剣神と魔神の息子

黒蓮

文字の大きさ
上 下
52 / 244
第四章 クルニア共和国国立ギルド

ギルド 7

しおりを挟む
 大森林の入り口へ到着すると、先ずは行動方針の確認を行った。



「ミノタウロスの生態から、日向ぼっこが出来る草原地帯にいる可能性が高いので、先ずはそこに向かいます」



僕がそう伝えると、ボビーさんが納得した顔をすると同時に質問してきた。



「それが無難だろう。移動の際はお前さんが先頭を?」


「はい!僕が先導していきますが、皆さんは闘氣を纏って森を走破するのは可能ですか?」



時間の短縮の為に、可能であれば目的地まで素早く移動したかったので、みんなを見渡しながら確認した。さすがに木の上を飛んでいくと言えば驚かれると考えたので、この場ではその提案を控えた。



「俺もスタンも、この森については経験も深いし、闘氣を使って移動しても問題ないぜ!」



ボビーさんの言葉に頷くスタンさんを見て、2人の了解が取れたことを確認し、レイさんに視線を向けた。  



「・・・私も問題ない」


「ありがとうございます。では、僕の速度が速過ぎたら言ってください!それと、道中の目的以外の魔獣に関しては無視、あるいは退けていきますので、皆さんもそのつもりでお願いします!」



僕の言葉を疑問に思ったのか、スタンさんが確認する。



「移動速度の件は分かるが、魔獣を退かすってなんだ?」


「えっと、進路上の魔獣を無視するのは難しいですので、殴って遠くに行ってもらいます!斬ってしまうと血の匂いに誘われて他の魔獣が集まってきそうですからね!」


「な、なるほどな・・・」



事も無げに伝える僕に、ポーターの皆さんは訝しむ様な視線を向けてくる。きっと、僕の実力を図計りかねているのだろう。



(今の僕はEランクだからな。実力が無いと思われていてもしょうがない・・・)



皆からの僕の実力に対する疑問は追々何とかなるだろうと考え、目的地への移動を開始した。



「では、出発します!」




 目的地である大森林にある草原地帯は、中層と表層の境くらいの場所にある。何故そんな所に木の生えてない空間が存在するのかは分かっていないが、ミノタウロスは日光浴のためにそこに集まることが多いらしい。


つまり、草原地帯ではミノタウロスは集団になっているので、大量確保のチャンスと言うことだ。今回はポーターを雇っているし、みんな闘氣を扱うことが出来る剣術師なので、一人当たり200㎏は持てると考えている。4人で800㎏納入出来るとすると、元々の報酬と追加を合わせて79500コルの収入となる。


そこからポーターの経費や往復の乗合い馬車代に、学院へ支払われる2割を差し引くと、手元に残るのは約6万コルということになる。



(な、何て事だ!!想定外の出費がなければ、一回の依頼達成であの正装代くらい余裕で稼げてしまうぞ!)



目的地へ向けて移動しながら、頭の中で報酬についての皮算用をしていると、口元がニヤついてしまった。今後も積極的に依頼は受けていこうと心に決めつつ、ポーターのみんなが僕の速度に付いてこれているか確認する。


障害物が多い森の中なので全力疾走など出来ないが、そこそこの速度で飛ばしている。チラリと後ろを振り替えれば、3人ともに余裕をもって付いてこれているようだ。オジさん2人は隻眼だったり隻腕だったりするので、距離感や身体のバランスの関係で早く走れるか心配していたが、今の状態の身体をしっかりコントロール出来ているようで問題無さそうだ。


レイさんも涼しい顔をして付いてきてくれているので、もう少し速度を上げても良さそうだが、それほど急ぐ必要もないし、この調子なら1時間も掛からずに到着しそうだったので、このままの速度を維持した。


みんなの闘氣の状態を見ると、オジさん2人は第四階層のようで深紅の闘氣を上手く制御しているようだった。完璧に制御できていると言うわけではないが、アッシュのお兄さんよりも余程熟達していた。


