剣神と魔神の息子

黒蓮

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最終章 未来

最終決戦 14

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 時間稼ぎをしていたのは、なにも盟主の彼だけではない。僕の方も準備を整えるのに時間が必要だったため、なるべく時間を引き伸ばすように彼との会話を誘導していた。


お互いの思惑が合致した事もあってか、時間稼ぎは上手くいき、【昇華】に至った自分の真の能力を相手に悟られることなく、この場に充満させることができた。陽の光を反射して輝いていたオーラも、僕の意思一つで反射を消すことが出来るので、反射をしないオーラは誰の目にも見えず、制御している僕にしかその存在を認識させることはなかった。


ただ、端目には何もしていないように見せかける為に、自分の身体に常時輝くオーラを纏わせて、相手の認識を偽っていた。




「自分の傲慢さを後悔しなさい!」


「・・・・・・」



 そう叫びながら嫌らしい笑みを浮かべて腕を振り下ろす盟主の彼だったが、振り下ろした瞬間、彼は驚愕に目を見開いて固まった。それはこちらを取り囲んでいる周囲の構成員達も同じようで、今この場は静寂が支配していた。



「・・・な、何だ?何故同志が忽然と消えた・・・?」



目の前の出来事に怪訝な表情を浮かべて呟く盟主の彼に対して、僕は相手に理解させる意味を込めて軽く右手を振って見せる。すると今まで誰の姿も気配も感じられなかった場所から、数十人の人物が現れた。



「っ!お、おいっ!お前、姿が見えてるぞ!」


「なっ?なんーーって、外套が消えてる!?」



隠れていたはずの仲間の姿が急に見えたためか、組織の構成員の一人が驚いた表情をしながら姿が見えてしまっていることを指摘し、指摘された人物は自分の身体を確認するように見ると、着ていた外套が消えていることに驚きの声をあげていた。そんな様子がこの場の至る所で見られた。



「こ、これは?」



その状況に、盟主の彼も驚きの表情を浮かべて周囲を見渡す。すると、いち早く異常の理由を察したのか、彼は唾を飛ばしながら僕の方を指差して叫んだ。



「っ!同士達よ、奴に攻撃を集中させよ!!」



動揺が残る中、彼の声に反応するように構成員達が先ほどまでと同様に、こちらに向けて手をかざしながら攻撃してこようとしているが、結局何も起こらなかった。



「・・・何をやっている!?早く攻撃をっ!!」


「やってます!しかし、攻撃が出来ないのです!」



焦りの表情を浮かべる盟主の彼は、返ってきた仲間達からの報告に眉を潜ませると、すぐに別の指示を飛ばした。



「だったら魔術で飽和攻撃を仕掛けなさい!剣術師は連携をとって、一撃離脱で奴らを削るように!」



その指示に構成員達は、魔術杖や剣を構えて攻撃を仕掛けようとしていたが、誰も動くどころか呆然と自分の武器を見て固まっていた。



「どうしたというんだ!?何故誰も攻撃を仕掛けようとしない!?剣神と魔神の2人はもはや限界だろう!?後の女共など大した力など無いんだ!何を躊躇っている!?」


「・・・ち、違うのです・・・魔力が・・感じられない?」


「わ、私は自分の闘氣が・・・まるで感じられない・・・な、何だよこれ!?」


「何だこれ・・・何だこれ・・・」



憤る盟主の彼に対して構成員達は、自身の身に降りかかっている事態について戸惑いながら口にしていたが、中には錯乱した様に頭を掻き毟りながら膝から地面に崩れ落ちる者もいた。



「し、指揮官!何をやっているのです!同志達にもう一度宝具の力をっ!!」



盟主の彼は混乱に陥りながらも、巨大な魔石が付いている杖を持つ指揮官に対して叫んでいた。しかし指示を受けた指揮官は、自らが持つ杖を見つめつつ、呆然とした表情で口を開いた。



「だ、ダメです・・・先程まで感じていた圧倒的な力を感じません・・・”世界の害悪”から吸収した力が・・・無くなっています・・・」



そう言うと指揮官の彼は、愕然としたように地面に両手をつき、不気味に何かを呟きながらその場から動かなくなってしまった。



「ば、バカなっ!!」



指揮官の言葉に盟主の彼も自身の持つ杖を凝視すると、目を見開いて震えていた。そんな彼に対して、後ろに潜んでいた3つ目の杖を持つ人物が蒼白な顔で盟主の彼に声を掛けていた。



「め、盟主・・・私の持つ宝具からも力が失われているようで・・・」


「・・・つまり、”世界の害悪”の力は完全に消えてしまったと・・・?」


「それだけでなく、私も盟主も・・この場にいる全ての同志は、魔力も闘氣も・・もう・・・」



彼らは言葉を交わせば交わすほど、その顔から生気が失われていくように顔色が青を通り越して白くなっていっている。



「今まで当たり前に使っていた力が無くなると、こうも混乱するものなんだね」



そんな彼らの様子の感想を口にした僕に向かって、盟主の彼はまるで幽鬼のような顔をしながら問い掛けてきた。



「・・・いったい何をした?お前はそこから動いていないし、そのオーラもずっと身体に纏っていたはず・・・」



困惑する彼に対して、僕は種明かしをしてあげる。



「纏っているからといって、他に動かしていないとは限らない。あなたも既に理解しているはずだ、今のこの状況を作り出しているのは、僕の能力だということを」



僕はそう言いながら、周辺に散りばめたオーラを可視化して見せた。その様子を見た盟主の彼は、驚愕の表情で辺りを見回しており、その他の構成員達も驚きも露に自分達の周囲に浮かぶ輝くオーラを見つめていた。



