剣神と魔神の息子

黒蓮

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第四章 クルニア共和国国立ギルド

ギルド 8

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 目的地である中層との境にある草原に到着したのは、10時半を回った頃だった。ポーターの皆さんの顔には多少疲れの色が浮かんでいるようで、特にレイさんについては顔に出さないようにしているようだが、闘氣の減少が著しいような気がした。



「えっと、これから周囲を索敵してミノタウロスを見つけてきますので、皆さんはここで少し休んでいてください」


「ふぅ・・・そりゃ、ありがてぇな。オジさん達はちと疲れたからな。それに、お前さんなら滅多な事でも起きない限り、心配もなさそうだ」


「そうだな、俺達はちょっと休ませてもらうぜ。あんたはどうすんだ?」



ボビーさんとスタンさんは僕の提案に了承しながら地面に腰を下ろすと、レイさんがどうするか確認していた。



「わ、私は・・・私もミノタウロスの討伐に参加したいと思うのですが、いいですか?もちろんお金はいりません」



レイさんは疲れているだろうに、僕に同行したいと言い出した。ただ、ここからは僕も闘氣を使って索敵範囲を広げるように動くつもりだったので、彼女が僕の動きに付いてこれるか疑問だった。



(手近なところにミノタウロスが居れば問題ないんだけど、現状僕の気配察知範囲には魔獣がいないから、結構動き回る必要があるんだよな・・・)



大森林だけあってその大きさは広大だ。僕の感知できる範囲に魔獣がいないことも珍しくはない。ただ、そうなると最低でも感知範囲である半径500mをどんどん移動していく必要があるのだ。闘氣がかなり減少していると思われる彼女には、荷が重いと感じた。



「う~ん、気持ちはありがたいけど、ここからは少し速度を上げるから、付いてこれそうなら良いよ?」


「わ、分かりました。頑張ります!」



無理だろうと思いつつもそう提案すると、彼女は真剣な表情で頷ずいていた。もし途中ではぐれてしまったとしても、彼女の気配は何となく分かるので問題ないだろうと考えた。すると、彼女は口元を覆っていたマフラーと外套を外すと、大きく深呼吸をしだした。どうやら息を整えて体力を回復しているようだ。


こうして彼女の顔を見ると、可愛らしく整った顔立ちに黒髪のショートカットが良く似合っている。外套を脱いで見えた身体は鍛えているのか、引き締まっていて、とてもスレンダーだった。その小柄な体型もあってとても成人しているようには見えないが、メアリーちゃんの例もあるので、人は見かけによらないのだろう。




「じゃあ、行くよ!」



 彼女の体力が回復するのを少し待ってから、そろそろ移動を開始すると告げる。



「ええ」



僕の声掛けに短く答えるのを確認すると、輝く深紅の闘氣を纏う。



「「「はっ???」」」



僕の闘氣の展開を初めてしっかりと見たからなのだろう、ポーターの3人から驚愕の声が上がっている。その声を無視するように口を開いた。



「ではレイさん、付いてこれそうなら付いて来て下さい。くれぐれも無理はしないで!」



そう言うと僕は、地面が『ボコッ!』と陥没する音を残してミノタウロス捜索の移動を開始した。レイさんが頑張って付いてくるかとも思ったのだが、背後から聞こえてきたのは「えぇ、無理だこれ・・・」という諦めの声だった。




 ポーターの人達を残して、ミノタウロス探索のために移動を開始した僕は、やはりというか、仕方ないというか、レイさんが付いてこれなかったことを確認してから更に速度を上げた。


草原だけあって森の中のような障害物は少ないので、自分の反応できるギリギリまで速度を上げたのだ。



(ポーターは実力が乏しい人がなるようなことを言ってたし、やっぱり皆に合わせて移動速度を遅くしていて正解だったな)



目的地までの道のりの中で、バテてしまって付いてこられないのでは雇った意味がない。そのため、世間一般から見た立ち位置として、僕が武力ランクAと考えて行動するようにしていたのだ。


