剣神と魔神の息子

黒蓮

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第八章 世界の害悪

復活 18

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 公国の間者であるマルコさんの助言もあって、若干方針を変えた僕らは、一つ一つの拠点を丁寧に潰していくのではなく、残されている時間を考慮しての移動しながらの即応攻撃を仕掛けるという事で、時間の効率化を図った。


さすがに何千人単位となる【救済の光】の構成員全員分の認識阻害の魔道具はないようで、上空から気配を探るように平原の辺りを偵察すると、戦場から程よく離れた場所に複数の人々が固まって駐留しているような場所が散見された。それは平原を横長に横断するように配置されており、ざっと確認しただけでも拠点は20は下らなかった。


各拠点には100人から200人程度の人員が配備されているようで、中にはその拠点内に複数の魔獣の気配も感じ取れた。その魔獣をどのように使うのかは不明だが、碌な目的ではなさそうだ。


また、残念ながら懸念しているジョシュ・ロイドの気配は感じ取ることができなかったので、本当にあの時に消滅してしまったか、懸念通り認識阻害の魔道具を着込んでいる可能性がある。


正直このまま上空から奇襲をしようかとも考えたが、今の僕の実力では飛行を維持したまま別の魔術を使えるほどの余裕はない。それに全ての拠点が組織のものではなく、見たところ共和国の騎士の姿が見える拠点もあり、問答無用で全ての拠点への攻撃はまずそうだった。




「とりあえずこんなものかな・・・」



 一通りの偵察を終えた僕は、エレイン達が待っている場所へと帰還し、上空から見た景色と気配を確認したことで得た情報を、周辺の地図を広げながらみんなに伝えた。



「なるほど、大体の場所は確認できたが、問題は共和国あるいは他国の拠点の可能性があるので、接近して確認する必要がある、か・・・」



僕の報告を聞いたエレインは、腕を組みながら問題点を口にした。



「おそらく各国が使用している拠点には、所属を示す国旗を掲げていると思いますが、確認できませんでしたか?」



マルコさんの指摘に僕は目を見開くと、先ほどの空からの景色を脳裏に思い浮かべるが、かなり上空だったため、そこまでの確認が出来ていなかった。



「そうなんですね・・・上空からだとそこまでの判断がつきませんでしたので、近づけば分かると思います」


「ただ、隠密行動している部隊もあるかもしれませんので、その場合にはある程度の確認はしなければならないでしょう」



マルコさんの言葉に、やはり時間が掛かりそうだと難しい顔をしてしまうが、続く彼の言葉に更に頭を抱えてしまう。そんな僕の様子に、エレインが楽観論を口にする。



「そうはいっても各国の騎士は、国から支給されている鎧を纏っているはずだ。その鎧を着ていなかった場合は、組織の拠点だと分かるのではないか?」


「となると、やはりある程度接近して確認をとる必要がありますね。この際、正面から乗り込んで名乗りをあげて、相手の所属を確認したら手っ取り早いですかね?」


「いやいや、君は共和国からは一応指名手配されているのだろう?誤って共和国の騎士が駐在する拠点に乗り込んだりしたら、とても面倒なことになるのではないか?」



僕の投げやり気味な発言に、エレインに諭されるように問題点を指摘されてしまった。



「さすがにそれぞれの国の騎士が拠点として使っているなら、警戒のために常時巡回している騎士がいるはずですので、それを確認したらいいと思いますよ?どうも【救済の光】の構成員は、ある程度の立場の者達は統一した鎧を着用しているらしいのですが、末端の方はそれぞれが準備したものなのか、鎧のデザインはバラバラのようですから」


「なるほど、確かにそうでしたね。では、拠点の使用者の確認は、なるべく隠密で近づいて、そういった面から所属を確認していくようにします」



マルコさんの話から、僕は先程壊滅させた拠点の事を思い出した。ある程度の人達は統一した鎧だったが、確かに半数程はバラバラの色やデザインの鎧だったことを思い出した。ならば、それを目安にすればいいだろう。




