剣神と魔神の息子

黒蓮

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第二章 クルニア学院

入学 8

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「・・・エ、エイダ・・君。君って何者なの?」



 気を取り直して今日の授業である素振りを行ったのだが、僕の剣筋を見たアッシュの第一声が何故かやたらと困惑していた。一応授業の方針として、素振りの剣筋がブレていないかを組んでいる相手に確認してもらうものだと考え、アッシュと同程度の速度でやったのだが驚かせてしまったらしい。



「何で急に君付けなんだよ?別に普通に素振りしただけだよ?」


「いやいやいや!君の両親は生産職で平民なんでしょ?いったいどこでこんな完璧な剣技を身に付けられたんだよ!?」


「えっ?そりゃ父さんに教わったんだよ?」


「は、えっ?一流の剣術士の騎士を招いたとかじゃないのか?」


「??いや?型の動きや重心、呼吸くらいは、剣術を嗜むものなら誰だって出来るから、って教えられたんだけど」


「誰でもって、そんなわけ無いだろ!!その理屈で言ったら、国中にいる闘氣を扱える者は全員騎士になれるじゃないか!!」


「いやいや、そんなわけ無いでしょ?騎士になるような人は、きっと僕の想像も出来ないくらいの高みにいるんじゃないの?」



父さんは自分に事について、「周りと比べたら多少は力があるかな」というような表現をしていたので、職業として騎士をしている人はもっと凄いのだろうと思っている。


学院へ来る前に出会った女性騎士は、多勢に無勢の状態で怪我もしており、馬車を守りながらという特有の状況のせいで実力が出せなかったのではと思っている。


また、実際に戦っている姿を見た訳ではないので、騎士という人物がどれ程の力を有しているのかは、未だ僕は知らないのだ。その為、アッシュの驚きようが理解できなかった。



「あのなぁ、これでも家の父親は軍務大臣なんだぞ?その伝を使って俺は幼い頃からこの国でも最高峰の剣術士の指導のもと、剣術を磨いてきたんだ。にも関わらず、エイダの剣術はそんな俺以上に完成しているじゃないかっ!!!」


「そんな大袈裟な・・・」


「エイダ、君のお父上の名前を教えてくれっ!!」



アッシュは興奮して、僕の肩を掴んで前後に揺らしながら血走った目を向けてくる。そのただならない様子に若干恐怖を感じながら、父さんの名前を口にする。



「父さんはジン・ファンネルだよ」


「・・・ジン?知らない名だ・・・子供にこれほどの剣技を教えることの出来る人物が無名とは信じられない。是非一度お会いしたいものだ!」



そう言いながらアッシュは目を輝かせて僕を覗き込んでくる。きっと僕に父さんと会うための仲介をして欲しいんだろうが、父さんも母さんも結構貴族を嫌っていたので、会わせるのは難しいかもしれない。



「う~ん、実は家の父さんも母さんも貴族にあまり良い印象がないらしくて、難しいと思うよ?」


「くっ!そうなのか・・・かなりの技量の人物なのだろうが、もしかしたら過去に何かあったのかもしれないな・・・良ければ聞くだけ聞いてみてくれないか?」


「まぁ、聞くだけならね」


「そうかっ!ありがとうエイダ!いやはや、持つべきは話の分かる友人だな!!」



僕の言葉に満面の笑顔になりなが背中を叩いてくる。アッシュは貴族らしからぬ性格と言動で付き合いやすいのだが、彼の実家はこの国でもかなりの権力を持つ貴族らしい。そういった部分を父さん母さんがどう思うかは、僕の感情とは別問題だ。



(僕としては、別に実家に連れていっても良いと思うけど、それは母さんが判断することだしな・・・)



無意識にこういった重要と思える決定は、我が家では母さんがするものだと考え、端から父さんがどうこうするとは考えていなかった。それ以上に、今まで自分が思っていた世の中の一般的な武力水準が、少し崩れ始めたような感覚に陥ってしまった事が衝撃だった。



(軍務を預かる家の人が見ても僕程度の技量が高いと言うのなら、僕が足元にも及ばない父さん母さんはいったいどれほどなんだ?)



