剣神と魔神の息子

黒蓮

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最終章 未来

最終決戦 10

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side ザベク・アラバス


 【救済の光】における最終目標、その達成の為のもっとも重要となる作戦が成功した。それはすなわち、”世界の害悪”の力そのものを吸収することだ。



(これまで数々の想定外の事態もありましたが、結果としては上出来ですね!)



始めて”世界の害悪”が出現した当時の戦場では、次々とその存在に対峙した者達が死んでいくような凄惨な状況だったらしい。その後封印されはしたが、”世界の害悪”の不気味なオーラに触れて死んだ者の心臓が何故か結晶化しており、その結晶を利用することで”世界の害悪”に近い力が得られるということが分かった。


もちろん、その結晶を利用しようと考える国や組織は多かったが、利用方法如何によっては第2第3の”世界の害悪”が発生してしまう可能性を為政者達は恐れ、世界的な条約としてその結晶の利用を禁止し、もしその利用が発覚した場合は、問答無用に武力をもって滅ぼされても仕方なしということになった。


後に”害悪の欠片”と呼称されることになった結晶は、表向き現存する全てを廃棄することとしたが、当然そんな利用価値のあるものを処分することは、各国ともはばかられた。そこで我が組織、【救済の光】の出番だった。



 それは私がこの組織を掌握した、そんな時だった。貴族の家に生まれ、ノアというだけの理由で10歳の時にスラムに捨てられ、そこから血反吐を吐くような努力でのし上がったのだ。家から捨てられるまでに身に付けていた貴族としての教養と、生まれ持った特技の話術と戦略を武器に、成人する頃にはスラムを纏め上げていた。やがて利用価値を考えて教会に近づき、当時は少数派の思想の集まりだったある派閥を乗っ取った。


その派閥を元にして、今の【救済の光】を作り上げていったのだ。元々その派閥の思想は、全ての弱者が救済され、平等な世界を築くと言う理念によって形作られたものだったが、長い年月の間にその思想は形骸化し、残っていたのは既存の世界を一新して、自分達の手で新たな世界を創造するという危険な思想だった。


そんな考えの彼らに、私は一つの道筋を示して見せた。教会という仕組みを利用し、各国とのパイプから為政者達を協力者に仕立て上げ、国を内部から操る手法だ。その為に必要なものは先ず金だった。だから私はあらゆる手段で金を集めさせた。その一番簡単な方法はポーションの販売統制だ。


聖魔術を使用可能な人物を片っ端から教会に引き込み、ポーションを教会で独占状態に、お布施と称して言い値で販売させたのだ。更に戦争や紛争などが起きた際に、聖魔術を使える魔術師を派遣し、これもお布施としてたっぷりと国から金を巻き上げた。


すると、あっという間に資金が増えていき、手始めに各国の要人の側近から買収していくことが出来た。そこから機密情報を得て、さらにその情報を利用して資金を集め、次に魔道具の技術を飛躍的に向上させる人材を各国から集めた。結果、そこから気配を消したり、逆に注目を集めたりする魔道具が発明されたのだ。その過程で作られた様々な魔道具を各国に売り込むと、これまでのものより性能が優れているとして爆発的に売れた。


ここまでくると組織の資金力は安定し、技術力も国の研究機関を凌駕するものとなっていた。そうして私は、単なる教会の異端な思想の集団だった組織を、僅か数年で国家規模の大組織へと成長させ、その盟主へと就任したのだ。


そんな時に“世界の害悪”が現れ、残された結晶等を研究させることで、この世界を我が物とする為の強力な一手を見つけたのだ。


ようやくここまで漕ぎ着けた。全てを失い、どん底から這い上がってきた私こそがこの世界の王の椅子に座るに相応しい。それだけの事を成す能力が、私には確かにあるのだ。私の力をもってすれば、人々の理想郷など作り上げられて当然なのだ。讃えられ、称賛され、神のごとく敬られるのも当然なのだ。


そして私の指示の元、多くの国民を管理してもらう為に王国では協力者である宰相が、同様に公国では内務卿が、そして共和国では王子がその役を担ってもらうことになる。国民にとっても自分達が見知った存在が旗を振るのであれば、混乱も少なくて済むだろう。


