剣神と魔神の息子

黒蓮

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第二章 クルニア学院

入学 17

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(数は・・・全部で6、いや7人か。1人、敵意はないけど全体の状況を観察するように離れた場所にいるな・・・)



 父さん直伝の敵意や気配を探る技術で相手の人数を確認すると、直接的に行動を起こそうとしている人物が6人と、目的は不明だが、監視要員のような人物が1人確認できた。


さすがに白昼堂々と人気ひとけの多い通りで行動に出ようとはしていないが、隙あらばいつでも動けるようにしている感じがする。



カリンとジーアにも状況を伝えて襲撃に備えてもらおうかとも考えたが、アッシュでさえ荒事になりそうな現状に緊張を隠せないでいるのだ、女の子である2人の場合はパニックになる可能性も考えられたので、特に何も告げないようにしていた。



 そのまま中央公園へと到着し、広い園内を珍しがるようにしばらくキョロキョロしながら観察して、頭の中に公園内の地図を作っていく。



「へぇ~、都市の中にこんな大きな公園があるんだね!」


「あ、あぁ、この都市は学院があるからな。学生達の憩いの場所になるようにってことで、領主がこれだけの広さにしたらしい」


「ウチも聞いたことあるわ。何でも領主はんは、学院生の時に今の奥様を見初めたゆうて、告白したのが当時もっと小さかったこの公園らしいで?奥様との想い出と、後輩達も後に続けっちゅう激励を込めて公園を広く整備したらしいわ!」


「へ、へ~そんな逸話がある公園なのね」



ジーアの話を聞いて、カリンはアッシュをチラッと見ながら何事か考えているようだった。それを敏感に察した僕とジーアは互いに視線を交わしてニヤニヤしていた。


残念ながらアッシュはそれどころではないようで、先ほどから落ち着きがないが、何とか平静を装っている。




 端からはどう見ても仲の良い学生同士が遊んでいるようにしか見えないだろうが、僕の意識は皆と会話しながらも、絶えず周りの注意に向いていた。


公園の奥の方へ入っていくと、段々と人気ひとけが疎らとなり、襲撃者にとっては絶好の機会が訪れようとしていた。



(そろそろ動くかな?)



6人の襲撃者達は、こちらを取り囲むように散開して包囲してきた。まだ姿を見せてこないが、あちらはいつでも動ける態勢を整えたようだ。


ことここに至れば、もはや間違いだったということはないだろうが、こちらから先制して言い掛かりをつけられないために、まずは相手に攻めさせようと考えた。


それにーーー



(犯罪者は騎士に突き出せばお金になる。臨時収入を頂きますか!)



既に僕の頭の中では、相手を引き渡せば幾らになるのかを考えて頬を綻ばせていた。寧ろ、さっさと襲ってこいよという思いすらあるほどだった。


そんな僕の考えが通じたのかは定かではないが、人通りが無くなった瞬間に前方に配置していた3人が短剣を抜き放ちながら襲い掛かってくる。


正体を隠すためか、ボロボロの黒いフード付きのコートをなびかせながら、こちらを標的に踏み込んでくる。



(学生より実力は上のようだけど、以前の盗賊よりも劣ってるな。あんな不定形でしょぼい闘氣を纏ってたら、父さんの拳骨が飛んでくるところだよ!)



僕の両親は、世間からは異次元の実力者だということを認識することはできたが、だからと言って今までの比較対照は両親しか居なかったので、2人と比較すればまったくといっていいほど襲撃者達から脅威を感じなかった。


とは言えそれは僕だけのようで・・・



「「キャーーー!!」」



突然の襲撃者の出現に、カリンとジーアは叫び出してしゃがみこんでしまった。おそらく恐怖で身体が動かないのだろう。


恐怖というものは厄介で、本来は危険を感じれば逃げる行動を取るべきはずが、強い恐怖はそれすらもできなくしてしまう。目を逸らし、現実逃避してしまうのだ。


結果、何も出来ずに殺されてしまうということが多々ある。実戦に必要なものは、先ずは恐怖に打ち勝つ心だ。


技術でも武力でもなく、精神力が必要不可欠なのだ。



「アッシュ!ここは任せるよ!」


「お、おう!任せろ!」



気丈に返事を返すアッシュだが、その顔は恐怖に飲まれた表情をしていた。構える剣もカタカタと震えて、まったく力が入っていない。


闘氣を纏うことすら忘れているようで、こんな状態ではとても戦うことはできずに、あっという間に殺されるか拘束されてしまうだろう。



「僕が居なければ、だけどね」



 瞬間、闘氣を定着させた僕は、剣を抜き放ちながら襲いかかってくる奴らに向けて突っ込む。動き出しの衝撃で地面が弾け飛んでしまい、人が倒れたような音が聞こえたが今は気にしていられない。



