剣神と魔神の息子

黒蓮

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第四章 クルニア共和国国立ギルド

ギルド 30

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 side ジョシュ・ロイド



「チッ!役立たずがっ!!」



 学院の自室にて報告書を読む俺様の手は怒りに震えていた。暗殺の依頼は失敗するどころか、あろうことに実行犯が騎士団に捕獲されたというのだ。しかも、実行犯は目撃者になりうるエレインを殺そうなどとする始末。これに怒りが沸かないわけがなかった。



(さすがに誰が依頼主か口を割るような事は無いと思うが、念のために始末させるか・・・)



最悪実行犯が口を割ろうがどうとでもできるが、懸念材料は少ない方がいい。



「それにしても、あのノアの小僧が騎士団と協力してドラゴンを撃退しただと?バカも休み休み言え!!」



ここ数日世間を賑わせているのは、スタンピード発生にによって引き寄せられてきたとされているドラゴンの襲撃だ。都市には直接的な被害は出ていなかったものの、大森林へと赴いた騎士や冒険職の者達が大勢死んだ。


その者達の魂を鎮める為の慰霊祭まで開かれ、その際に何が起こったかの周知がなされたのだ。基本的には騎士団が主体となってドラゴンを撃退することに成功したというのだが、その中で学院生徒の協力も貢献していたと伝えられた。しかしその学院生徒とは、あろうことかアイツなのだ。



「いったいどんな手を使って騎士団に取り入りやがったんだ!クソ忌々しい!どうせなら、ドラゴンに食われて死んでいれば良かったものを!!」



そんな状況の中、最も俺様を苛つかせているのはエレインの様子だ。スタンピードから帰還して、彼女はずっと気を失っているヤツの看病をしているのだ。しかも、俺様が忠告しに行こうとすると、決まってメアリーの野郎が邪魔してくる。



「まったく!何故こうも周りの奴らは俺様を苛つかせるんだ!愚弟もあの小僧も、エレインさえも、ことごとく思惑通りにいかない!!いい加減にしろよっ!!」



 自室にある調度品を手当たり次第に投げ壊しながら、壊すものが無くなるまでしばらく暴れまわった。



「はぁはぁはぁ・・・」



肩で息をするほど暴れると、思考が冷静になって落ち着いて考えることができるようになった。



「あの店はまだ役に立ってもらう必要があるな。俺様の依頼に失敗したんだ、次は無いと考えて全力を投入するだろう・・・とすれば、を利用するか」



来月には学院で、能力別の対抗試合がある。その試合には、毎年のように未来の人材を物色しようとする多くの貴族達が観戦に詰めかけている。それを上手く利用する事を思い付いた。



「あとはエレインか・・・あいつ、あの小僧に色目を使いやがって!その目を向けて良いのは俺様だけだろうが!!」



スタンピードから戻ってきた際に見たエレインは、担架で運ばれる気絶した小僧を愛しそうに見つめていた。エレインのその表情を見た瞬間、俺様の鼓動が激しく脈打ち、産毛に至るまで逆立ったような感覚が全身を貫いた。


もはやあの小僧を生かしておくことは出来ないし、エレインの目も覚まさねばならなくなった。その為の準備として数日後、俺様はまたあの店に赴くのだった。


しかし、そこでもたらされた情報に俺様は再度激怒することになった。



「あの小僧が俺様と同じCランクだとーーー!!!」







 アーメイ先輩のお父さんとの話し合いも終わり、僕の生活はまたいつもの日常へと戻りつつあった。


ギルドランクの昇格はもう少し根回しを済ませた後ということになっていて、差し当たって報奨金の100万コルを先に貰うことになった。個人証に表示される金額を見て、自分の稼ぎでここまでの大金を貯めることが出来たと思うと、少々感慨深いものがあるが、父さんのように散財することなく、しっかり将来の為に貯めていこうと個人証をニヤケながら見る僕は決意した。



 翌週の休息日には、僕の快気祝いということで例のレストランに皆で食事に行った。今回は前回より更にグレードの高いコースということで、運び込まれてくる見たこともない豪華な食事の数々に舌鼓を打ちながら、心配させてしまったことに謝罪を告げた。


しかし、皆はドラゴンについての話の方を聞きたがって色々と質問攻めにあってしまう。ただ、事前に騎士団の方からあまり詳細な内容が広まってしまうと、どうやって撃退したか詮索される恐れがあるということで、ドラゴンに回復能力がある事については口止めをされていた。


その為、話せる範囲での内容だったのだが、今まで生態がよく分かっていないドラゴンの話だけに、皆の食い付き様は凄かった。特にジーアは、その情報自体がお金になりそうだと怪しい笑顔を浮かべていたほどだ。



 また、ジーアから今回の伯爵家との話し合いの結果を少し伝えると、詰まらなそうな表情で聞いていた。それは、もしかしたら僕が貴族になることも出来たかもと伝えたときに、特にそんな表情だった。