私はこの“世界の害悪”の力を利用し、この世界を統一した至高の皇帝として永遠を統治する。その為に、今まで時間を掛けて”害悪の欠片”を研究し、”世界の害悪”の力を受け入れることが出来るだけの器となる存在を作り出し、その力を吸収することが出来る魔道具を開発したのだ。



(さすがに”世界の害悪”の途方もないと推定される力を全て受け入れるには、各国が国宝として保管している古代ドラゴンの魔石を3つも使用しなければ耐えられないだろうと試算された時は天を仰ぎましたが、協力者達のお陰で入手は簡単でしたね)



各国の国宝である魔石は、機能を3つに分割して吸収することで、”世界の害悪”から完全に力を奪い取ることが出来る。1つ目は再生力、2つ目は制御、3つ目は魔闘錬氣だ。3つの中で要となるのは制御だ。どのような力も、制御出来ないのでは宝の持ち腐れだ。必要な力を必要な分だけ使えてこそ役に立つというものだ。


更に、魔道具に吸収された”世界の害悪”の力は、他人にも行使することが出来る。傷付いた民を再生力で癒せば信仰力を得るし、敵対するものは魔闘錬氣で蹴散らせば我々に対する畏怖となる。今この3つの魔石は、まさに神へと至るための宝具となったのだ。



(欲を言えば、力を吸収する前にここにいる目障りな剣神と魔神、そしてその息子を始末してくれれば言うことは無かったが・・・)



”世界の害悪”から力を吸収するタイミングを見極めていたが、残念ながらこれ以上様子を見ていては、あの少年にせっかくの”世界の害悪”そのものを消滅させられてしまう可能性が見られ、即座に動いたのだった。


面倒な力に目覚めてくれたものだったが、まだ手はある。今まで彼らの戦いぶりを見せてもらったが、そこから分析し、勝機を見たのだ。



(剣神と魔神は、魔闘錬氣のごり押しでも何とかなりそうだ。問題は少年ですが、既にかなりあのとんでもない力を消費していることから、持久戦に持ち込めば何とかなりそうですね。人海戦術で囲めば彼とて力尽きるでしょう)



こちらの最大の優位性は、多くの同志に対して”世界の害悪”の力を付与して戦わせることが出来ることだ。今まで一対三で苦戦していた状況から一転して、多数対3人という状況にする。しかも、後方には足手まといの女が複数いることから、彼女達を庇いつつ対処しなければならなくなるはずだ。



(彼らはいつまで持ちこたえられますかね?)



私は優越感に浸りながら、眼前の3人を見つめて今までの事を回想していた。そんな私に怪訝な表情をしながら見つめてくるお三方に向かって、ゆっくりと口を開いた。



「私がこの場に居るのは、最後の仕上げの為ですよ。それに、”世界の害悪”は我々にその力の全てを提供してくださいましたので、今のあれは既に残りカスといったところでしょうか。まだ息はあるようですが、再生力も頂きましたので、やがて死ぬでしょう」



私の返答に、剣神の彼は眉を吊り上げながら声を荒げて殺気を込めてきました。



「なるほどな。で、その力をおたくらはどうしようって言うんだ!?」


「我々の崇高な目的の為に使わせてもらうだけですよ」


「その崇高な目的ってのは、いったい何だ?」



彼の言葉に、私は顎を触りながら勿体ぶった様子で薄い笑みを浮かべた。そんな私の様子に彼は苛ついたように殺気を飛ばしてきているが、私の後ろに隠れている同志の一人が、制御の力を吸収した宝具を使って、私の精神を落ち着かせてくれていた。



「そんなに殺気をぶつけてこなくても教えてあげますよ。我々の目的は、この世界を理想郷とすることです。全ての民が等しく平等に暮らせる世界にしたい、まさに崇高な目的でしょう?」


「言葉だけを聞くならな。で、その世界は誰が統治するんだ?」



彼の指摘に、私は口元を歪めて言い放つ。



「勿論、我が【救済の光】!いや、その盟主である私ですよ!」


「・・・なるほど、それが真の狙いか。ってことは、王子や他国のお偉いさんが協力している背景には裏取引でもあったのか?例えば、組織が統治する世界で自国の民だった国民を管理してもらうという名目で、統治権を委譲してもらうとか?」



