剣神と魔神の息子

黒蓮

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第五章 能力別対抗試合

決勝 4

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 それから、残りの学年の決勝戦も行われていき、2年生はどちらの部門も僕とは面識の無い人が優勝を飾り、3年生は前評判通りの結果で、魔術部門はアーメイ先輩、剣武術部門はアッシュのお兄さんが優勝となった。


午後には各学年の優勝者への式典があるということで、昼食もそこそこに会場の設備を1年生が主体となって行い、特設のステージのような舞台を準備していた。


僕はといえば会場の準備の方には参加せずに、今はフレック先生から話があるといって教室に呼ばれていた。




「まったく、まさか本当に両部門で優勝しちまうとは・・・常識外れ過ぎてお前さんをどう扱っていくべきか悩むよ・・・」


「ははは・・・」



先生の言葉に、僕は頭を掻きながら愛想笑いでやり過ごす。



「最初はやる気の無いような態度してたのに、急に両方出場するなんて言い出したときには驚いたが・・・女だろ?」


「へっ?」


「くくく、隠さなくても良いぞ?この年頃の男がこんなにやる気を見せるなんて、大抵女絡みだって相場が決まってるんだよ?」



先生はジト目を向けると、ニヤついた笑顔をしてきた。反論できないどころか、まったくその通りの指摘に、どう答えたものか困ってしまう。



「ははは!冗談だよ!優勝おめでとさん!・・・ただ、自分には他人と比べて桁外れの実力があるからって、力の使い方を誤るなよ?」



先生は称賛の言葉を投げ掛けると同時に、一転して真剣な表情になって僕を諭してきた。



「力の使い方、ですか?」


「そうだ。武力でも権力でも、圧倒的な力を持つと、傲りや慢心が生まれる。それを持ち続けてしまうと、やがて人間の醜い欲求が表面化してくる。他人を見下し、自分が優れているのは当然と考え始め、人を蹴落としてでも、もっと多くの物を得たいと考えていくんだ。底無しにな・・・」


「・・・・・・」



実感の籠ったような先生の言葉に、僕も真剣に聞き入った。



「いいか、エイダ君?力は持っても、決してその力に呑まれるなよ?」


「はい。ありがとうございます先生!」


「よし!人生の先輩としての言葉はここまでだ。じゃあ、本題の午後の式典の説明だが、今回は王女殿下から優勝者に対して直々にお褒めの言葉を賜る事になってる。その際の礼儀について教えるぞ?」


「王女殿下が直々ですか・・・それって凄い事ですよね?」


「当たり前だろ!そもそも普通に生活していて、王族に謁見するなんて事はまずあり得ないからな!しかも直接お褒め頂くんだ、誇っても良い事だぞ?」



王族に会うということにあまりピンと来ていなかったので、どの程度のことなのか先生に聞くと、興奮した面持ちで僕にそう告げてきた。



「そうですよね。王族ですもんね!」



別に王族に認められようがどうでも良いのだが、ここは先生の雰囲気に合わせて嬉しそうな表情で返答しておいた。



「じゃあ、挨拶の方法から確認するぞ?まずはーーー」




 そうして数十分ほど先生からの指導を受け、太鼓判が押されたところで表彰式の時間が迫ってきた。式典で王女殿下と舞台上で対面することになる各学年の優勝者達は、王女の安全面を考慮して装備を外す事になっている。その為、魔術杖等は自室へと置いてくるために、一度自室へと戻った。



 演習場には、あっという間に表彰式用の広めの舞台が出来上がっており、その舞台下には学院の先生達と見たこともない人達が並んでいた。その豪華な服装から、おそらくはこの国の有力貴族なのだろう。更に、その周りを多くの騎士達が警備している。