実際のAランクの人の実力については、確認した事がないので分からないが、闘氣を使用していない速度であれば大丈夫だろうと考えて移動していた。結果としてはギリギリ大丈夫だったという感じなので、帰りはもう少し速度を落とした方が良いだろうという反省点もあった。



 そんなことを考えながら30分ほど捜索していると、ようやくミノタウロスを見つけることが出来た。ポーターの皆を残してきた場所から、直線距離にして10分位の場所といったところだ。


10匹ほどの群れをなして草原に横たわりながら日光浴をしている様だが、さすがに10匹は多過ぎて持ち帰れない。かといって4、5匹狩ってミノタウロスを持って移動するのも大変だ。どうしたものか群れを遠目に見ながら頭を捻っていると、一つの考えが浮かんできた。



(そうだ!確かミノタウロスは仲間意識が強かったはずだから、一匹討伐してそいつを抱えて移動したら、敵意剥き出して僕に付いてくるんじゃないか!?)



作戦を思い付いた僕は、早速行動に移した。剣を抜き、腕を引き絞って突きの姿勢を維持したまま闘氣を纏って近づき、ミノタウロスに自分の存在が気付かれるよりよりも早く踏み込んで、渾身の突きを一番手前で寝そべっていたミノタウロスの頭部目掛けて放つ。



「シッ!!」


『ドパンッ!』



頭部が弾け飛んだミノタウロスは、何が起こったのかも分からぬままに、断末魔さえ上げる暇もなく物言わぬ骸と化した。



『『『っ!!ブモーーー!!!』』』



仲間が1匹討伐されてようやく僕の存在に気づいたミノタウロス達は、すぐさま立ち上がり攻撃体制をとってきた。頭を低くして、僕に突進しようとしているようだが、奴らの体勢が整うまで待っていることはしない。


剣の血糊を振り落として鞘に納めると、頭の無いミノタウロスの後ろ足を無造作に掴み、そのままポーターの人達が待っている方角へと走り出した。



『『『ブモーーー!!!』』』



僕が死骸を引き摺りながら走り出すと、目論み通りミノタウロスの群れが雄叫びを上げながら追従してきた。



(よしよし、そのまま付いて来い!)




 移動中は後ろを振り返って、ちゃんと追ってきているか確認しながら走る速度を調整して誘導していった。そうやって15分ほど走って行くと、ポーターの人達が待っている場所へと戻ってきた。


僕の姿を最初に認めたレイさんが、目を丸くして僕の後方を指差しながら声を上げてきた。



「はっ!?えっ!?ど、どうなってるの!?それ、どんな状況なの!?」


「な、なんだありゃ!?」


「おいおい、まさか追われてんのか?」



レイさんの声に、僕と後ろに引き連れてきているミノタウロスの群れに気づいたボビーさんとスタンさんが慌てたように腰の剣を抜き放ちながら警戒体勢をとっていた。そんな皆に僕は片手で制して、問題ないと伝える。



「後ろのは僕が始末するんで、皆さんは安心して休んでいてください!それと・・・よっと!」



掛け声と共に手に持っていたミノタウロスの亡骸を放り投げると、狙い通りレイさん達の手前に落下した。それを確認すると同時に、身体を反転して剣を構え、迫り来るミノタウロスの群れを見据えながら声を掛ける。



「ちょっと邪魔なので、それ見ておいて下さい!」


「は?へ?・・・お、おう、が、頑張れよ?」



ボビーさんがどう言っていいか分からない、といった口調でミノタウロスの群れを前にする僕を応援してくれた。



「大丈夫です!すぐに終わります!」



言い終わるやいなや、僕に向かって突進してきているミノタウロスへ突っ込む。15分も僕を追わせていたおかげか、若干疲れが見えるし、速さに個体差もあるので、群れで一気に襲いかかってくるのではなく、群れが縦に伸びるように1、2匹づつ位になっているので、個別に撃破可能という点では、こちらとしてもやり易かった。



