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第八章 世界の害悪
開戦危機 19
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王女達一行が離れていくと、襲撃者達を埋めていた地面が少し不自然に盛り上がってきていた。どうやら地面の下で脱出しようと蠢いているようだが、今のところ身体にのし掛かっている土砂の影響で外に出ることは叶わないようだ。
「・・・彼らも言ってみれば被害者なんだろうが、外に出すわけにはいかないんだよ。ごめんね」
僕は地面の下にいる彼らに対して、聞こえないと分かっていても謝罪の言葉を口にした。そして、おそらく王女の一団を襲撃するように手引きした存在がこの近くにいるのではないかと懸念していて、ジーアから聞いていた気配を消す魔道具の欠点を突く。
「くらえ!」
魔術杖を天に掲げると、僕を中心として全方向に大量の水を津波のように発現させ、辺り一帯を洗い流すような勢いで水魔術を発動させた。周辺には疎らに魔獣の気配がするだけで、人の気配は無いのは確認済みだ。
おそらく襲撃が成功したか否かを監視するには、最低限目視できる距離に監視役がいるはずだ。あるいは双眼鏡の様なもので監視していたとしても、200mほどが限界だろう。
とすれば、まずは魔道具の弱点である水を使って気配を消せないようにする。仮に水流に飲まれて流されたとしても、僕から半径500m以内であれば気配を感知できる。本当に監視役が居るか居ないかは分からないが、試す価値はあると踏んでいた。
そして・・・
「・・・っ!見つけたっ!ここから300m位の距離に3人!全員別方向の場所か!」
意識を集中させて気配を探っていると、突然感知できる範囲内に3人の気配を感じ取った。その不自然な気配の現れ方から、おそらく魔道具で気配を遮断していた【救済の光】の者だろうと考え、一番近場の者から捕えるべく、風魔術で気配を感知した一つに急行した。
「くぅっ・・・」
僕は上昇すること無く、大砲のような勢いで地面スレスレを移動すると、あっという間に300mの距離を移動して、監視者とおぼしき存在に肉薄した。さっきの僕の水魔術のせいで木々が薙ぎ倒されているお陰で、こんな無茶な移動が出来たというものだ。
「っ!!」
移動する勢いを止めるため、地面に跡をつけながら両足でガリガリと擦ると、10m程で止まることができた。
すぐに気配を感知した人物に駆け寄ると、その人は背にしている大木の幹に身体を強打したのか、意識を失っているようで、地面に横たわっていた。
「とりあえず、身動きできないように縛り付けておこう」
この人物が他にどのような魔道具を所持しているか分からないので、身ぐるみを剥がて下着だけにし、彼が着ていた魔道具の外套と衣服を上手く使って、倒れていない木にしっかりと縛って固定した。
「あと2人!一人は動いてないようだけど、もう一人はゆっくり移動しているな・・・」
感知できる気配から、おそらくこの人と同じように一人は気絶しているのだろうが、もう一人は意識があるようだ。警戒しながらこの場を去ろうとしているのか、さっきの水魔術の影響でダメージがあるからなのか分からないが、先に押さえるべきは動きがある方だと考えた。
「よしっ!」
再度風魔術を使用し、砲弾のような勢いで動いている人の方へ向かうと、水魔術の影響が少なかったのか、木が生い茂っている森の奥の方へと足を引きずりながら歩く人物が見えた。
「よっと!」
先ほどと同じような要領でブレーキを掛けると、地面と僕の足が擦れる音を聞いたその人物が驚愕に目を見開きながら僕の事を見てきた。
「っ!!ぐうっ・・・」
その人物は必死で歩みを早めようとしているようだが、足が折れているのか、苦悶の表情で呻きながら僕から距離を取ろうとしていた。
当然見逃すはずもなく、僕は木々の隙間を縫うように走りながらその人物を追うと、あっという間に追い付き、背後から押し倒して確保した。
「きゃあ!」
水魔術の影響で泥状になっている地面に押し倒したその人物は、女の子のような甲高い声で悲鳴をあげた。
(っ!?女性だったのか!)
