剣神と魔神の息子

黒蓮

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最終章 未来

最終決戦 15

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side フレッド・バーランド・クルニア



「何だとっ!!ザベク殿達が劣勢に追いやられ始めただとっ!?」


「はっ!剣神と魔神の参戦により、状況が著しく変化した時からかなり注視しておりましたが、どうやら2人の息子であるエイダ・ファンネルが【昇華】に至ったらしく、その凄まじい力で予断を許さない状況だと言うことです」



 本陣指令室の天幕にて10人程の近衛騎士に護衛されている私は、部下からの報告に愕然とした。【救済の光】はジョシュ・ロイドを器として利用し、”世界の害悪”を復活させた。それだけでも世界を揺るがすような大事件だが、組織はその上で復活させた”世界の害悪”の力を吸収して、自分達の為に活用してしまうと言うとんでもない計画を立てていた。


正直、そんなことが可能なのかという疑問もあったが、エネルギーを吸収するという魔道具をじかに見せられた私は、そんな疑問も吹き飛ぶほどの衝撃を受けた。この組織が元は、教会の弱小組織だったにも関わらず、新たな盟主のもと、わずか十数年で世界的な規模の組織に成り上がったというのも頷けた。


この組織の技術力は、我が共和国の数十年は先を行っていると確信できるほどだった。そして、そんな技術力を持つ組織をも利用することで、【救済の光】が世界を掌握した際に、私は自らの立場を共和国の指導的役割の地位へと至らせられると考えていた。


【救済の光】が世界を牛耳るという部分には些か思うところもあるが、あの盟主の先見の明と統率力、さらには各国以上の技術力が相まって、私は敵対よりも恭順を選んだのだ。あの魔道具であれば、彼の言う計画は達成されるだろうと判断した。


途中、剣神と魔神の息子と言う異質な力を持つ存在の扱いをどうするかで揉めた事もあったが、仲間に引き込めないという結論がなされた時から、どう処分するかが問題だった。共和国としては社会的に抹殺することで、この国を出奔してくれれば計画に差し障ることは無いと考えていたのだが、予想外にもあの少年はこの国に留まった。


それは少年の想い人である、アーメイ家の長女のせいだろうと考え、盟主に対して彼女を殺すか国外に移送することを提案していた。しかし、少年に対する保険にすることと、器となるジョシュ・ロイドが執着している関係で、私の提案が実現することはなかった。おそらくこの時から計画の歯車が狂い始めたのだろう。


盟主の計画では、復活させた”世界の害悪”に邪魔となる存在を一掃してもらい、排除が済んだ時点で力を奪い取り、この平原の戦場に集まっている各国の騎士を程よく間引くと同時に、こちらの力を誇示して世界を纏めあげる算段だった。その為の準備は既に整っており、世界中で混乱が起こらぬように、各国の高い地位にいる有力者も既に協力者となっており、スムーズな掌握を可能としていた。


失敗は、許されなかった。


にもかかわらずーーー



「報告します!【昇華】に至ったエイダ・ファンネルの能力は、任意の対象をこの世界から消去できるものと推定!確認によると、対象に触れる必要があるようです!」


「報告します!エイダ・ファンネルが【昇華】を解除!現在地面に踞っており、動けぬ模様!組織が反転攻勢に出ました!」


「報告します!エイダ・ファンネルが包囲していた【救済の光】の構成員達の能力を消去したようです!その影響で、彼らは闘氣も魔力も消えたと声をあげていたということです!」



矢継ぎ早に近衛騎士が天幕に駆け込んできて報告してくる内容は、刻一刻と変化しており、中には先の報告と矛盾しているようなものもあった。その情報の真価を見極めるために今まで得られた情報を統合しつつ、最新の状況の報告を受け続けた私は、深いため息が出るのを必死で我慢していた。


既に計画は最終段階間近に迫っているというのに、近衛騎士からの最新の状況報告の内容を総合すれば、失敗の二文字が頭を過るからだ。私がここで諦めの表情を晒してしまえば、私を信じて付いてきてくれた者達に申し訳が立たないどころか、絶望的な未来を連想させてしまう。



(近衛騎士だけではない。有力貴族の当主も巻き込んで、私の判断を支持させたのだ。失敗となれば、そんな者達からの突き上げは必至。いや、王位継承権を争う王子から一転して、国家反逆罪の大罪人として処罰されるかもしれん・・・そんなことになれば破滅だ・・・)