「「っ!なっ!!」」



僕の動きが予想外だったのか、虚を突かれた襲撃者達は致命的なまでの隙を僕に曝していた。


こんな相手に返し技の必要もない。普通に突きを放てばそれで終わりだ。



「シッ!」


「っ!!ぐあぁぁーーー!!」



騎士団に引き渡すことと都市の中であることを考慮して、襲撃者を殺すのではなく戦闘不能にする為に、膝関節を突き刺して行動不能にする。


案の定、膝を貫かれた襲撃者はのたうち回りながら膝を抱えて苦悶の表情で叫んでいた。


仲間が一瞬でやられたことで、他の襲撃者は我を取り戻すように僕に短剣を向けて襲いかかろうとするが、予備動作から彼らがどう動くかは丸分かりだ。



(なるほど、2人で挟み込むようにするつもりか。でも、僕の方が早いから関係ないな)



相手が挟撃するつもりだと判断した瞬間に、僕はもう動き出していた。手近な方へ接近し、突きを放つと


すると、こちらの思惑通りに奴は手に持つ短剣を投擲してくるが、そうするように誘導した僕は慌てることなく体を1回転しながら短剣を躱すと、既に間合いの中に入り、短剣を投げ終わった隙だらけな身体を曝している襲撃者の膝を横薙ぎに斬りつける。



「ハァッ!」


『ゴキュ!!』


「っ!ぎ、ぐあぁぁぁ!!」



僕の剣には刃は無いので膝から下が斬り飛ぶことはないが、それでも身体に闘氣を纏った一撃だ。相手は膝がグチャグチャになり、足があらぬ方向を向いたまま倒れ伏した。


ここまで僅か数秒の内の出来事だが、さすがに相手もそれほど間抜けというわけではなく、次の行動に移ろうとしていた。


姿を見せている一人が手を上げて、後方を包囲している仲間に何か合図を送っていたのだ。すると、後方から魔力の高まりを感じた。



(なるほど、後方には魔術師を控えさせてたのか。前方の剣術師に注意を向けさせつつ、後方からの魔術で不意を突いてくるという作戦だったのかな?まぁ、無駄だけど!)



魔術が来ると判断した僕は、闘氣を吸収しながら解除して杖を取り出す。すると直後にアッシュ達目掛けて刃の様な風魔術が一斉に飛んできた。



「魔術妨害!×3」



僕はアッシュ達に向けられた魔術を迎撃すべく、移動しながら連続で〈魔術妨害〉を放つ。


更に、その結果を確認することなく残りの剣術師に迫っていた。相手も魔術で僕の隙が出来ると思っていたのだろう、こちらの動きを凝視していたようだったが、当然そんなことで隙を晒すようなことはない。