少々驚きはしたものの、今はそんなことに構っている暇はないので、先ほどと同じように彼女を下着だけにして、衣服を使って木に縛り付けた。途中叫ぼうとする彼女の口に余った衣服を噛ませ、喋らせないように猿轡を噛ませて最後の人物の確保に向かった。
「・・・これでよし、と。さて、あとはこの3人を尋問するだけだな」
最後の一人はやはり気を失っており、他の2人と同様に衣服で動けないように拘束して、そのまま引きずるようにして移動し、街道から少し離れた所にある開けた場所に全員を集めていった。
そして尋問を始めるに当たって、その経験のない僕は、どのように質問していくべきかのやり方をミレアに確認していた。返信には、なるほどと納得することばかりで、こんなことにまで知識があるのは凄いなと、感謝と共に称賛の言葉を送った。すると何故か彼女の字は震えたようになっていたが、文面からはとても喜んでいるようだった。
やり方を確認した僕は、まずは3人の人物をそれぞれ30m程の三角形の頂点になるよう等間隔に離して、互いの声が聞こえないようにした。これは口裏を合わせられなくする為だ。
準備の間、ずっと女性は猿轡をされながらもウンウン唸っていたが、僕はそれを気にせず、気絶している1人に水魔術で水をぶっかけて意識を取り戻させた。
「っ!ぶはっ!!な、何だ!?何が起こった!?」
水を掛けると、その人物は慌てふためいて目を覚まし、周囲をキョロキョロと見渡しながら、自分に何が起こったのかの確認をしていた。
「静かに。お前には聞きたいことがある。素直に喋れば、痛い目をみることはない。いいな?」
「っ!?な、あ、あんた誰だ?何を言ってるんだ?俺はただの商人だ。なぜ拘束されているか分からないが、きっと誤解だ!これを解いてくれないか?話ならその後でもいいだろう?」
僕の言葉に困惑した表情を浮かべて、自らを商人と名乗る男性は、人の良さそうな顔をしており、本当に今回の一件とは関係なさそうな雰囲気を醸し出している。
だが・・・
「しらばっくれても無駄だ。あそこにいる奴を見ろ」
そう言うと僕は後ろの方を指差し、猿轡をされている女性に視線を向けさせた。
「だ、誰だいあの人は?か、可哀想に、下着姿じゃないか。君がやったのか?話ならちゃんとするから、先ずは私達の拘束を解いてくれないか?そしたら、私とみんなも落ち着いて話せるよ」
彼は僕をなだめ透かすようにして、どうにか拘束を解こうとしているようだ。更に、話しはみんなと一緒に聞くといい、移動しないかと提案までしてきた。
「あんたが気絶している内に、彼女の尋問はもう済ませた。今は裏取りをしているだけなんだよ」
「・・・な、何の事だい?」
「聞いたが、お前達の任務の一つは、ある一行を監視することだそうじゃないか?」
「何を言っているのか分からない!そんなことより解放してくれ!」
「あの異常な人々は、この近くの村から攫ってきたらしいな?僕が動けないようにしているが、まだ死んでいないようだ」
「わ、私は関係ない!この拘束を解いてくれ!」
彼は僕の質問に、あくまでも関係ないと必死の形相をしていた。その迫真の表情は、本当にそうなのかと思えるほどだ。
「知っていることは洗いざらい吐いた方が身のためだよ?僕はこれでも、キャンベル公爵家小飼の諜報員だ。情報のためなら、多少手荒なことも辞さない。しかも、僕は聖魔術が使えてね。骨折や打撲位なら簡単に治せる。あんたは僕の無限拷問に耐えられるかな?」
「・・・・・・」
殺気を乗せながら凄む僕の言葉に、彼は冷や汗を流しながら口を噤んだ。どうやら恐怖に身体が動かないようだった。
「彼女は7本の指を折ったところで吐いたけど、あんたは何本目まで耐えるかな?大丈夫さ、両手足の指20本を折っても、治療すれば全部元通り。何百、何千回と指を折られても、あんたは正気を保てるかな?」
「・・・・・ま、待ってくれ」
低い声で凄んで見せると、彼は狼狽しながら小さい声で懇願してきた。そんな彼の声を無視して、手を後ろに拘束しているので回り込むと、先ずは彼の右手の小指をそっと握る。
「あぁ、我慢せず叫ぶと良いよ?僕は苦痛に泣き叫ぶ様子を見るのが大好きなんだ。出来るだけ長い時間僕を楽しませてくれよ?」
「ひっ!ま、待って・・・本当に待ってくれ!」
僕は努めて猟奇的な表現で彼を追い込んでいった。そのせいか、小指を握っている僕の手にまで震えが伝わってきた。
「じゃあ、先ずは一本目だね。ひと~」
「待ってくれ!喋る!喋るから!知っていることは全部話すから!!」
折っていく数を数えようとしたところで、彼はあっさり降参したようだ。
(さすがミレアだな。教えてもらった通りだ!)
