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なんとしてでも、結婚してみせます
第三話 鬼ごっこ
しおりを挟む「ーーというわけで、お父様との鬼ごっこが、今も続いているのです。何回か、追い詰めたことはあったのですが、僅差で逃げられてしまい、ほんと、酷い話だと思いませんか? ケルヴァン、聞いてます?」
私は砦の食堂で、ご飯を食べていた元ケルヴァン陛下にあらましを話しました。私の逆プロポーズを近くで聞いていた一人ですからね。半分は愚痴ですけど。
「ちゃんと、聞いてるよ。まぁ……皇太子様の言うのも一理あるけど、セリア様とシオン隊長が本気になって捕まらないって、かなりの強者なんだな、皇帝陛下は」
ケルヴァンはびっくりした顔で無邪気に感想を述べます。敬語忘れてますよ。まぁ、友人だし別に構わないけど。
「私の先輩ですからね。それに、今回はお母様が絡んでますもの。お父様は本気で鬼ごっこを終わらすつもりはないでしょうね。特に今回は、お母様との仲直りを目論でますから」
それでなくても、お母様至上主義のお父様にとって、お母様のお願いは神の啓示にも等しいのですから、叶えようと必死になりますわ。ほんと……お母様が絡むと、お父様は手強いですわ。ある意味、最強ですわね。腹立たしいですが。
「スミスさんの力を借りれないのか?」
チラリとシオン様を見てからら少しだけ顔を寄せ、ケルヴァンは小声で訊いてきました。
エルヴィン王国の件で、侍女二人と接した時間が長い分、色々と察したのでしょう。らしくなくても、元王族ですからね。別に小声で訊かなくても、外に漏れないようにしているから大丈夫なんですけどね。
「スミスは私の仕事のフォローに回ってくれてますから、頼むことはできませんわ」
溜息混じりに答えます。
「その気持ちはわかるけど、使える人間は使った方がいいんじゃないか。その方が早く片が付いて、結果的に、スミスさんたちの仕事量も減るだろ。……シオン隊長はどう思います?」
「スミスは今はセリアの直属の部下だからな、俺からは何も言えん。それよりも、ケルヴァン、セリアから離れろ。近過ぎる」
「痛っ!! 酷いですよ、シオン隊長!!」
頭に落ちた拳骨に悲鳴を上げる、ケルヴァン。涙目になりながら、さらに訊いてきます。
「それで、本心はどうなんです?」
突っ込みますわね。ナイスですわ、ケルヴァン。私も訊きたかったことですから。
「……それはだな、俺としては………」
じれったいですわ。言い淀むシオン様に、今度は私が突っ込みます。
「俺としては、何ですか?」
最後まで言ってくださいませ。逃しはしませんよ。
にっこりと微笑みながら圧を掛けます。
「……俺とセリアの問題だから、できれば俺たちで解決したいと考えている」
やや、小声なのが気になりますが、シオン様の気持ちが聞けて嬉しいですわ。
「夫婦としてですわね。乗り越えなければならない壁というわけですね」
壁は高いければ高いほど、乗り越えた時の達成感は大きいですもの。それも、私とシオン様と一緒ならなおさらですわ。
燃える私をよそに、ケルヴァンがボソッと呟きます。
「…………この鬼ごっこ、終わらないんじゃないか」
あっ、酷っ。ちゃんと聞こえてますよ。文句を言おうとしたら、その前に口を挟んできた者がいました。冷たい冷気を放ちながら。
「私もケルヴァン君の意見に賛成です」
どこから聞いてました? 全く、気配がしなかったのですが……スミス、珍しく苛立ってますわね。その笑顔が怖いですわ。目が笑ってませんもの。
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