王族として処刑まではないと考えているが、この国に私の居場所が無くなるのは確実だろう。最悪の場合を考えて国外逃亡の準備をすべきかと悩むが、もし組織の計画が破綻した場合は、国外でさえ身を落ち着ける場所はないだろう。ややもすると、魔獣ひしめく深い森の中で一生を怯えて生きていくはめになるかもしれない。


焦る私の元に、今後の方針を決定付ける報告が駆け込んできた。



「報告します!【救済の光】の全構成員、戦意喪失を確認!更に”世界の害悪”の力を吸収した宝具もエイダ・ファンネルによって無力化されたことを確認しました!組織の作戦は失敗!作戦は失敗です!!」



青い表情をしながらも、きちんと敬礼をしながら報告をあげてくる近衛騎士に、私に対する忠誠心の高さを感じさせた。それは周りにいる近衛騎士達も同様で、この状況に至ってもなお誰も逃げ出すことはおろか、狼狽えるものさえいなかった。そんな状況だからこそ、彼らの主人である私が取り乱すわけにはいかなかった。



「報告ご苦労。下がってよい」


「・・はっ!失礼します!」



私の指示に対して若干反応するのに間があったが、仕方のないことだと咎めることはなかった。私は如何にこの状況を覆し、何のダメージもなく王都に帰還する方法に思考を集中させた。そんな私に対して、背後に控えている近衛騎士団長が声を掛けてきた。



「殿下、早急に動かねばまずい状況です。このままだと我々は、”世界の害悪”を復活させた世界的大罪組織である【救済の光】の共犯者となってしまいます」


「分かっている。今考えている・・・」



私は冷静を装って、眉間に手を当てながら今まで得られた情報を整理していく。何か打開策があるはずだと、最善の行動を模索していく。



「・・・盟主のザベク殿は、少年に殺されたのか?」



私が誰ともなく問いかけると、近衛騎士の一人が一歩前に出て口を開いた。



「僭越ながらご発言いたします!報告では盟主の死亡は伝えられておりません。殺されていないと見るべきでしょう!」


「そうか・・・」



騎士の言葉に私は再度考え込むと、彼は恭しく一礼して近衛騎士が整列している列に戻った。盟主であるザベク殿がまだ生きているということは、余計な情報が漏れることを意味している。それは、計画が失敗した現状では我々にとても不利に働く可能性が高い。



(計画が破綻したことで、彼が絶望しておとなしく裁きを受け入れてくれればいいが、破滅的な考えに陥り、今回関わった各国の有力者達も道連れにしようとするかもしれん・・・)



そう思い至った私は、最優先事項は我々が不利となる情報源の抹消だと決めた。



「近衛騎士達よ、作戦を告げる!」


「「「はっ!!!」」」



私は座っていた椅子から立ち上がると、厳しい表情をしながら声高に叫んだ。私の言葉に、この天幕内に居る全ての騎士が恭しく跪いた。



「我々は、大罪組織である【救済の光】の壊滅に動く!組織内部に潜入し、隙を伺っていたが今こそが好機!!世界の平和のために組織の構成員達を皆殺しにし、盟主ザベク・アラバス以下、構成員達全員を確実に始末するのだ!!」


「「「はっ!!!」」」



私に言葉に、その意図を正確に察した近衛騎士達は、美しい敬礼と共に行動を開始した。彼らの動きを見つめている私に、近衛騎士団長が耳打ちしてくる。



「殿下の考え、しかと承りました。報告では、戦いとなった場に殿下の妹君であらせられるルイーゼ王女殿下の姿も確認されたとの事」


「そうだったな。確かあいつは継承権を放棄して、教会の聖女見習いとして王家と教会との橋渡しに尽力していた・・・それがどうした?」


「殿下の真のお考えを教会の聖女、並びに剣神と魔神、アーメイ伯爵家のご息女にお示しになった方がよろしいかと愚考いたします」



団長の意見に私は一考し、すぐさま答えを出した。



「・・・なるほど、直接私の口から宣言した方が信憑性が増すというものだな。これまでの私の行動はこの共和国、ひいてはこの世界の為にしたのであって、決して私利私欲のためでは無かったと」


「仰る通りでございます。また、盟主達が失敗した以上、早急に彼らが滞在中に使用した天幕を捜査し、こちらに不利となる書類のやり取りが残っていないか、組織の構成員がこの拠点に残っていないかも確認します」