ミレアから教わった、複数人を尋問する際の方法は以下の通りだった。
先ずは口裏を合わせられないように互いを離すこと。その際、自分を含めた皆が捕まっているということを認識させる必要がある。更に、既に情報を吐いた存在が居るということを伝え、口を割りやすくすること。
そして、痛みには女性よりも男性の方が弱いことが多く、終わらない拷問をするということをチラつかせると、男性の方が口を割る可能性が高いらしい。
お陰で僕は誰も拷問すること無く、芝居を打つだけでよかったというわけだ。今回は上手くいったようだが、次もこう上手くいくとは限らない。本当は拷問も人の命を奪うこともしたくはないが、必要となればしなければならない。
僕は内心でため息を吐くと、情報を聞くために語り掛けた。
「じゃあ聞かせてもらおうかな、【救済の光】の構成員さん?」
僕がそう言うと、彼はがっくりと肩を落としていた。
その後、未だ気絶している人物も同じような手法で情報を聞き出した。女性の方も今までの様子を見て、既に自分が黙っていても無駄と悟ったようで、大して脅しを掛けるまでもなく素直に口を開いた。
組織の人間は、この程度の忠誠心なのかと疑問にも思ったが、どうやら彼らは以前、学院を襲撃した際に組織の方へ付いた貴族の子供のようで、それほど大層な忠誠心はないようだ。彼ら曰く、それなりの実力があって、組織ではそこそこの地位に居るらしいが、自分の安全と組織の情報を天秤に掛けたとき、簡単に保身に走る程度だった。
3人が口を割った情報を統合して考えると、どうやら彼らは”害悪の欠片”を取り込ませた人達を誘導して、王女一行の馬車を襲わせる任務についていたらしい。最優先事項は王女の暗殺で、確実に死亡を確認するまでが目的だったらしい。
王女を暗殺する理由までは知らされていないと言うことだが、なんと彼らは共和国でも最新鋭である通信魔道具をチームに一つ配備されているらしい。僕の事を伝えられたかと心配したが、あっという間に100人を超える襲撃者達が無力化されたのを見て、困惑するあまり対応を決めかねていたようだ。
しかもその後、僕の水魔術で所持していた荷物を根こそぎ紛失し、現在は組織と連絡の取りようもないということだ。また、”害悪の欠片”を取り込んだ人についての話を少し聞くことができた。
どうやら組織は、”害悪の欠片”の効力を薄めたものを抽出し、更に水で薄めたものを攫ってきた村人達に服用したらしい。それは以前、アッシュのお兄さんであるジョシュ・ロイドが持っていた赤黒いポーションのようなもので、どの程度が適量かは分からないが、急速に取り込むと身体に変調をきたし、数日で肉体が腐り落ちてしまうらしい。しかも一度取り込んでしまえば治療法方は無いらしく、適合しなければ死を待つだけだという。
慎重に摂取したとしても、適合しない者は10日前後でやはり肉体は腐ってしまうとの事だ。その話に、ジョシュ・ロイドが自分は成功体だと言っていた理由が理解できた。
更に驚いたことに、この近くに地図には記載されていない彼らの拠点があるらしく、そこには未だに複数人の攫われた村人や、重要な人物が囚われていると分かった。
そんな数々の情報と引き換えに、彼らは自分達の身の安全の保証を願い出てきたが、僕がそれを聞き入れる必要性を感じなかったので、拘束したままの状態で放置することにした。運が良ければ誰かに発見されるだろうが、それより先に周辺にいる魔獣に餌にされる可能性の方が高い。
見捨てていこうとする僕にうるさく叫んでくるので、全員に目隠しと猿轡を噛ませて喋られないようにしておいた。
そして、“害悪の欠片”を取り込まされた襲撃者達を埋めている場所に戻ってくると、先程よりも地面はボコボコとしており、まだ脱出はできていないようだが、このままではいずれ這い出してくるだろうと考え、被害者である彼らには申し訳ないが楽にしてあげようと考え、白銀のオーラを纏うと、魔術杖を地面に突き刺し、一気に地中の土砂を圧縮して押し潰した。
