」
「どうして!?」
「エルヴィン王国が一番大変な時に、国に残って国民を護っていたのは兄上ですから。国民の大半は、兄上がイルヴァンを倒したと思っているんですよ」
真相はどうであれ、腰抜け第二王子が国に留まり、魔物を狩り続けたことは事実でしょう。国民がそう勘違いしてもおかしくはない。しかし、釈然としない。モヤモヤ感がどうしても残る。
「だからって……」
「セリア様、今はエルヴィン王国が一丸のなるべきです。その大事な時期に、新たな不安要素を作る必要はないと思ったんですよ。だから、全て捨ててきました。今の俺は、只の平民です」
国の未来のために、ケルヴァン殿下は全てを捨てた。
簡単にできる決断ではないでしょう。でも、おそらく、ケルヴァン殿下は笑いながら了承したのでしょうね。その様子が、簡単に頭に浮かびますわ。
もし私が、ケルヴァン殿下と同じ立場なら、同じ行動をとったでしょうね。自分よりも国民の幸せを、国の未来を考えるのならーー。
ただ……残された、託された、腰抜け第二王子にとって、その身に降り掛かる重責は生半可じゃないでしょう。それはまるで、呪いの鎖みたいに全身をがんじがらめにするでしょうね。イルヴァンの時は逃げれたけど、今回は逃げることは絶対許されない。
過度な期待と国民の目ーー。
常に晒され続けるでしょうね。
そして、大事な弟を踏み台にして王になった。
イルヴァンとは違う意味で壊れなければいいけど。まぁ、私には関係のない話ですね。もう、あの国には竜石はありませんし。
それに、そもそもエルヴァン王国とは国交を結ぶつもりはありませんから。エルヴァン王国の元第一王子がやらかしたことは、近隣諸国は知っていますし、公表していますからね。
なので、表立って助ける国はありません。一応王国を名乗ってはいますが、国の体裁はもはやありませんし。集落の集まりといったものでしょう。
全てを一からつくりなおす。
あの腰抜け第二王子に、それができるのでしょうか。私が心配することではありませんね。
すでに、エルヴァン王国はそう決断し動き出したのですから。
「……それで、ケルヴァンはここで働きたいのですか?」
私はケルヴァン殿下を呼び捨てにし尋ねます。
「はい!! できれば、隊長の元で今まで通り働きたいです。よろしくおねがいします!!」
ケルヴァンは立ち上がり深々と頭を下げます。
「学園はどうするのですか?」
「お金がないから、退学になりますね」
残念そうに答えます。
「なら、奨学金の試験を受けなさい。学は自分を守る武器になります。これから、この砦で働きたいのなら、武器は多い方がいいでしょう。但し、好奇な目に晒されるでしょうが」
ケルヴァンなら大丈夫でしょう。
「いいんですか!?」
ケルヴァンは嬉しそうな表情で尋ねます。
「よろしいですよね、シオン様」
「ああ、構わん」
シオン様も認めてくれます。
「ありがとうございます!!」
ケルヴァンは立ち上がり、私とシオン様に向かって深々と頭を下げました。
私側も、優秀な人物を放り出したくはありませんからね。今回の件で一皮剥けましたからね、これから急成長するでしょう。
「あっ、そうだ!! セリア様、シオン隊長、結婚おめでとうございます!! ……あれ? どうしたんですか?」
私が逆プロポーズした件ですよね……
「……まだ、しておりませんわ」
家族全員から反対されて。
でも、私は諦めていませんわ。なんとしても認めてもらうために、色々手を打っているところですわ。
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