「・・・遠隔操作どころか、見えなくすることまで自由自在に出来たのですか・・・つまり、エレイン嬢を狙った同志は消され、宝具に吸収した力も、この場にいる全ての同志達の能力も消されてしまったということですか・・・」



彼は半ば諦めの境地のような表情をしながら、不気味に口元を歪めて何が自分達に起こっているのかわ確認するように口にした。



「もはやあなた達は、何の能力も持たないただの人になりました。戦いの上で魔力や闘氣に頼りきっているあなた達に出来ることは、その手に持っている魔術杖や剣を振り回すことくらいでしょうが、訓練もしていない一般人にも劣るでしょう」



僕の言葉を聞いた構成員達は、まるで子供が駄々をこねるように、「嫌だ!嫌だ!」とその現実に慟哭していた。



「・・・まさかここまで規格外な存在だったとは・・・もっと早く手を打って殺していれば・・・いや、それも不可能だったか・・・私がこの世界でもっとも強大な力だと考えていた”世界の害悪”の力を上回る力なのですからね・・・初めから私がこの世界を手に入れる事など、無理な話だったというわけですか・・・ここまで来るのに何年掛かったと・・・それが全て無駄・・・は、はははははははは・・・」



盟主の彼は力無く地面に膝を着きながら、覇気の無い表情でブツブツと嘆きの言葉を吐いていたと思うと、次の瞬間には乾いた笑い声を辺りに響かせた。彼の手に持っていた巨大な魔石が付いた杖が地面に転がり、カラカラと無機質な音を出していた。その杖は今や、ただの大きな魔石の付いただけの杖と成り果てている。



 計画が破綻したからか、空を見上げながら狂ったように笑い続ける盟主の姿を見た【救済の光】の構成員達も、絶望した表情を浮かべながら動けずにいた。彼らは計画の要だったであろう“世界の害悪”の力を失ったこと、今まで頼りにしていた自分の能力を消されたこと、そんな力を持つ規格外な僕という存在を目にしたことで、絶望したように動けないでいるようだった。


ほとんどの者達はその場で微動だにせず固まっていたが、中にはこの現状を受け入れられないようで、癇癪をおこしたり、年甲斐もなく泣き叫ぶものさえいた。


彼らのそんな様子に、僕は冷めた視線を向けていた。この場で認識している全ての構成員達の能力を消去したことで、僕の【昇華】した力の残りは3割を切ってしまっている状態だ。とはいえ、既に彼らからは敵意どころか生きる気力も感じないような有り様だ。警戒を解くことはないが、これでようやく終わったと小さくため息を吐き、あとは彼らを拘束するだけだと考えた。



 そんな僕に対して盟主の彼が、狂った様な歪な笑顔を向けてきながら口を開いてきた。



「ははは・・・なぁ、共和国の英雄様よ?俺達の組織に協力していた各国のお偉いさんの事を知りたくないか?」



盟主の彼は、今までの口調とはまるで違った話し方でそんな事を言ってきた。恐らくはこれが彼の本性なのだろうが、その目的がよく分からなかった。



「・・・僕と取引でもするつもりか?」


「取引?ははっ!違う違う!どうせもう俺は終わりだ。それなのに俺達から甘い蜜を吸ってきた奴らが、何のお咎めも無くのうのうと生きていくなんて俺には許せない!だったら俺と一緒に破滅させてやりたいと思ってよ」


「・・・・・・」



相手の真意を確かめようと観察していた僕だったが、彼の言葉以上の感情を見抜くことはできなかった。彼の提案に悩んでいる僕に、母さんが歩み寄ってきた。



「そこまで言うのなら聞かせて貰おうかしら?一体誰が協力していたのか。そして、私の息子に冤罪を吹っ掛けた張本人の情報もね?」



母さんはまだ僅かに顔色が悪く、魔力が欠乏気味なようだが、それでも僕の受けた境遇について憤慨しているようだ。母さんから迸る殺気に、僕でさえも尻込みしてしまうような迫力があった。



「も、勿論そいつの情報も渡す!俺の把握している人物の情報は全て渡します!」



盟主の彼は母さんの殺気に呑まれたようで、青い顔をしながら首振り人形のようにひたすら首を上下に動かしていた。


この場は母さんに任せても良さそうだと判断した僕は、エレインの様子を確認するように振り返ると、教会の聖女2人と共に父さんとイドラさんの介抱の手伝いをしているようだ。イドラさんの斬り飛ばされた腕は幸いにも見つかったようで、アリアさんが聖魔術を行使していた。


そうして、何とか窮地を乗り越えた僕達だったがその時、共和国の本陣の方で慌ただしく動き出す数十人の気配に気づいた。
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