レンさんは第三階層のようで、オジさん達と比べると闘氣の制御は見劣りしてしまうが、十分な実力を有していると感じた。



 目的地までの道中は、予想していた通りゴブリンやコボルド、ナーガ等がたまに進路上に居たが、邪魔なので殴り飛ばしたり、蹴り飛ばしたりして、強制的に道を空けてもらった。


僕が魔獣を吹き飛ばすと、後ろから付いてきている皆からの息を飲む様な雰囲気を感じたので、あまりこういったやり方は普通ではないのかと疑問に思い、後で確認しようと思った。


そうして、1時間弱で目的地である草原地帯へと到着したのだった。





side レイ・ストーム


 メンバーの全員がノアである、チーム『宵闇よいやみ』のリーダーに拾われてから16年。私に生きる術を教えてくれたリーダには感謝してもしきれない。


生まれた家は、木っ端貴族の家系だった。昇爵を目指す実家にしてみれば、私のようなノアなど生まれて良い存在ではなかった。私がノアだと分かってからは、一応世間体もあって殺したり、捨てたりすることは貴族家としては躊躇われていたようだった。


しかし待遇は最悪で、食事は一日一食、パンと牛乳のみ。狭い部屋に閉じ込められて、常にお腹を空かしていた私は、ガリガリに痩せこけていた。このまま弱って、近い内に死ぬんだと、毎日ぼんやり考えていたある日、変化は起こった。それは私の日常を一変する劇的な変化だった。


どうやらお父様は昇爵を焦るあまり、不正を行っていたようで、どこかの貴族から恨みを買ってしまっていたらしい。相手の貴族は、汚れ仕事を請け負う冒険職のチームに依頼し、私の一家を皆殺しにする依頼をしたようだった。


自分の部屋の外から聞こえる阿鼻叫喚の声を、どこか別の世界の出来事のように聞いていた私は、突如蹴破られた扉から現れた人物に問い掛けられた。



『お前、誰だ?リストには無かったが・・・』



訝しむその人物に、私は久しぶりに声を発したために上手く喋れなかった。



『わ、私は・・・こ、この家の子ろもれす』


『子供だと!?聞いてねぇぞ!チッ!依頼主め、俺達がガキの殺しの場合は高額の報酬を要求してると知ってて伏せてやがったな!』



書類を見ながら激怒しているその人物を見ても、私は不思議なことに恐怖を感じなかった。



『で、この家のガキが何でこんな部屋に閉じ込められて・・・そんなにガリガリなんだ?』


『・・・わ、私、ノア・・・お父様、失望した・・・』


『っ!!そうか・・・おい!お前、名前は?』


『レイ』


『そうか、レイ。俺達と一緒に来るか?』



その時の私は、いつ死ぬとも分からないこの状況を抜け出したかった。だからこそ、私をこの状況から救い出してくれるかもしれない手を差し伸ばしてくれた彼の手を取った時に決めたのだ。私の人生の最後まで、この人に付いていこうと。



『・・・連れて・・いって!』




 そうして私は、彼に求められるままに強くなった。暗殺者になるべく、気配を消したり、闘氣の運用を習得したり、やれる努力は全てこなしてきた。ノアとしては最高到達点である第三階層に至れたし、生来、ノアとしては多めにあった闘氣は、私の実力を更に高めてくれた。


そして、チームの中でも1、2を争う実力者にまで上り詰めた私に下された今回の任務は、まだ子供である学院生の暗殺だった。しかし、実際に対象を確認すると、今回はいつもの標的と比べてなんだか嫌な予感がした。対象と接触するために、ポーターとして潜り込んでいたあのギルドで最初に彼を見たときからその予感は止まらなかった。




(この子、動きに全く隙がない・・・)



 私達は今、闘氣を纏いながら大森林の中を疾走している。目的地へ早く着くための時間短縮なのだと言う。表層であれば出くわす敵は低ランクが大半なので、この移動方法も理解は出来るが、その速度は私が考えていたものより遥かに早かった。しかし、驚くべきはそこではなく、闘氣を纏っているのに、彼は闘氣を纏っていなかったのだ。



(嘘でしょ!何で闘氣を使っている私達と同程度の速度で走れるのよ!?)



