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なんとしてでも、結婚してみせます
第一話 どうしてですか!?
しおりを挟む少し時間をさかのぼって、私とシオン様、お母様がコンフォート皇国に戻って来たばかりのお話です。
「さぁ、シオン様、神殿に行きましょうか」
本当は一眠りしてから神殿に向かいたかったのですが、邪魔がはいるかもしれませんからね。こういうことは、さっさとすませるにこしたことはありませんわ。ムードなど全くありませんけど。
ムードよりも、婚姻が先ですから。
婚姻に関する書類を発行できるのは、神殿だけですの。特殊な魔法で作られた用紙にサインすることで、はじめて婚姻関係になりますの。
その用紙は、希望すれば誰でも自由にもらえます。ただ……一度婚姻すれば、離婚するのは難しいので、皆自ずと慎重になりますね。強制力が強いのです。なので、そういう意味では、お父様とお母様は正式な婚姻関係ではありませんわ。
「そうだな。用紙をもらって、さっさとサインをしよう」
シオン様はニカッと笑うと、私を抱き上げ、神殿に向かって走り出します。それが嬉しくて、私はシオン様の腕の中でうっとりとしてましたわ。
今にして思えば、それがいけなかったのです。その時間のロスが……甘かったですわ。
「どうしてですか!? なぜ、発行できないのですか!?」
私は神殿長の机にバンと両手を付くと、神殿長に詰め寄ります。
「皇帝陛下から発行しないようにと、承っております」
お父様が!? 犯人はお母様ね!!
内心、派手に舌打ちしてしまいましたわ。
「いつから、神殿は皇国の言いなりになるようになったのですか!? 私は独立した機関と考えていましたわ!!」
私がそう言うと、シオン様も続きます。
「希望すれば自由に貰える。身分に問わず。それが、神殿の決まりではなかったか?」
口調は静かですが、怒気が漏れてますわ。
「確かに……ですが、ものには例外があります。コンフォ伯爵」
さすが神殿長、シオン様の怒気に怯むことなく答えます。
「例外?」
「はい。セリア皇女殿下は成人になられたばかり。ましてや、後一年半後には正式に婚姻できます。なぜ、お急ぎになられるのですか?」
反対に神殿長にそう訊かれて、言葉に詰まりますわ。それはシオン様も同じのようで。
「……こちらにも、色々あったのです。二人で相談した上で決めたことですわ。それでも、駄目なのでしょうか?」
頼み込んでも、神殿長は渡してくれません。
シオン様が私の肩を抱き、自分の胸元に引き寄せると、静かな声で神殿長に尋ねました。
「神殿長、皇帝陛下の許可書があれば発行できるのだろうか?」
「もちろん、許可書があれば、いつでも発行できます」
シオン様がニヤリと笑います。
「わかった。ならば、許可書をもらうだけだ。或いは、本人の口から直接言わせるのも可か?」
「はい」
「ならばいい。騒いですまなかった。行くぞ、セリア」
皇宮に突入するのですね。もちろん、全力を出して、お父様を捕まえますわ。
「神殿長、お騒がせして申し訳ありませんでした」
軽く頭を下げ、私たちは神殿をあとにしました。
そして始まったのです。
お父様との鬼ごっこが。
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