「シッ!」


『ボッ・・・』



一番足の速い個体の頭部を貫く。当然頭を振って僕の突きから避けようとするが、見逃すはずもなく、難無く討伐していく。しかも、相手の突進力も逆手にとってカウンターを決めているため、僕自身は全くと言って良いほど力を必要としない。


相手の頭に剣先の標準を合わせておくだけで、後は勝手に突き刺さってきてくれるという具合だ。勿論そこには、相手の進路上に身体を置かないようにしたり、躱そうとする動きを読んだりと駆け引きはあるが、低ランクの魔獣の為に、そこまで神経をすり減らす必要もなかった。


そうして、次々とミノタウロスの頭部を突き刺していく僕は、2分ほどで追ってきていた群れを全滅し終えたのだった。



「えぇと、1、2、3・・・11。全部で11匹か。全部持って帰るのは難しいかな?」



討伐したミノタウロスの亡骸を集めながら数を確認すると、持って帰れるか疑問になるくらいの量だった。



(このサイズだと、一匹から大体100kgの肉が採れるから、全部で約1100kgか・・・)



闘氣を使えば持ち運び自体は可能だが、嵩張るし、他の魔獣と接敵した時には一度荷物を下ろしてから戦わないといけない。何より、この量の肉を包める大きさの防水布は持っていなかった。



(ちょっと予想外の量だったな。今度から納入系の依頼の時は多めに準備しておこう)



今後の反省点も見つけたところで、ポーターの皆さんの方を見てみると、みんな固まったように一点を見つめていた。



「どうかしましたか?」


「「「・・・・・・」」」


「・・・あの~?」


「はっ!いやいや、お前さん何者だよ!?」



話し掛けても石像のように反応しなかった3人だったが、最初にボビーさんが我を取り戻したかと思うと、引き攣った表情で僕を誰何すいかしてきた。



「僕の実力が少し高いのは分かっていますが、ただの学院の生徒ですよ?」


「んな訳あるか!!あの闘氣の緻密な制御に、いくら低ランクの魔獣と言えど、突進してくる相手の動きを完璧に読みきったカウンター・・・どれをとってもAランククラスじゃねえか!」



僕の返答に納得いかないのか、スタンさんも唾を飛ばす勢いで声を荒げていた。



「まぁまぁ、学院にも既に第四段階に至っている先輩もいますから、Aランクなんて別に珍しくないですよ?」


「そんな事あるわけ無いでしょ!学院の生徒なんて経験も習熟度も半人前なのよ!?3年で主席のロイド家の子供でも精々Cランクよ!?あなたの実力は異常だわ!!」



レイさんは情報通なのか、学院の生徒達の事をよく知っているようだ。目を見開いて力説してくる彼女の迫力は、何だか狂気に取り憑かれているようだった。



「は、はぁ、そうですか・・・」



世間一般から見た自分の立ち位置は何となく分かっていたつもりだったが、学院の生徒としての視点が抜けていたようだった。今にも掴みかからんとして来るような勢いの彼女を、両手で制止ながら苦笑いを浮かべつつ、いつかの先生の言葉を思い出していた。



(平穏に生活するには程々に、だったかな?でも、お金を稼ごうと思えばどうしても実力を出す必要があるし、だからといって出会う人達がみんな目の前の様な反応をされても困るし・・・う~ん)



それで貴族から奉仕職の誘いが来るのは望ましい部分もあるが、かといってそれが仕えたいとも思わない嫌な貴族だったら、声を掛けられるだけ面倒になるだけだ。すぐに答えが出るような事ではないが、少なくとも自分が心から働きたいと思える貴族と出会えるまでは、お金稼ぎも程々にしていこうと考えた。



「ま、まぁ、僕は学生にしては実力はあるようですが、世の中上には上が居ますから、そんなに驚かないでください。それより、そろそろお昼も近いですから昼食にしましょう!」



実際に僕の実力なんて、父さん母さんの足元にも及ばないと思っている。そんな実感の籠った僕の言葉に皆さんの興奮は少し落ち着いたようで、その隙に強引に話題を変えて、昼食の準備へと取りかかった。
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