今の速度が最大と言うわけではないが、それでも闘氣を使っている分、使っていない者よりも数段速いはずだった。にもかかわらず、彼は表情を一切変えること無く走っている。それは、この程度の速度であれば闘氣を必要としない程、素の身体能力が高いと言うことだ。



(かつて剣神や魔神は、素の状態であってさえ達人だったという逸話は聞いたことあるけど、彼の実力っていったいどれ程なの!?本当に彼はノアなの!?もしかして、私達のチームはとんでもない依頼を受けてしまったんじゃ・・・)



そんな不安が頭をよぎる。しかし、それはそれとして、今はもう一つ心配なこともある。



(こんな速度で進んでいたら、魔獣の察知が遅れるんじゃないの?)



私も気配の感知は鍛練してきたが、そんな私をもってしても自分を中心に、半径20m位の範囲を察知するのが精一杯だ。しかし、今の進行速度では20mの距離など、あっという間に移動してしてしまう。つまり、私が魔獣の気配を感知した次の瞬間には、もう接敵してしまうということだ。


それは、こちらが戦闘準備を整える暇も無いということで、もしそれが偶然現れた高ランクの魔獣だったら目も当てられない結果になる。


そんな私の心配をよそに、先頭を走る彼は急に右拳を握り込んで左胸に引き絞ったかと思うと、その次の瞬間に私は前方の進路上に魔獣の気配を感知した。そしてーーー



『ドゴッ!』


『ぴぎゅっ!』



彼は魔獣と激突する間際、タイミング良く拳を振るって、裏拳でナーガを殴り飛ばしていた。



(・・・嘘でしょ!!私より気配の察知範囲が広い?それに、ナーガは低ランクとはいえ気配を消すことに長けた魔獣。私でも直前で気付いたって言うのに、精度も上なの!?)



その察知能力に驚く私だったが、更に驚いたのは彼が瞬間的に見せた闘氣の方だった。



(しかもナーガを殴り飛ばす直前、うっすら闘氣を纏っていたようだけど・・・あの精密に制御された闘氣は何っ!?まったく揺らぎを感じなかった。まさに完璧に制御されたような無駄の無い闘氣だった・・・)



闘氣はどれだけ制御しようが霧散していく、それが常識だ。しかし、私の目の前でその常識が崩れ去るような光景を目にしてしまった。その衝撃は、殿しんがりとして私の少し後ろを追走しているオジさん達も感じたようで、2人の息を飲む音が聞こえてきた。



(ヤバイ!これは絶対にヤバイ奴だ!ノアだなんて先入観は捨てないと、もし私が暗殺者だとバレたら、最悪私はリーダーの元に帰れなくなってしまう・・・)




 そうして、移動しながら対象である彼の戦力分析を行っていき、目的地へと到着する時には、私の不安は確信へと変わっていった。



(闘氣も使わず、あの速度で1時間弱走って平然とした顔してるなんて、どんな化け物よ!不味い、私だけでは無理だ!リーダーに相談しないと!)



1時間近く闘氣を纏って走った私は、顔に出さないように努めているが満身創痍だった。オジさん達の息も上がっているようだったが、それでも私よりは余裕がありそうだった。やはりノアは単一の能力者と比べると、どうしても闘氣量は少ない。


ただ、その常識を覆してしまいそうな非常識な存在を目の前にして、私は戦慄を感じている。



(まだハッキリとしたことまでは分からないけど、彼と敵対してはダメな気がする。慎重に行動するようにリーダーに進言しよう)
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

1人の男と魔女3人

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:504pt お気に入り:1

文化祭

青春 / 完結 24h.ポイント:568pt お気に入り:1

妖精のいたずら

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,690pt お気に入り:393

祭囃子と森の動物たち

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:426pt お気に入り:1

ある工作員の些細な失敗

大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:2,300pt お気に入り:0

風ゆく夏の愛と神友

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:766pt お気に入り:1

息抜き庭キャンプ

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:1,384pt お気に入り:8

『マンホールの蓋の下』

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:624pt お気に入り:1

窓側の指定席

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:3,180pt お気に入り:13

恋と鍵とFLAYVOR

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:347pt お気に入り:7

処理中です...