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第3章:離婚の提案と溺愛の証明
3-3. 迫り来る別の縁談――ランドルフ公爵家の力
しおりを挟む2. 迫り来る別の縁談――ランドルフ公爵家の力
翌日、私がまだ混乱を抱えたまま過ごしていると、早速“ランドルフ公爵家”から使者がやってきたという知らせが入った。どうやら父と使者が直接面会し、その場で父は「アマンダが近いうちにご挨拶に伺う」と返事をしたらしい。
(何という速さ……父も、本気で私をランドルフ公爵家に差し出すつもりなのね)
メイドのリジーが心配そうな顔で報告してくれたが、私はただ頭を抱えるばかりだった。ランドルフ公爵家に行けば、向こうの嫡男――アルバート・ランドルフとやらにお披露目されることになるだろう。だが、私の心は完全にエドワードとの結婚に傾きかけている。今さら「はい、よろしくお願いいたします」と頭を下げる気になど到底なれない。
その日、父は私の部屋には顔を出さなかった。どうせ顔を合わせても、また同じ言い争いになるだけだと分かっているからだろうか。私は部屋にこもりきりになっても仕方ないと思い、せめて気を紛らわせようと廊下に出る。
すると、そこにいたのは父の“新たな秘書”のように振る舞っている元メイド長。初めて私に仕えてくれた頃はとても優しい人だったが、数か月前に突然解雇され、それがいつの間にか父の近くで働くようになっていたらしい。彼女は私を見つけると、あざ笑うように声をかけてきた。
「あら、お嬢様。こんなところで何をウロウロなさって? 早く次の婚約者様に愛想を振りまきに行かないと、ローウェル家は本当に潰れてしまいますわよ?」
「……あなたに言われる筋合いはないわ」
「これは失礼。わたくしは公爵様のご命令を受けて、ランドルフ公爵家との話が円滑に進むように手配をしておりますの。お嬢様にはどうか、余計な反抗などなさらぬようお願いしたいものですね。ここで逆らえば、ローウェル家だけではなく、お嬢様自身も将来を失うことになりますから」
嫌味たっぷりな口調でそう言い残し、彼女は足早に通り過ぎて行く。その背中を睨みつけるしかできない自分が情けない。私は拳を握りしめながら、何とか冷静を保とうとする。
しかし、その言葉の通り、私は家に逆らい続ければ、ローウェル家が危機に陥るだけでなく、自分の将来すらも危うくなる。それが厳しい貴族社会の常識なのだ。今まではそこを何とか“エドワードとの結婚”で回避できると思っていたのに、今やそれすら奪われようとしている。
――どうしてこんなに苦しいのだろう。以前、まだエドワードと出会う前なら「家のための結婚」も仕方ないと、ある程度は覚悟していたはず。それがいつの間にか、「エドワードでなければ嫌だ」という思いに変わりつつある。彼のことを詳しく知っているわけではない。でも、彼としか築けない未来があるのではないかと感じるのだ。
その小さな光すら、父は自分の都合で踏みにじろうとしている。
(このままじゃ駄目だわ。私がエドワード様に連絡しないまま、ただ従うだけで終わるなんて――)
そう思った矢先、私はすぐエドワードに手紙を書こうと決意した。そもそも父は、クラレンス侯爵家に「離婚」をどう切り出すつもりなのか。まだ話していないはずだ。もし父が勝手に手続きを進める前に、私の口から何らかの事情を伝えられれば……エドワードなら、何か打開策を考えてくれるかもしれない。
私は急ぎ部屋に戻り、机に向かった。インク壺の蓋を開け、ペンを握って白紙に向かう。しかし、どう書けばいいのか分からず、手が震える。書きかけては消して、書きかけては消して……。結局、何とか文面をまとめて封をしようとしたとき、部屋の扉が乱暴に開かれた。
「……アマンダ。今すぐ支度をしろ。ランドルフ公爵家へ出発するぞ」
突入してきたのは父だった。苛立ちを隠そうともせず、私の机上の手紙に目をとめる。そして、その封をまだしていなかった手紙を無遠慮に引ったくる。
「これは……エドワードへの手紙か?」
「や、やめてください! 返してください!」
私は必死で取り戻そうとするが、父は手紙を読もうとし、私の手などお構いなしに引き離す。結局、もみ合いの末に父の手がペン立てに当たり、机の上のインクが書類や床にこぼれ落ちた。床に大きな黒い染みが広がっていく。私は呆然と父を見上げるしかない。
「こんな手紙を書いている暇があったら、早く身支度を整えろ。手紙は預かっておく。――勝手にエドワードに連絡など許さんぞ」
自分の着衣にもインクが飛んでいるのを気にも留めず、父は手紙を乱雑に折り畳んで懐に入れた。私が呆然としている間に、“元メイド長”を呼ぶと、私の背中をぐいっと押して「ほら、ドレスに着替えてくださいませ。馬車が待っていますよ」と急かす。
「今から行く、というのですか!? そんな、急すぎます!」
「向こうにも都合があるからな。公爵家がわざわざ迎えの馬車を差し向けてくれているのだ。お前はそれに乗って、向こうの嫡男とご対面――それでおしまいだ。おとなしくしろ」
父は一方的に言い放つと、私に“こんなの受け取りたくもない”と言わんばかりの視線を向けた。私が抵抗しても無駄だと思い知っているのか、彼の態度には確信がある。
こうして、私は半ば強制的に支度をさせられ、ランドルフ公爵家の馬車へと乗せられてしまった。
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