剣神と魔神の息子

黒蓮

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第五章 能力別対抗試合

決勝 13

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わたくしとしても、エイダ様とは良好な関係を築きたいと考えておりますし、まだ成人していない学生の立場であるということも考慮して、表面的にはわたくしの派閥に所属しようか検討していると、周りに周知するのはいかがでしょうか?」



 王女の口から伝えられた提案は、僕にとってはそれほど悪い話ではないような気がした。何より、実際に派閥に所属するわけではなく、あくまでも考えていると言うことで、派閥に束縛されるわけでもない。



(実際、王子の派閥に取り込まれようものなら、そのまま戦争の引き金になりそうだし、それだったら、平和的な王女の派閥の方が良さそうだよな・・・)



とはいえ、僕にはこういった策謀や駆け引きについては自信があるとはいえない。その為、アーメイ先輩に助言を乞おうと考えたが、王女がいる場で公に確認しようものなら不敬になるのではと考えた。



「王女殿下、少し考えたいのですが、僕とアーメイ先輩で一旦部屋を退出してもよろしいでしょうか?」



そう確認すると、王女は笑顔で了承してくれた。



「勿論構いませんよ?実は少し喉が渇きましたので、わたくし達の方が席を外させてもらっても良いでしょうか?」


「あっ、はい、大丈夫です」


「では、失礼します」




そう言い残して王女は、近衛騎士を連れ立って部屋をあとにした。遠ざかっていく足音を聞きながら、気配を探っても近くに誰も居ないことを確認すると、2人残された部屋で僕は早速アーメイ先輩に話し掛けた。




「あの、アーメイ先輩?さっきの話、どう思います?」


「・・・正直言えば、既に私の手に余る事態になってしまっている。そう考えれば、王女殿下の提案は悪い話ではないが・・・外堀は埋められると考えた方がいい」


「外堀ですか?」



先輩の指摘する意味が分からずに、僕は首を傾げた。



「そうだ。いくら表面的な話で、事実は違うとしても、客観的には王女殿下が君を囲っていると見られる。そのお陰で貴族達の君を巡る争いはある程度回避できるだろうが、君は王女殿下からは逃げられなくなるだろう」



先輩の言葉に、驚きを隠せずに口を開いた。



「えっ?でも、派閥に所属することをって事ですから、最終的に断ったってなっても大丈夫じゃないんですか?」


「さすがにそれは無理だろう。王族からの話を断るってことは、王家に反旗を翻すことと見られる可能性があるんだ!派閥を鞍替えするでもない限りは、この国に居られなくなるぞ?」



僕の疑問の声に、先輩は少し声を荒げて「ありえない」と一蹴した。



「えぇ・・・あの、もしかして、僕に選択肢があるように見せて、その実まったく無いですか?」


「エイダ君の言う通りだよ。しかも、それ以外の選択肢は取れないというのが現状だ。まぁ、君が王子殿下と同じような思想を持っていない限りは、だが・・・」



先輩の言うそれはつまり、戦争によって国を豊かにしようという考えを、僕が持っているかということだが、好き好んで人を殺すような戦争などしたくはない。


そもそも僕としては、友人と安定した職業に就きたくてこの学院へ来ているのだ。戦いたい訳じゃない。ましてや、戦争に加担するなんてもってのほかだ。



 「僕はただ、安定した職業で収入を得て、その・・・好きな人と一緒になって、幸せに暮らしたいだけなんです。戦争なんてしたくないですよ」



自分の顔が真っ赤になっている事を自覚しながらも、先輩の顔を見つめて将来の夢を語った。そんな僕に先輩も、頬を上気させながら口を開いた。



「き、君が人との争いを好んでいないことは、私だって分かるさ。出会ってから短い時間かもしれないが、君の事を知りたいと、その・・・良く見ているんだから」


「アーメイ先輩・・・」



視線を逸らすことなく、真っ直ぐに僕の顔を見つめてくるアーメイ先輩の綺麗な瞳に吸い込まれるように、僕は先輩の瞳から目が離せなかった。




 しばらくお互いに無言で見つめ合う時間が続き、扉のノック音と共にハッと我に返った。



『コンコン!』


「「っ!!」」


『エイダ様?エレイン様?そろそろよろしいでしょうか?』


「あっ、はい!どうぞ!」



王女の掛け声に、慌てて取り繕ったような声が出てしまった。そんな僕の様子に、先輩は微笑みを浮かべていた。



「あら、良い雰囲気のところでしたでしょうか?タイミングが悪くすみませんね」



部屋に入ってきた王女が敏感に僕らの雰囲気を読み取ったようで、笑みを浮かべながらそんなことを言ってきた。



 「い、いえ、そんな事はないです」


「あぁ、良いですね、甘酸っぱい青春・・・羨ましいです!いつかわたくしのことを身分に囚われず、強引に奪っていただける殿方が現れないでしょうか・・・」



王女が先程と同じ対面の席に座るや、うっとりした表情で僕らを見つめながらそんなことを言い出した。どうやらこの王女様は、相当恋愛物語にハマってしまっているようだ。そういった部分には、王族と言えど親近感が持てる気がする。ただ、そんな王女の様子に後ろに控えるエリスさんは、疲れた表情をしながら話を始めるように促していた。