「はぁ・・・治療法があれば助けたんだけど・・・ごめんね」
地面を見つめながら自分のしたことに懺悔の言葉を呟き、3人から聞いた拠点の場所へと移動した。
「・・・彼らも言ってみれば被害者なんだろうが、外に出すわけにはいかないんだよ。ごめんね」
僕は地面の下にいる彼らに対して、聞こえないと分かっていても謝罪の言葉を口にした。そして、おそらく王女の一団を襲撃するように手引きした存在がこの近くにいるのではないかと懸念していて、ジーアから聞いていた気配を消す魔道具の欠点を突く。
「くらえ!」
魔術杖を天に掲げると、僕を中心として全方向に大量の水を津波のように発現させ、辺り一帯を洗い流すような勢いで水魔術を発動させた。周辺には疎らに魔獣の気配がするだけで、人の気配は無いのは確認済みだ。
おそらく襲撃が成功したか否かを監視するには、最低限目視できる距離に監視役がいるはずだ。あるいは双眼鏡の様なもので監視していたとしても、200mほどが限界だろう。
とすれば、まずは魔道具の弱点である水を使って気配を消せないようにする。仮に水流に飲まれて流されたとしても、僕から半径500m以内であれば気配を感知できる。本当に監視役が居るか居ないかは分からないが、試す価値はあると踏んでいた。
そして・・・
「・・・っ!見つけたっ!ここから300m位の距離に3人!全員別方向の場所か!」
意識を集中させて気配を探っていると、突然感知できる範囲内に3人の気配を感じ取った。その不自然な気配の現れ方から、おそらく魔道具で気配を遮断していた【救済の光】の者だろうと考え、一番近場の者から捕えるべく、風魔術で気配を感知した一つに急行した。
「くぅっ・・・」
僕は上昇すること無く、大砲のような勢いで地面スレスレを移動すると、あっという間に300mの距離を移動して、監視者とおぼしき存在に肉薄した。さっきの僕の水魔術のせいで木々が薙ぎ倒されているお陰で、こんな無茶な移動が出来たというものだ。
「っ!!」
移動する勢いを止めるため、地面に跡をつけながら両足でガリガリと擦ると、10m程で止まることができた。
すぐに気配を感知した人物に駆け寄ると、その人は背にしている大木の幹に身体を強打したのか、意識を失っているようで、地面に横たわっていた。
「とりあえず、身動きできないように縛り付けておこう」
この人物が他にどのような魔道具を所持しているか分からないので、身ぐるみを剥がて下着だけにし、彼が着ていた魔道具の外套と衣服を上手く使って、倒れていない木にしっかりと縛って固定した。
「あと2人!一人は動いてないようだけど、もう一人はゆっくり移動しているな・・・」
感知できる気配から、おそらくこの人と同じように一人は気絶しているのだろうが、もう一人は意識があるようだ。警戒しながらこの場を去ろうとしているのか、さっきの水魔術の影響でダメージがあるからなのか分からないが、先に押さえるべきは動きがある方だと考えた。
「よしっ!」
再度風魔術を使用し、砲弾のような勢いで動いている人の方へ向かうと、水魔術の影響が少なかったのか、木が生い茂っている森の奥の方へと足を引きずりながら歩く人物が見えた。
「よっと!」
先ほどと同じような要領でブレーキを掛けると、地面と僕の足が擦れる音を聞いたその人物が驚愕に目を見開きながら僕の事を見てきた。
「っ!!ぐうっ・・・」
その人物は必死で歩みを早めようとしているようだが、足が折れているのか、苦悶の表情で呻きながら僕から距離を取ろうとしていた。
当然見逃すはずもなく、僕は木々の隙間を縫うように走りながらその人物を追うと、あっという間に追い付き、背後から押し倒して確保した。
「きゃあ!」
水魔術の影響で泥状になっている地面に押し倒したその人物は、女の子のような甲高い声で悲鳴をあげた。
(っ!?女性だったのか!)