自分の中の常識が崩れそうになっている事に頭を抱えながらも、その後の授業をなんとかこなしていった。その際、ゆっくりと素振りをしながらも周りの様子を窺うと、アッシュの言うように同級生の技量は格段に低かった。


僕から見れば剣筋はブレブレで、上半身の力だけで剣を振っているので、重心の移動も満足に出来ておらず、それでは刃に力が乗らないのにと思いながら見ていた。


型が崩れていたら指摘するはずのペアとなっている見ている側も、指摘できるだけの実力がないためか、結果として見ているだけで何も言えていなかった。


その為、見回っている先生が時折り動きや体運びを指導すると言う状況になっている。見とり稽古にもならない何とも言えない時間がただ過ぎていくだけで、僕にとっては無駄な時間だと失礼ながら感じてしまった。


結局先生は、僕とアッシュが剣を振っている場所には一度も顔を見せることなく授業は終わり、2人で苦笑いをしながら寮へと戻った。


ちなみに、その授業の時間でアッシュがやたらと僕との距離を詰めてきた。僕が伝えられる範囲で動きの修正を指摘していたのだが、それにアッシュは凄い感心して、あれやこれやと聞かれているうちにお互い打ち解ける事ができたのだ。



 翌日ーーー


 午前中の座学で経済を学んだ後、今日の実技は魔術コースに参加することにした。昼食を食べながらその事をアッシュに伝えると、少し悲しげな表情をしていたのが申し訳なかった。


昨日の様子を見るに、ペアを組むような授業だった場合、孤立してしまうからだろうと思ったのだが、アッシュ曰く、僕からの指摘は的を得ていて分かりやすく、その指導が無くなるのは困るという理由を聞いて苦笑いを浮かべてしまう。


一緒に昼食を食べていたカリンとジーアは、そんな僕たちの様子に、いつの間にそんなに仲良くなったのかと目を丸くして驚いていた。食事後、彼女達と連れだって魔術演習場へと向かい、やっぱりこっちでも演習場の端の方に陣取ることになった。




「では、魔術の実技を始めます!今日は初参加の人も居ますので、一応私の名前を伝えておきます。私は魔術コース担当のジェシカ・キャロラインです。まぁ、よろしく」



生徒達の前に立つ、神経質そうな目付きのキツイ先生は、僕の方へ冷めた視線を向けてからすぐに全体に向き直った。



(昨日から何となく感じてたけど、担任の先生以外のこの学院の先生達は、僕らみたいな2つの能力持ちに対して冷たい気がするな・・・)



剣術コースの先生は、素振りの際についぞ僕らの様子を見に来ることはなかったので、おそらくこの教師も同じような対応なのだろうと予想できてしまった。


カリンやジーアの顔を見ると、諦めているような力の無い表情をしていたので、昨日既に何かあったのだろう。



「本日も魔術の制御を高める鍛練を行います!個人の適正ある魔術を、20m先の的を正確に狙って当てるように!では、始めなさい!」


「「「はいっ!!」」」



先生が指示を出すと、生徒達は一斉に奥に常設している的のある場所へ移動を開始した。僕らはというと、カリン達に連れられて、そこから少し離れている的への距離が半分の場所へと移動した。



「何で皆から離れて、こっちに移動したの?」


「昨日もこっちで実技や言われてん。まぁ、他の生徒と比べるとウチらは実力が足りてへんからな・・・」


「つまりは、邪魔物扱いされて隅に追いやられたの」


「そ、そうなんだ」



ジーアとカリンは自嘲しながら僕にそう告げると、腰に下げていた杖を掲げて、横一列に5つ並んでいる的に向かってそれぞれ鍛練を始めた。


やり方を知る為に、まずは2人の様子を見ていたのだが、やっているのはただ魔術を発動して的に当てる、それだけだった。


自己紹介の際に聞いた通り、カリンは水属性を、ジーアは風属性を放っている。二人とも第二階悌のようだが、制御が甘く、的に全く当たっていなかった。


ただ、込められている魔力量も少なかったので、見当違いの方向に誤射したとしても、怪我の心配がないくらいには威力が抑えられていた。



(命中精度を心配して、込める魔力を意図的に落としているのかな?)



込めた魔力量に応じて制御というのは難しくなっていく。だからこそ込める魔力を少なくしたのだろうと思った。


そんなことを考えながら彼女達の鍛練を見ていると、僕らの後方からメラメラと不定形な火の塊が飛んできて、『ドンッ!』という音と共に、カリン達が狙っている的に着弾した。



(ん?誰だ?)



魔術の飛んできた方を向くと、そこにはこちらを見下すような嫌らしい笑みを浮かべながら、取り巻きを伴って近づいてくる人物がいた。その子は、艶のある黒髪をツインテールにした、カリンと同じ位の背丈の女の子だった。


ただ、胸を張って歩くものだから、胸元の寂しさが余計に強調されるようになっており、カリンと比べると、別の意味でとても同い年とは思えない体型をしていた。つまるところ、幼児体型なのだ。



(この状況・・・面倒なことにならないといいんだけどなぁ・・・)



昨日の出来事を思い出しながら、その既視感にこれからの展開を予見して、僕は頭を抱えるのだった。
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