318 / 344
今度は学園外にアレが発生したようです
第一話 抗議は一切受け付けません
しおりを挟むシオン様のお仕置きを一時中止にした翌日、私はクラン君と共に学園長室を訪れていました。
要件は、短期留学のことですわ。
テーブルを挟み向かい合わせに座ると、私から要件を切り出します。
「学園長、今回の短期留学の件なのですが、前回の学院のことを踏まえて、試験を行った上、判断したいと考えております」
無条件に受け入れるつもりはありませんわ。当然、特例を認める気もありません。いくら短期だとしてもです。例え、他校からの推薦状を持っていたとしても、それはあくまで参考程度。
教職員から反対する声はあると思いますが、実際に試験を受け、合格した者のみの門戸を開けるべきですわ。
「……確かに、それがよろしいですな」
少し考えてから、学園長は答えます。
「意外ですわ。難色を示されると考えていましたわ」
私がそう告げると、学園長は苦笑しました。
「通常なら、難色を示す者もいたでしょう。貴族を受け入れている以上、学園と政治は切り離されるものではありませんから。しかし、私たちは一度、それで手酷い痛手を負いました。教職員の中には、まだそのことを気に病む者もおります」
そこまで言わせる、皇国の学院の生徒の酷さって……私でも、うんざりしましたからね。ほんとうに恥ずかしくてたまりませんわ。今でも、担当になった教職員には頭が上がりません。
何があったか簡単に説明すれば、嫌な意味で、貴族の中でも貴族らしい者たちと、お花畑思考の者が交わった結果、予期せぬ相乗効果をもたらしました。かなりの醜態をさらし、問題行動を立て続けに起こしたのです。
「大丈夫ですか? ケアの方は?」
とても、心配になります。
「それは大丈夫です。あのような者たちは、そうそういませんから」
「いたら、この前と同じように丁寧に梱包して、説明書などを用意して送り返しますわ」
当時を思い出したのか、学園長は声を上げて笑います。
「それが、一番ですな。それで、試験とはどのような?」
「入学試験の簡易版でよろしいかと。ハンターギルド登録、ランクは最低限D以上。実技試験と筆記試験は必須。筆記試験は、この前の中間テストでよろしいかと。六割以上が最低ラインだと考えています」
最低限、そのラインで授業にギリギリ付いていけるレベルですからね。
「なるほど。しかし、貴族の令息や令嬢たちの親や本人が、ハンターギルドに登録に関して難色を示すのでは」
でしょうね。実際、以前の学院でハンター資格を有しているのは、ほんのごくわずかの生徒だけでした。高位貴族は皆無。それは、他国でも珍しいことではありませんわ。
そもそも、そういった貴族たちは、ハンターを軽く見ていますからね。使い捨ての駒のように。ほんと、腹立たしいですわ。
「示すのであれば、短期留学を諦めればいいだけのこと。この学園は本来、高ランクのハンターの養成を主としております。魔の森から発生するスタンピードの抑制力として。現に、今この学園に通う生徒全員、高位貴族や平民、身分に関係なくハンター資格を有しておりますから」
私が理事に就任した時に、まずしたのは、学園の本来の意味を明確にしたことです。
結果として、この学園の生徒数は他の学校に比べて極めて少なくなりました。最高ランクの教育を提供しているのに。まぁそれが、学園のレベルを底上げすることに繋がったのですから、間違った方針とは思いませんわ。
「理事長など、世界で数人しかいないSSランク保持者。理事長が提示されたレベルに達していない者は、却って、この学園の生活は厳しいですな」
ホッホと笑う学園長、なかなか食えない人ですわ。だけど、誰よりもこの学園を一番に考えている方ですわ。
「入学が認められても、その鼻を折られる者は多いですけどね」
超実力主義。そこに身分などないですから。あるのは、実力差から生まれる明確な上下関係。
「それで心が折れるようならば、ハンターだけでなく、別の職種でも三流止まりでしょう」
「そうですわね」
激しく同意いたしますわ。
私の名で正式に公示した内容に、反発する声は、考えていたよりは少なかったです。とはいえ、短期留学を申し出た三分の二は、抗議して来ましたが、勿論、一蹴しましたわ。
それでも、乗り込んで来て抗議する団体さんには、新入生の一番低いランクのクラスの授業を見ていただきました。
すると、最後は皆、顔色を変え黙って帰られるのです。
そもそも、真剣に短期留学をしたいのなら、何故、我が校のことを調べていないのでしょう。調べていたら、我が校が貴族などの身分に左右されないとわかるでしょうに。
それとも、それは表向きだと受け取られているのかもしれませんね。
まぁ、その誤解は彼らによって直ぐに訂正されるでしょう。
さて、何人一次試験に残るか楽しみですわ。
魔の森に隣接している我がコンフォート皇国は、常に力を持つ人材を欲していますから。
331
あなたにおすすめの小説
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。
パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、
クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。
「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。
完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、
“何も持たずに”去ったその先にあったものとは。
これは誰かのために生きることをやめ、
「私自身の幸せ」を選びなおした、
ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
【完結】王妃を廃した、その後は……
かずきりり
恋愛
私にはもう何もない。何もかもなくなってしまった。
地位や名誉……権力でさえ。
否、最初からそんなものを欲していたわけではないのに……。
望んだものは、ただ一つ。
――あの人からの愛。
ただ、それだけだったというのに……。
「ラウラ! お前を廃妃とする!」
国王陛下であるホセに、いきなり告げられた言葉。
隣には妹のパウラ。
お腹には子どもが居ると言う。
何一つ持たず王城から追い出された私は……
静かな海へと身を沈める。
唯一愛したパウラを王妃の座に座らせたホセは……
そしてパウラは……
最期に笑うのは……?
それとも……救いは誰の手にもないのか
***************************
こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。