少々驚きはしたものの、今はそんなことに構っている暇はないので、先ほどと同じように彼女を下着だけにして、衣服を使って木に縛り付けた。途中叫ぼうとする彼女の口に余った衣服を噛ませ、喋らせないように猿轡を噛ませて最後の人物の確保に向かった。
「・・・これでよし、と。さて、あとはこの3人を尋問するだけだな」
最後の一人はやはり気を失っており、他の2人と同様に衣服で動けないように拘束して、そのまま引きずるようにして移動し、街道から少し離れた所にある開けた場所に全員を集めていった。
そして尋問を始めるに当たって、その経験のない僕は、どのように質問していくべきかのやり方をミレアに確認していた。返信には、なるほどと納得することばかりで、こんなことにまで知識があるのは凄いなと、感謝と共に称賛の言葉を送った。すると何故か彼女の字は震えたようになっていたが、文面からはとても喜んでいるようだった。
やり方を確認した僕は、まずは3人の人物をそれぞれ30m程の三角形の頂点になるよう等間隔に離して、互いの声が聞こえないようにした。これは口裏を合わせられなくする為だ。
準備の間、ずっと女性は猿轡をされながらもウンウン唸っていたが、僕はそれを気にせず、気絶している1人に水魔術で水をぶっかけて意識を取り戻させた。
「っ!ぶはっ!!な、何だ!?何が起こった!?」
水を掛けると、その人物は慌てふためいて目を覚まし、周囲をキョロキョロと見渡しながら、自分に何が起こったのかの確認をしていた。
「静かに。お前には聞きたいことがある。素直に喋れば、痛い目をみることはない。いいな?」
「っ!?な、あ、あんた誰だ?何を言ってるんだ?俺はただの商人だ。なぜ拘束されているか分からないが、きっと誤解だ!これを解いてくれないか?話ならその後でもいいだろう?」
僕の言葉に困惑した表情を浮かべて、自らを商人と名乗る男性は、人の良さそうな顔をしており、本当に今回の一件とは関係なさそうな雰囲気を醸し出している。
だが・・・
「しらばっくれても無駄だ。あそこにいる奴を見ろ」
そう言うと僕は後ろの方を指差し、猿轡をされている女性に視線を向けさせた。
「だ、誰だいあの人は?か、可哀想に、下着姿じゃないか。君がやったのか?話ならちゃんとするから、先ずは私達の拘束を解いてくれないか?そしたら、私とみんなも落ち着いて話せるよ」
彼は僕をなだめ透かすようにして、どうにか拘束を解こうとしているようだ。更に、話しはみんなと一緒に聞くといい、移動しないかと提案までしてきた。
「あんたが気絶している内に、彼女の尋問はもう済ませた。今は裏取りをしているだけなんだよ」
「・・・な、何の事だい?」
「聞いたが、お前達の任務の一つは、ある一行を監視することだそうじゃないか?」
「何を言っているのか分からない!そんなことより解放してくれ!」
「あの異常な人々は、この近くの村から攫ってきたらしいな?僕が動けないようにしているが、まだ死んでいないようだ」
「わ、私は関係ない!この拘束を解いてくれ!」
彼は僕の質問に、あくまでも関係ないと必死の形相をしていた。その迫真の表情は、本当にそうなのかと思えるほどだ。
「知っていることは洗いざらい吐いた方が身のためだよ?僕はこれでも、キャンベル公爵家小飼の諜報員だ。情報のためなら、多少手荒なことも辞さない。しかも、僕は聖魔術が使えてね。骨折や打撲位なら簡単に治せる。あんたは僕の無限拷問に耐えられるかな?」
「・・・・・・」
殺気を乗せながら凄む僕の言葉に、彼は冷や汗を流しながら口を噤んだ。どうやら恐怖に身体が動かないようだった。
「彼女は7本の指を折ったところで吐いたけど、あんたは何本目まで耐えるかな?大丈夫さ、両手足の指20本を折っても、治療すれば全部元通り。何百、何千回と指を折られても、あんたは正気を保てるかな?」
「・・・・・ま、待ってくれ」
低い声で凄んで見せると、彼は狼狽しながら小さい声で懇願してきた。そんな彼の声を無視して、手を後ろに拘束しているので回り込むと、先ずは彼の右手の小指をそっと握る。
「あぁ、我慢せず叫ぶと良いよ?僕は苦痛に泣き叫ぶ様子を見るのが大好きなんだ。出来るだけ長い時間僕を楽しませてくれよ?」
「ひっ!ま、待って・・・本当に待ってくれ!」
僕は努めて猟奇的な表現で彼を追い込んでいった。そのせいか、小指を握っている僕の手にまで震えが伝わってきた。
「じゃあ、先ずは一本目だね。ひと~」
「待ってくれ!喋る!喋るから!知っていることは全部話すから!!」
折っていく数を数えようとしたところで、彼はあっさり降参したようだ。
(さすがミレアだな。教えてもらった通りだ!)