予定の時間が近づき、学生達や来賓の貴族達からの注目が集まるなか、各学年の優勝者達5人は舞台に上がるように指示され、一列に並んで式典の始まりを待った。



「これよりクルニア学院、能力別対抗試合の表彰式を執り行う!今、舞台に上がっている君達は、各学年の能力別対抗試合において優勝を成した実力者達である!しかし、世界は広い!この結果に満足することなく、更なる研鑽を積み、この国の将来を背負っていくことを期待する!」



 舞台に上がった僕達の前に進み出た学院長が、入学式と比べると驚くほど短めな挨拶を行った。それはきっと、この表彰式の主役である王女殿下を待たせる訳にはいかないという考えからなのだろう。



(普段の挨拶もこのくらい短く、要点をまとめていたら良いのに・・)



そんなこと考えていると、学院長が王女殿下の紹介を行った。



「さて、本日は当学院にとっても大変名誉な事であります、クリスティナ・フォード・クルニア王女殿下より、優勝者の皆さんにお言葉を掛けて頂けるということでございます!皆さん、決して失礼の無いようにして、殿下の言葉を賜るように!」



そう言うと、舞台下に下がった学院長と入れ替わるように、四方を騎士に囲まれた王女殿下が舞台上に上がり、僕達の前に歩み寄ってくる。それと同時に僕達は片膝を着いて臣下の礼をとり、王女殿下の顔を見ないように俯いた。



「皆様、お顔を上げてください」



鈴の音のような美しい声が響くと、臣下の礼をとったまま顔を上げた。そこには、長い銀髪が目をく、美しい女性が微笑を浮かべていた。


水色を基調とし、差し色として赤色を使った豪奢なドレスを身に纏うそれは、驚くほど白い肌に良く合っている。更に顔は、今まで見たどの女性よりも整っていて、まさに傾国の美女と表現して差し支えないほどの美貌だった。



(へ~、さすが王女様だなぁ)



平民の僕がそんな感想を抱くことすら無礼かもしれないが、僕が思うそれは、芸術品に抱くような美しいという感覚だった。



「本日は、これからの国の未来を担う皆様方のお力を拝見させていただいて、とても嬉しく思います。優勝された方におかれましては、これまでの努力に感服を、今日の結果に敬服を、そして、これからの輝かしい活躍をお祈り致します」



王女は微笑みを絶やすことなく、優しい声音で僕達の顔を順に見ながら話し掛けている。その様子に、舞台下からはため息のような感嘆の声が聞こえてきた。



(・・・王族の人って、思ったよりも丁寧な言葉遣いで喋るんだな。あっ!でも、僕以外は有力貴族の子供が舞台に上がっているんだから当然か・・・)



いくら王族と言えど、不遜な態度をとって貴族達と敵対するような事はしないだろう。貴族達の間でも、言葉の節々に嫌みを含んだ会話をしてはいたが、言葉遣い自体はきちんとしていた事を思い出した。




「それでは、優勝された皆様にクルニア共和国よりメダルを授与致します。お一方づつ前にいらしてもらえますか?」



 王女がそう言うと、一人の騎士がトレーを大事そうに持ってきて、王女の横に位置して何か耳打ちをしていた。その言葉に王女が頷くと、トレーから首に掛けるように紐の付いているメダルを持ち上げ、口を開いた。



「ジョシュ・ロイド様」


「はっ!!」



アッシュのお兄さんは、王女殿下に名前を呼ばれると短く返事をし、素早く殿下の前まで移動した。そしてまた、膝を着いて臣下の礼をとった。その一連の行動は、フレック先生から聞いていた通りだ。



「あなたのこれからの益々のご活躍を、王族の一人としてお祈りさせていただきます」


「ありがたき幸せにございます」



定型文のような決まったやり取りがされると、王女は臣下の礼をとるお兄さんの首にメダルを掛けた。



「頂いたメダルに恥じぬよう、更に研鑽を積み、この国の一助になれるよう勤めます」


「はい。期待しております」



そうして最後に一礼をすると、お兄さんはまた元の位置に戻って臣下の礼をとった。



「エレイン・アーメイ様」


「はっ!!」



続いてアーメイ先輩も同じようなやり取りがなされ、メダルを受け取っていた。どうやら上級生から順番に授与していくようで、並びの順から考えても僕が一番最後のようだった。