「あの、殿下?あまり時間も無いことですので・・・」


「ああ、そうでしたね。では、エイダ様?お考えを聞かせていただけませんか?」



王女から水を差し向けられた僕は、さっきまで先輩と話していた内容も考慮して、自分の考えを伝えた。



「僕には人と争ったり、戦争に加担し、功績を上げて栄達を望むような考えはありません。そういった意味では王女殿下の思想は、僕にとっても近い考え方だと思います」


「ありがとうございます」



僕の言葉に、王女は短く感謝を伝えてくれた。そして、話の続きを待っているようだった。



「僕が立場を明確にしないことで騒動が起きる危険性も理解しました。そして、それはもしかしたら、大切な誰かを巻き込んでしまう可能性もあるでしょう」


「えぇ、そうでしょうね・・・」


「それを踏まえた上で一つ確認したいのですが、よろしいでしょうか?」


「はい。勿論ですよ?」



僕の言葉に、王女は嫌な顔ひとつすることなく質問の内容を待っている。ただ、その表情から、王女は僕の聞きたいことが既に分かっているような気がした。



「仮に僕が王女殿下の派閥に所属したとして、例えば・・・その・・・会いたい人と会い難くなるとか、他にも、その・・・」



質問しながら自分でもかなり恥ずかしいことを聞いている事を自覚してしまい、一番聞きたいことが言い出せなくなってしまった。それを察したように王女が口を開いた。



「エイダ様のご懸念されている事は、何一つ制限しないとお約束しますよ?」


「えっ?えっと・・・それは、その・・・」


「はい。会いたい人とはいつでもお会いください。それに、将来を誓い合いたいと思う女性とも自由に婚姻をいただいてよろしいですよ?」


「っ!本当ですか?」


「勿論です。わたくし、好いている者同士を引き離すようなことはしません。それが例え別の派閥に所属している相手でも・・・」



そう言いながら王女は隣に座っているアーメイ先輩に視線を流していた。アーメイ先輩の家は魔術騎士団の団長を勤めている、まさに軍事力の中枢に席を置く家柄だ。その為、どこの派閥に所属しているかはとても聞き難かったのだ。そんな僕の視線に、先輩は重々しく口を開いた。



「君が考える通り、我が伯爵家は第一王子派閥の影響をかなり受けていると言って過言では無いだろう」


「そうですか・・・」


「あぁ。しかし、ここ最近は派閥から少し距離を取っているのも事実だ。厳密に言うなら、中立派に近い王子派閥と表現できるな」



アーメイ先輩は、苦々しい表情で自分の家の立場をそう話してくれた。その様子に、王女が先輩にも提案をしてきた。



「もし、アーメイ伯爵家が望むのであれば、わたくしの派閥に鞍替えする事の助力は惜しみませんよ?幸いにも、先のロイド家のご子息が引き起こした騒動で、今のところ軍務大臣であるロイド卿はわたくしに強く出れなくなっていますから」


「殿下!それは・・・」



王女の言葉に目を見開いた先輩は、考え込むように黙ってしまった。



「アーメイ家が派閥から距離を置いている事情も、ある程度は承知しております。今のエレイン様の考えがわたくしのそれに近いことも含めて・・・一度、御当主様と相談してみてはいかがでしょうか?」


「・・・・・・ご厚情に感謝致します。その件については、一度持ち帰らせて頂きたく存じます」


「はい。良い返事を期待しておりますね」



先輩との話はそれで終わったようで、王女は視線を僕に戻してきた。今の様子を見るに、先輩の家も色々と事情があるようだった。



「さて、エイダ様?他にご心配なことはありますか?」



僕の不安は払拭したとばかりに笑顔を向けてくる王女に、他に聞くべき事はないかと考えたのだが、特に浮かんでくることもなく、王女の提案を受けた。



「・・・いえ、ありません。今回の王女殿下の提案を受けようと思います」


「まぁ、ありがとうございます。これでわたくしの懸念が現実にならなくてすみそうですね!」



僕の返答に、王女は輝いた笑顔を向けて安心していた。そして、後ろに立つエリスさんに目配せすると、彼女は懐から何か取りだし、王女へと手渡していた。



「エイダ様?わたくしの派閥に所属を検討しているという状況にいたしますが、困ったことがあればこちらを見せてください」



そう言いながら差し出された王女の手には、丸い形に水色の花柄があしらわれた紀章があった。



「これは?」



その紀章を受け取りながら、王女の話の意味を問いかけた。



「これは第一王女であるわたくしの庇護下にあるという証明です」


「庇護ですか?」


「まぁ、庇護というのは大袈裟な表現かもしれませんね。簡単に言えば、わたくしの仲間ですよと他者に知らしめるものですかね?」


「は、はぁ。それは凄そうな物ですね」



王女の説明に、良く分かってないような返事を返すと、更に王女は付け加えてきた。



「一応、常に身に付けておけば、他の貴族や王子派閥を牽制できますが、それだと完全にわたくしの派閥に所属したと見なされますので、どう使うかはエイダ様にお任せしますね?」



王女は可愛らしく小首を傾げながら、そう指摘してきた。使うも使わないも自由だが、それによって起こり得る事態をよく考えてから利用しなければならないようだ。



「・・・分かりました。必要とあれば遠慮無く使わせていただきます」



僕はそう言いながら、取り敢えず渡された紀章を懐へ仕舞っておいた。王女がその様子を見届けると、先程までの微笑みを浮かべた顔から真面目な顔へと表情を引き締めていた。



「最後に、エイダ様にご報告と、お願いがあるのですが、聞いていただけますか?」



その様子に厄介事の気配を感じるが、相手が王女とあっては断るわけにもいかないだろう。何より報告というのも気になるので、話を聞くことにした。



「分かりました。お聞きします」
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