ミレアから教わった、複数人を尋問する際の方法は以下の通りだった。
先ずは口裏を合わせられないように互いを離すこと。その際、自分を含めた皆が捕まっているということを認識させる必要がある。更に、既に情報を吐いた存在が居るということを伝え、口を割りやすくすること。
そして、痛みには女性よりも男性の方が弱いことが多く、終わらない拷問をするということをチラつかせると、男性の方が口を割る可能性が高いらしい。
お陰で僕は誰も拷問すること無く、芝居を打つだけでよかったというわけだ。今回は上手くいったようだが、次もこう上手くいくとは限らない。本当は拷問も人の命を奪うこともしたくはないが、必要となればしなければならない。
僕は内心でため息を吐くと、情報を聞くために語り掛けた。
「じゃあ聞かせてもらおうかな、【救済の光】の構成員さん?」
僕がそう言うと、彼はがっくりと肩を落としていた。
その後、未だ気絶している人物も同じような手法で情報を聞き出した。女性の方も今までの様子を見て、既に自分が黙っていても無駄と悟ったようで、大して脅しを掛けるまでもなく素直に口を開いた。
組織の人間は、この程度の忠誠心なのかと疑問にも思ったが、どうやら彼らは以前、学院を襲撃した際に組織の方へ付いた貴族の子供のようで、それほど大層な忠誠心はないようだ。彼ら曰く、それなりの実力があって、組織ではそこそこの地位に居るらしいが、自分の安全と組織の情報を天秤に掛けたとき、簡単に保身に走る程度だった。
3人が口を割った情報を統合して考えると、どうやら彼らは”害悪の欠片”を取り込ませた人達を誘導して、王女一行の馬車を襲わせる任務についていたらしい。最優先事項は王女の暗殺で、確実に死亡を確認するまでが目的だったらしい。
王女を暗殺する理由までは知らされていないと言うことだが、なんと彼らは共和国でも最新鋭である通信魔道具をチームに一つ配備されているらしい。僕の事を伝えられたかと心配したが、あっという間に100人を超える襲撃者達が無力化されたのを見て、困惑するあまり対応を決めかねていたようだ。
しかもその後、僕の水魔術で所持していた荷物を根こそぎ紛失し、現在は組織と連絡の取りようもないということだ。また、”害悪の欠片”を取り込んだ人についての話を少し聞くことができた。
どうやら組織は、”害悪の欠片”の効力を薄めたものを抽出し、更に水で薄めたものを攫ってきた村人達に服用したらしい。それは以前、アッシュのお兄さんであるジョシュ・ロイドが持っていた赤黒いポーションのようなもので、どの程度が適量かは分からないが、急速に取り込むと身体に変調をきたし、数日で肉体が腐り落ちてしまうらしい。しかも一度取り込んでしまえば治療法方は無いらしく、適合しなければ死を待つだけだという。
慎重に摂取したとしても、適合しない者は10日前後でやはり肉体は腐ってしまうとの事だ。その話に、ジョシュ・ロイドが自分は成功体だと言っていた理由が理解できた。
更に驚いたことに、この近くに地図には記載されていない彼らの拠点があるらしく、そこには未だに複数人の攫われた村人や、重要な人物が囚われていると分かった。
そんな数々の情報と引き換えに、彼らは自分達の身の安全の保証を願い出てきたが、僕がそれを聞き入れる必要性を感じなかったので、拘束したままの状態で放置することにした。運が良ければ誰かに発見されるだろうが、それより先に周辺にいる魔獣に餌にされる可能性の方が高い。
見捨てていこうとする僕にうるさく叫んでくるので、全員に目隠しと猿轡を噛ませて喋られないようにしておいた。
そして、“害悪の欠片”を取り込まされた襲撃者達を埋めている場所に戻ってくると、先程よりも地面はボコボコとしており、まだ脱出はできていないようだが、このままではいずれ這い出してくるだろうと考え、被害者である彼らには申し訳ないが楽にしてあげようと考え、白銀のオーラを纏うと、魔術杖を地面に突き刺し、一気に地中の土砂を圧縮して押し潰した。
「はぁ・・・治療法があれば助けたんだけど・・・ごめんね」
地面を見つめながら自分のしたことに懺悔の言葉を呟き、3人から聞いた拠点の場所へと移動した。
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