 そうして、どんどんとメダルの授与がなされていき、ついに最後に残された僕の番となった。



「エイダ・ファンネル様」


「はっ!」



王女に名前を呼ばれ、今までの人達と同じように返事をして素早く殿下へ近づき、再度臣下の礼をとった。すると、時を同じくして後方から騎士の一人が王女殿下へと駆け寄り、何やら耳打ちをしていた。



(ん?なんだ?今までと違うぞ?)



これまでの様子と異なる状況に困惑していると、王女が真剣な表情をしながら僕に問いかけてきた。



「エイダ・ファンネル様?あなたに少し確認してもよろしいですか?」


「は、はい?」


「先日、この都市の中央公園付近で起こった大量殺人について、何かご存じの事はありますか?」


「大量殺人?」



急に何を言っているんだろうという率直な考えのせいで、殿下に対して敬語を使うのも忘れて聞き返してしまった。その言葉遣いが反感を買ったようで、耳打ちをしていた騎士が僕を睨みつけてきた。ただ、不思議なことに殿下の四方を囲んでいる騎士の方は表情を変えず、王女自身も特に表情を変化させることはなかった。



「はい。わたくしも詳細を聞き及んでおりますが、未だに犯人は捕まっておらず、目下捜索中だということです」


「王女殿下、そこから先は私がご説明致します」


「あらそう?では、お願い致しますね?」


「はっ!!」



先程耳打ちをしていた騎士が、王女から説明を引き継いだ。式典の途中なのにどうなっているんだと疑問に思うが、目の前にいる王女を含めた他の騎士や、舞台下にいる先生達も止めることなく事態の推移を窺っていた。


ただ、フレック先生と、メアリーちゃんはハラハラしたような表情を浮かべているので、何を話されるのか心配になる。



「エイダ・ファンネル!貴様には先の大量殺人の嫌疑が掛けられている!」


「えぇ?」



突拍子もない騎士の言葉に、僕は目を丸くした。



「知らぬとは言わせん!先日の夕刻過ぎ、50人を越える住民を虐殺し、大通りに壊滅的な損害を加えている姿を目撃している者もいるのだ!」


「・・・・・・」



騎士の言葉に思考を巡らせて、何の事を言っているのかと頭を捻る。



(50人を越える住民・・・大通りに壊滅的な損害・・・ん?もしかして?いやいや、確かに大通りを結構破壊しちゃったけど、僕は一人も殺していないし、そもそも彼らは住民じゃなくて襲撃者だろ?)



僕の知る状況とかけ離れた騎士の言葉に、反論しようと口を開きかけるが、その気勢を制するように後ろから声が聞こえてきた。



「その話、私も情報を持っておりますので、この場にて提供させて頂いてもよろしいでしょうか?」



その声に後ろを振り向くと、言葉を発していたのはアッシュのお兄さんだった。



「おぉ、貴君は軍務大臣の長子であるな!閣下も情報を得ようと動かれていたご様子、ご子息である貴君が何か聞き及んでいるのなら、是非に確認したい!」



何だかそのやり取りに違和感を感じるが、ここで僕が口を挟んでも一蹴されるのが目に見えているので、とりあえず黙って聞いておく。



「実は、大量殺人や大通りの破壊工作を目撃していたのは、まさに当家で雇っている執事の一人でして。その者の目撃した人物像を調査させましたところ、そこにいるエイダ・ファンネルという男に間違いないということです!」


「なんとっ!では、彼への嫌疑は既に確信へと至っているということですか!?」


「よろしければ、その執事を呼びましょうか?」


「是非お願いしましょう!」


「・・・・・・」



何だこれと思う間もなく、どんどんと話は進行していき、いつの間にか僕に掛けられていたという嫌疑は、事実へとすり替わろうとしていた。
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