思いの外的を得ている彼の指摘に、私は少なからず驚きを感じました。



「ふむ、あなたにそれだけの思考力があるとは驚きですね。情報では、もっと脳筋の方だと聞いていましたが・・・」


「はっ!そりゃ当然だろうな!これは俺の推測じゃなくて、サーシャ達が様々な情報を元に導いた考えだからな!」



情けないことを、胸を張ってどや顔で宣言してくる彼に呆れますが、考えの出所があの魔神となれば納得です。



「なるほど、やはり頭脳担当は魔神の彼女ですか。しかし、それが分かったところでもう遅いですね。既に我々は”世界の害悪”の全ての力をその手中に納めました。これで目標達成までの作戦の9割は消化したと言っても過言ではない。あとはあなた達邪魔者を始末し、この平原に居る各国の騎士達を間引いて3カ国の武力を著しく低下させ、来る新世界に抵抗する術を無くせば完了です」



そう語る私に、剣神の彼は不敵な笑みを浮かべながら剣を構えてきました。



「残念だが、そりゃ無理だ!お前さんの言う俺達を始末するって部分が、最大にして最難関なんだからな!お前達の作戦は、精々まだ最初の1割しか達成できてねぇよ!」



傲慢に言い放つ彼に、私も不敵な笑みを浮かべて宝具を持つ手を掲げました。



「それは今から体感するでしょう!”世界の害悪”の力の正しい運用方法を知る我らの前に、あなた達ごときは無力であるとね!」


「はっ!ほざくじゃねぇか!!」



宣言する私に向かって、彼は消えるような速さで間合いを詰めて来ましたが、その神速のごとき踏み込みを阻んでくれる頼もしい同志達が、羽織っていた認識阻害の魔道具の外套を脱ぎ捨てて姿を現しました。



「ちっ!」



同志達は最初から私の身を守るような位置取りで潜んでいたのですが、それを感知できなかった彼は不快げな舌打ちと共に同志達を一掃しようと、横薙ぎに長剣を振るってきました。



「「「ぐぁぁぁぁぁ!!」」」



身体を切断されてしまった同志達の苦痛の叫び声が辺りに木霊し、助けを求めるように私の方に視線を向けてきました。そんな彼らに私は微笑みながら宝具を発動すると、淡い光が彼らに降り注ぎ、あっという間に切断された肉体が再生され、再び立ち上がったのです。その姿は、まさに死をも恐れぬ不屈の戦士の誕生のようでした。その肉体が完全に消滅しなければ、同志達は何度でも肉体を再生して立ち上がるのです。



「ふふふ、どうです?不死身の存在を複数相手取ると言うのは?いつまで持ちますかね?」


「舐めるなよ!お前らが相手してるのは俺だけじゃない、他にも居るって事を忘れるなよ!?」



彼がそう言い放つと同時、後方にいた少年が動き出そうとしましたが、それを察した我が同志達が制してくれます。



「放てっ!!」



もう一つの宝具を持つ指揮官である同志の号令と共に、先程まで”世界の害悪”が放っていたものと同じ暗い緑色の刃や、魔神の必殺技とされた神魔融合が少年や、更に後方に居る教会の聖女の2人、そしてエレイン・アーメイ達に向かって襲いかかります。少年は自身だけでなく、後方に居る彼女達を守るために防御に手をとられ、こちらに向かって来ることは出来ず、必死に我々の攻撃を消去しているようでした。


その状況に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた魔神が、自身に風魔術を行使して上空へ飛び上がり、我々の真上から魔術を放とうとしてきました。



「同志達よ!怯むことはない!彼らの攻撃など我々に通用せん!」



指揮官の同志が声高らかに宣言しながら宝具を掲げると、淡い光が同志達を包み、”世界の害悪”のような暗い緑色のオーラが身体を覆った。


その直後ーーー



「喰らいなさい!神魔融合!!」



魔神の神魔融合が頭上から襲いかかってきたが、そのオーラに阻まれているようで、同志達の身体には傷一つ付いていなかった。


やがて攻撃の奔流が収まると、我らが同志達は平然と佇み、地上に着地した魔神をニヤニヤとした表情で見下していた。



「先ずは過去の英雄である、剣神と魔神を亡き者としてしまいましょうか。同志達諸君!もう間もなく我らが新世界が誕生します!その邪魔となる彼らを消し去り、理想郷を実現させましょう!!」


「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」



私の掛け声と共に、周囲に居る全ての同志達が拳を天に掲げ、新たな世界を熱望する雄叫びをあげました。
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