「エイダ、いつから動く?」



 話が一段落すると、エレインが動き出すタイミングを聞いてきた。既に辺りは完全に夜の暗闇となっており、馬車に取り付けられているランプが、周囲を頼りなく照らしているくらいだ。この状況で僕はともかく、エレイン達に馬車で移動してもらうのは難しいだろう。



「今日はもう遅くなってしまったので、明日の日の出から動こうと思います。ここから西の方に10ヵ所程の人の気配が集まっている場所を確認していますので、明日はそれらを確認していきましょう」


「なるほど。既に拠点の目星が付いているのだな。なら、今日は休息に専念して、明日から例の方針で行動を開始しよう」


「我々もその考えに異論はありません。でしたら、今夜は明日からの事を考えて美味しいものを食べて、しっかり休養を取っておきましょう」



僕の考えに、エレインがみんなに向けて確認するように言葉にすると、リディアさんが笑顔を浮かべながらそんな提案をしてきた。反対する理由もないので、その言葉に同意して、夜営をしているわりには少しだけ豪華な夕食となるのだった。



 肉汁たっぷりの大ぶりなミノタウロスのステーキをしっかり食べた翌日早朝、まだ太陽も昇っていない薄暗い時間帯から僕らは行動を開始した。


ここから近くの拠点までは馬車で大体30分ほどで、そこからも各拠点は30分から1時間ほどの距離を空けているような感覚で点在している。僕は昨日上空から大まかに確認していた場所を地図に書き込んでおり、それに従って効率的な道順を予め考えて回ることになった。


その日最初に到着した拠点は、天幕を10個ほど設営しており、遠目にも共和国の国旗が拠点の中央にある天幕の上に刺さっており、見張りも共和国の騎士の鎧を着込んでいたため、組織のものではないと断定して、見つからないよう慎重に迂回して次の拠点へと向かった。



 お昼を食べるまでに7つの拠点を巡り、その内の5つは【救済の光】のものだった。建物がある拠点には、程々の威力の火球をぶつけて反応を伺ったり、天幕しかない拠点については、2つ3つ程の天幕を燃やさせてもらった。


僕は確認が取れたと同時に真っ正面から乗り込んで、問答無用に攻撃を開始していることもあってか、慌てふためいた構成員達は防衛体勢をとるまでに手間取り、成す術無く崩れゆく建物や燃え盛る天幕を見つめていた。


中には反撃してくる者もいたが、しばらくいいようにあしらいつつジョシュ・ロイドが飛び出してこないか待っていたのだが、いずれの拠点にも彼の気配もなければ飛び出してくることもなかった。



 昼食を食べ、午後も同じようにして回り、夜になるまでには結局全部で13の拠点を回り終えることができ、残りは反対方面の約10拠点となった。


残念ながらジョシュ・ロイドも、例の魔道具も見つけることは叶わず、僕は少しばかり焦りの表情を浮かべていた。



「それにしても、中々見つからないな・・・」


「仕方ないさ。この平原のどこかに居るかもしれないとはいっても広大だからな、そう簡単な事じゃないよ」



夜営のためにテントを設営し、食事を終えて焚き火の炎をぼんやりと見つめながら呟くような僕の弱音に、隣に座っているエレインが慰めるように言葉をかけてくれた。



「とはいえ、戦争が始まって既に5日が過ぎようとしています。組織が何か事を起こそうとするのなら、そろそろ何かあってもおかしくありません。エイミー殿達は本陣へ向かってから動きもありませんし、戦力として組み込まれているかもしれませんね・・・」



焚き火の対面に座るマルコさんは、眉間に皺を寄せながら危機感を露にしていた。また、彼が話すようにエイミーさん達と合流が出来れば何らかの情報が手に入るかもしれないが、本陣からずっと動いていないということで、新たな情報も入手出来ずにいた。



「とりあえず明日、残りの拠点を叩いても進展がなければ、一度戦場の方の様子を確認してみましょう。もし組織が何らかの工作に動いているなら、最悪介入になるかもしれませんが、構いませんか?」