「くそっ!何なんだお前!」



怯えの感情が垣間見える襲撃者は、己を鼓舞するためか悪態をついてくるが、それに取り合ってやるつもりはなかった。



「犯罪者風情に何も言うことはない!」



僕は再度闘氣を纏うと、手にしている杖を逆に持ち変えて、棍棒の様に扱う。


そのまま正面から踏み込むと、襲撃者も反撃とばかり横薙ぎに短剣を振るってくるが、僕に対する恐怖に飲まれているのか、剣筋がブレブレだった。



「フッ、シッ!」

『ゴキュ!』


「ぎやぁぁぁぁ!」



横凪ぎの一撃を急停止でやり過ごし、短剣を振りきって無防備な相手の膝を狙って即座に突き込むと、膝を軸として足が曲がってはいけない前方に折れた。


あまりの激痛なのか、襲撃者は涙を流しながらのたうち回っている。



「さて、残りもちゃっちゃと片付けますか!」



 後方で魔術を放った魔術師達は、僕が魔術を消滅させたことに驚き戸惑っていたため、続けての攻撃をしていなかった。


僕はこれ幸いと、一気に後方の襲撃者まで走り抜け剣を振るった。相手も反撃しようと魔術を発動しようとするが、ここまで近づいてしまえば剣を突き込む方が早い。


既に瓦解していた襲撃者の残党は、1分と掛からず僕に制圧されて、不様を曝すことになった。


襲撃者の魔術師の杖の魔石は粉々に破壊して、「痛い痛い」と騒ぐ襲撃してきた6人を引きずってきて一所に集めた。


その最中も、もう一人の監視者の動向に注意を向けていたのだが、ただこちらを見ているだけで動きは何もなかった。




「皆、もう大丈夫だよ?」



 一息つくと、唖然としながら僕を見ていた皆は、その言葉に見て分かるほど肩の力が抜けたようだった。


カリンとジーアはしゃがみ込んだまま立てないようで、未だ青い顔のままだ。アッシュは膝立の姿勢で周囲を警戒するようにしていたが、僕の言葉に剣を下ろしていた。



「だ、大丈夫なのか?」


「僕?平気、平気!見ての通り傷一つないよ!」



アッシュの言葉に僕は腕を広げて見せ、何でもないことだったように笑顔で無傷をアピールした。


その様子に安心したのか、アッシュはほっと息を吐き出して座り込んでしまった。どうやら、かなりの緊張状態から解放された反動で、身体に力が入らないようだった。


皆は今まで実戦らしい実戦を経験したことが無いと言っていたので、突然訪れたこの状況に混乱してしまったようだ。



(まぁ、恐怖で錯乱して予想外の行動をしなかっただけいいかな・・・)



そう結論付けると、襲撃者に向き直って目的を聞き出すために、膝の痛みに倒れ込んだままの彼らに近づいた。


「さて、そっちの目的を聞かせてもらおうか?」



相手の口を割りやすくするため、殺気を纏いながら剣を向けて問いただした。すると、一人の襲撃者が引きつった声で話し始めた。



「ひ、ひぃぃ!も、目的も何も、金持ちそうだったから狙っただけだ!」


「本当にそれだけか?」


「そ、それ以外に何があるってんだよ?」


「例えば、誰かに依頼されたとか?」


「い、依頼って・・そんなわけないだろ!」



その瞬間、男の表情に動揺が走り、若干目が泳いでいた。どうやらどこからか依頼があったのは間違いないが、侯爵家の人間を襲撃するのにこの程度の人達しか雇えなかったと考えれば、敵も大したことないだろうと考えた。


どのみち僕に尋問のスキルがあるわけではないので、後は本職である騎士に引き渡すだけだ。



「まぁいい。ちょっと騎士を連れてくるから、お前らは大人しくしてろよ!下手に騒ぐと、今度は両手足の関節という関節を砕いて、一生寝たきりにしてやるからな!」


「「「ひっ!!!」」」



ちょっと凄むと、襲撃者達はブルブルと震えだし、僕と目を合わせようとせずに目を伏せてしまった。大の大人が、子供の僕の殺気にこれほど萎縮している姿を見ると、憐れみすら覚えるほどだ。




 ちょうど公園内を巡回していたのか、遠目に騎士を発見したので、まだ動けないでいる皆に断ってから呼びに向かった。


最初その騎士は怪訝な表情をしながら僕達が襲撃された話を聞いていたが、なんとか引っ張って連れてくると、6人もの人物が膝を抱えて呻き声を出している異様な光景を見て絶句していた。


犯人達の口からも事情を説明させ、納得した騎士は応援を呼んで襲撃者達を連行していったが、僕のことを見る騎士達の目は、まるで異常な存在を見るのような警戒感の籠った瞳をしていた。


襲撃者達は特に指名手配もされておらず、ギルドランクもCランクと言うことから、一人につき1万コルの報償金となった。僅か数十分で、合計6万コルの臨時収入に内心喜んだが、皆の表情を見て、それを表に出すことは止めておいた。何か分かった事があれば、学院に話を通しておくと告げられ、騎士達は去っていった。


その頃には皆落ち着きを取り戻していたが、まだ不安な様子で辺りをキョロキョロとしていた。



(実害は無かったとはいえ、あんなことがあったから不安なんだろうな)



皆の様子に、今日はこのまま学院に戻るべきだろうと考えたが、僕にはもう一つ確認すべき事が残っていた。



(あの監視者、襲撃者が引き渡された後も動かないな・・・別口だったのか?)



仲間であったなら捕まった事で救出に動くか、依頼主の所へ戻って報告するかと思っていたのだが、一向に動く気配がなかった。


そうなると、どういった存在なのか確認しておきたくなり、最後の一人も捕まえようと考えた。



(敵かどうかは不明だが、ずっと監視されるのも不愉快だしな。気配の隠し方で言えばさっきの人達より上か・・・まぁ、関係ないけどね)



僕はこれ以上皆を不安にさせないようにと、アッシュにトイレに行ってくると告げて皆から離れた。


3人とも僕が離れることに微妙に不安感を感じているようだったが、「さすがにこの騒ぎの後で、また事件が起こることなんて無いよ」と笑いながら言って安心させた。


実際のところ、僕らに敵意を向けているような人はもう居ないので、安全なのは間違いないだろう。



目的不明の監視者以外は・・・
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