一瞬、僕が貴族になることで彼女の商会の儲け話にでも繋がるからかと考えたのだが、実際は全く違う理由だった。



「貴族になれたら、アーメイ先輩と付き合うに何の障害も無くなったかもしれんのやで?」


「そうそう、勿体ないよね。きっと先輩も寂しそうな表情してたんじゃない?」



そう2人に指摘されて思い返すと、確かに僕が貴族になることに否定的な発言をした際に、先輩はそんな表情を浮かべていた。



「で、でも、先輩が僕の事をどう思っているか分からないし、早とちりじゃないかな・・・」



僕がそう言うと、2人は呆れた表情で溜め息を吐いていた。それはアッシュも同様だったが、彼は楽しげな表情を浮かべて口を開いた。



「いやいや、実際お似合いだと思うぞ?アーメイ先輩もお前の事は憎からず思っているだろうし、ちょっと告白してみたらどうだ?案外良い返事が返ってくると思うぞ?」



面白がっているようなアッシュの物言いに、僕は口を尖らせて言い返す。



「そ、そんな事して今の関係が崩れたら気まずいじゃないか!」



僕の発言に皆がキョトンとした雰囲気になるが、その意味が分からず皆を見渡す。



「えっ?何?どうしたの?」


「あ、いや、今まで煽っておいてなんだが、お前の口からそんな言葉が出てくるとは思ってなかったからな。まぁ、頑張れよ!」



アッシュが僕から目を逸らして、頭を掻きながらそんなことを言ってきた。



「わ、私もエイダの気持ちがそこまで固まっているなんて思っていなかったわ。応援するから、頑張って!」



カリンは慈愛が籠ったような笑顔を向けながら、何故か応援されてしまった。



「困ったらウチに相談し!これでも相手の懐に入るのは得意やから、色々先輩から聞き出したるわ!」



ジーアも優しい笑顔を向けながら、僕の力になると力説してきた。何故みんなこうも励ましの言葉を向けてくるのか理解できなかった僕は、混乱した表情でみんなに問いかけた。



「な、何で皆そんな表情しながら優しくしてくるんだよ~!?」



僕の叫びに皆は、ただただ生暖かい表情を向けてくるだけだった。



 それから数日は特に何事もなく過ごし、たまに例の商会にポーションを納品しに行くくらいだった。お金も十分入り、懐は潤ったが、ギルドランクは据え置かれたままだ。どうやら上の方で色々と難しいやり取りがされているらしく、もう少し時間が掛かるとの事だった。


そもそもCランクになる際には、確か試験が必要だったはずなので、それをどうするのかと言う面もあるのだろう。別に急ぐことではないので、ゆっくり待つことにした。


アーメイ先輩とはあれから何度か話す機会があったのだが、相変わらず余所余所しさを感じるし、チラチラとこちらを窺っているようなのだが、目を合わせようとするとそっぽを向かれてしまうので、いまいち先輩の気持ちが分からなくなっていた。


ジーアに相談するも、「何で分からへんねん!!」と激しく罵られるのだが、目を合わせてくれないのは、僕に対して何か良くない感情があるからだと考えてしまうため、どうしても後ろ向きな考えを浮かべてしまうのだ。


その為、皆から背中を押されても、どうしても踏み留まってしまい、いたずらに時間だけが過ぎていってしまった。



 そうして、何者かに雇われたレイさんの件も中々進展せずに、未だ黒幕は分からずじまいのまま季節は流れ、10の月になると、先生から学院内で行われる能力別対抗試合についての説明がなされた。



「あ~、知っての通り今月から能力別対抗試合が始まる。剣武術部門か魔術部門かを選ぶわけだが、この試合内容次第じゃ将来の就職先も変わってくるやつもいるからな。まぁ、目標があるなら頑張れよ~!」



気の抜けたような先生の言葉を聞きながら、僕はどちらの部門に出場しようか考えていた。



(正直どっちでも良いけど、将来の就職先を広げるんだったら、多少目立った方がいいか?でも、目立ち過ぎて貴族に変に目を付けられるのも考えものか・・・)



情報操作されているとは言え、先のドラゴン撃退における貢献をしたとして、少しは僕の事が噂されているかもしれないし、どうしたものかと悩む。


ただ、そんな僕の葛藤を一瞬で吹き飛ばしてしまったのは、未だどうすべきか迷いながら複合クラスで使っている演習場で鍛練をしていた時に、周りの目を気にするかのように歩み寄ってきたアーメイ先輩からの言葉だった。



「や、やぁ、エイダ君!いつも鍛練に打ち込んでいて感心だね!」


「アーメイ先輩!こんにちは!今日はどうしたんですか?」


「(いや、なに、ちょっと君の顔が見たく・・・)う゛、う゛ん!今月の対抗試合の事が気になってね。どちらに出るか決めたのかい?」



最初の方は小声で聞き取れなかったので、何を言ったのか分からなかったが、どうやら対抗試合の心配をしてくれているらしい。



「ありがとうございます!実は色々と迷っていまして。ギルドの依頼の時もそうでしたが、あまり実力を晒け出すのは面倒を引き寄せる事になりそうで・・・」


「そ、そうか。それは確かにそうだが、ちょっと残念だな」


「え?残念ですか?」


「あっ、いや、君の活躍が見れないとなると少し寂しいと思ってな・・・(それに、君がしっかり活躍して、後戻り出来ないところまで来てくれれば、私と・・・)」



先輩はそっぽを向きながら、何かブツブツと言っているようだが、先輩が僕の活躍を見たいとなれば話しは変わってくる。



「アーメイ先輩!僕、頑張ります!!」


「そ、そうか!期待しているよ、エイダ君!」



僕の言葉に、まるで満開の花が咲いたような笑顔を浮かべて放たれた先輩の言葉に、僕の頭の中は優勝の2文字に塗り潰された。



「任せてください!絶対にその期待に応えて見せます!」



声高に宣言する僕の様子に、先輩は柔らかい笑顔を浮かべていた。
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