僕の提案に、マルコさんが厳しい表情を浮かべながらも口を開いた。



「本来であれば出来るだけ直接戦争の場に関わって欲しくはないのですが、もしその際に非常事態のような状況だった場合に限って、ということでよろしいでしょうか?」


「・・・分かりました。その際は行動する前に相談します。ただ、明日は共和国の本陣近くを通って王国との戦場である東側に行きますので、最悪でも公国とは関わりないので心配ないですよ?」


「そうかもしれませんが、そのままなし崩し的に共和国の戦力となり、公国の戦場にも派遣されてしまわれては困りますから」



マルコさんの慎重な言葉に、僕は楽観的な言葉を返したのだが、リディアさんが困った顔をしながら、もしもの話を指摘してきた。僕としては指名手配もされているので、そんなことは絶対にありえないと苦笑いを浮かべるのだが、彼女は「戦場では力が正義です。頼れる存在がいれば、人間は容易に手の平を返します」と力強い口調で言われてしまった。



 戦端が開かれてから6日目、僕らは早朝から移動を開始し、王国との戦場となっている方面へ向けて移動を開始していた。


太陽が頭上の高さまで昇ってきたくらいの時間になり、ようやく僕らは中間地点である共和国の本陣付近に辿り着いていた。僕の姿を見られるわけにはいかないので、慎重に進路を決めながら歩みを進めているが、そこでふと別行動をしてから全く動いていないエイミーさん達の事が気になった。



「そういえば、エイミーさん達と分かれてもう3日目になるけど、本陣から動かないってことは待機命令でも出ているんですかね?」



馬車に揺られながら隣に座るエレインに何気なく僕は話しかけた。ちなみに、社内には対面にリディアさんが座っており、御者はマルコさんが行っている。



「そうだな。おそらく本陣の陣容は大半が王子直轄の近衛騎士と、王子派閥の貴族家当主や騎士達だろう。そんな中、王女派閥の近衛騎士をどう扱うべきか困っているのかもしれないな・・・」



僕の疑問の声に、エレインは腕を組みながら悩みつつも答えてくれた。そんな僕らのやり取りに、対面に座るリディアさんが難しい顔をしながら口を開いた。



「差し出がましいかもしれませんが、あのお二方、本当に大丈夫でしょうか?」


「えっ?どういうことですか?」



彼女の言葉の意味が分からず、僕は首を傾げながら聞き返した。それはエレインも同様で、その言葉の真意を探るように彼女を見つめていた。



「いえ、職業柄、情報の大切さが分かると言いますか、本来別の派閥の人間ともなれば、情報の流出を防ぐために必要な事だけ確認すれば、すぐに何らかの命令をするのが普通のはずです」


「何らかの命令ですか?」



リディアさんの話に、エレインが身を乗り出すようにして聞いていた。



「はい。例えば主君である王女の元への帰還命令や、戦力として考えるなら最前線に送って別派閥の力を少しでも削ぎ落とすようにするとか。出来るだけ自分達の情報には触れさせないように遠ざけるのが普通だと思います」


「・・・今は戦争中ですから、何か役に立ってもらおうと手元に置いているのでは?」



僕は今は戦時中ということもあって、普通ではない状況下では、その考えは当てはまらないのではないかということを口にした。



「いえ、そもそも今回の戦争に際して準備期間は2ヶ月ほどありましたし、想定外の事態が起こっても対処できるような下準備はされているはずです。情報にしても戦力にしても、自身の派閥の者だけで賄ってしまえば、手柄も全てその派閥のものになりますから。そこに異分子を手元に置いておく理由がありません」


「・・・確かに。あの2人が上手に立ち回って、手柄を横取りされる可能性があるとすれば、王女の元へ帰した方がいいですね・・・」



彼女の話に、僕も眉間に皺を寄せながらも理解し、納得していた。段々と雲行きが怪しくなる話の中、エレインがこんな提案をしてきた。



「どうせ通り道だ。少し確認するくらいの余裕はあるんじゃないか?」
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