「任せる。ただ、魔神の女性は頭が回るらしく、私の言葉を疑って家捜しに乗り込んでくる可能性もあるからな。最悪の場合、天幕を焼き払って隠滅しても構わん。構成員が残っていた場合も同様とする」


「畏まりました。部下には天幕を焼いて回るように指示をしておきます。構成員については殺害後、土に埋めて隠滅しておきましょう」


「よろしい。どうせ他国の為政者達も絡んでいるのだ。この場を切り抜ければ何とでも出来るだろう。では、すぐに準備して向かうぞ!」


「はっ!」



私の言葉に団長は恭しく敬礼をすると、すぐ側に待機している近衛騎士達に指示を送った。そうして私は王家所縁の黄金の鎧を装備し、少年達の元へ向かうのだった。






side エイミー・ハワード



「・・・ちょっと、ちょっと。大変なことになってきたんですけど!」



 エレインちゃん達から別れ、別行動をしていた私達は、戦いのゴタゴタに上手く紛れて共和国の本陣内を慎重に捜索していた。目的は、王子殿下の裏切りの決定的な証拠探しだった。


私達がこの場を乗り切ったところで、エイダ君に掛けられた国家反逆罪という罪が消えてなくなるわけではない。エレインちゃん達が幸せになるには、王子殿下の裏切り行為を告発し、エイダ君は無実だったというだけの確固たる証拠が必要なのだ。


その為、手薄になった本陣内を慎重に捜査し、遠目から王子殿下達のいる天幕を望遠鏡で覗いて監視していたのだが、殿下の言葉を読唇術で読み取った内容に驚愕してしまった。



「エイミーさん、何か分かりましたか?」



私の声に反応したようで、セグリットが心配そうに話しかけてきた。既に捜索すべき場所を絞り込んでおり、隙を見つけ次第動けるように待機していて、公国の2人も同様に、今は事の成り行きを見守っている。



「どうやら王子殿下は全ての責任を【救済の光】におっ被せて、自分達は世界の平和の為に組織に潜入して機会を伺っていただけとするようね」


「そんな話、誰も納得しないのではないでしょうか?」


私が伝えた言葉に疑問を浮かべたのだろう、公国のリディアさんが問いかけてきた。



「私もそう思ったんだけど、どうやら他の国のお偉いさんも今回の件には絡んでいるらしくて、この場でエイダ君とその両親を説き伏せることができれば、何とでも出来るだろうと考えているみたい」


「なっ!他国の為政者も絡んでいるのですか!?」



驚いたセグリットは、目を見開きながら声を荒げた。それは公国の2人も同様で、驚愕の表情を浮かべながらどうしたものかと思案しているようだった。



「そうみたいね。それに、状況が悪くなったことから、自分達に不利となりそうな証拠は処分するみたい」


「では、すぐに動いて証拠を確保しましょう」



焦るようなセグリットの言葉に、私は待ったをかける。



「待って。どうやら王子殿下自身も動くようで、それに合わせて近衛騎士も付いていくから、かなり本陣は手薄になるんですけど。焦って動くと向こうも手当たり次第に証拠隠滅に走るかもしれないから、もう少し隙を伺うわよ!」



私の指示に、セグリットは目を点にしたように凝視してきた。そんなに見つめられていると照れてしまうのだけれど、続く彼の言葉に私は頬を膨らませた。



「エイミーさん・・・成長しましたね」


「・・・何それ?私が今までは、この程度の状況判断も出来なかったように聞こえるんですけど?」


「あっ、いえっ、そのような意図はないのですが・・・その、あの時から頼もしくなったというか、輝いて見えるというか、あなたの良い所が見えるようになったというか・・・」



私のジト目に、次第に顔を赤らめて視線を逸らし、変なことを言い出すセグリットをニヤニヤして見ていると、公国の2人が口を開いた。



「良い雰囲気のところすみません。そろそろ王子殿下が動くようですよ?」


「我々公国としても、大公陛下から公国内部のキナ臭さについて話を聞いておりましたので、可能であれば公国の有力者が関与していた証拠を必ず確保したいと考えています。動くなら今ですよ?」



リディアさんとマルコさんに嗜められた私達は、お互いに顔を見合わせて苦笑いを浮かべると、真剣な表情に一変して私は口を開いた。



「よぉし!各国のお偉いさんがやらかした証拠確保に向かうんですけど!」
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