愛なき政略結婚のはずでしたが、冷酷侯爵が挙式翌日から溺愛してきます

鍛高譚

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第3章:離婚の提案と溺愛の証明

3-6. 溺愛の証明――「君を守る。何があっても」

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5. 溺愛の証明――「君を守る。何があっても」

 屋敷を後にすると、近くの通りにはエドワードの馬車が控えていた。乗り込むと、私は緊張の糸が切れたのか、どっと疲れが押し寄せる。エドワードは私の隣に座り、そっと手を握ってくれた。
 屋敷内でアルバートに握られた時とは違い、その手は驚くほどあたたかく、優しさに満ちている。

「よく耐えましたね。怖かったでしょう?」

 エドワードが静かに問う。私は頷きながらも、涙をこぼすのを必死でこらえた。何とか言葉を紡ぐ。

「私……父から、離婚しろと言われて……ランドルフ家に無理やり連れて行かれて……。どうしてこんなことになるのか分からなくて、怖くて……でも、もうどうしようもなくて……」

 言いながら、声が震えて止まらない。エドワードは少し目を伏せてから、ぎゅっと私の手を包み込み、そして抱き寄せるように腕を回してくれた。

「大丈夫ですよ、アマンダ嬢。あなたは何も悪くない。あなたが頑張って勉強して、私と一緒に領地のことを考えてくれようとしていたのも知っています。――すべてを奪われるなんて、私がさせません」

「で、でも、ローウェル家は……」

 その先を口にしようとすると、エドワードがかぶりを振る。

「ええ、借金の問題ですね。あなたの父上はローウェル家を救うために、ランドルフ家から多額の融資を期待したのでしょう。――でも安心してください。その程度の資金なら、私の方で肩代わりする準備はできています」

「え……?」

 思わず間抜けな声が出てしまう。エドワードの言葉は本気だろうか。父が“ランドルフ家しか助けてくれない”と言っていた負債を、エドワードが肩代わりできる?
 彼は私の驚きに微笑を返し、まるで当然だというように続ける。

「土地の開発や投資で得た利益が、近年かなりの額になっているんです。私としては、あなたを救えるのならば、惜しむつもりはありません。――もっとも、それをローウェル公爵が素直に受け入れるかは別ですが」

「そんな……」

 頭がついていかない。まさかここまでの“溺愛”とも呼べる行動を、エドワードが見せてくれるなんて。まるで夢のようだ。私は半信半疑ながらも、彼の真摯な眼差しに引き込まれそうになる。

「あなたは私にとって、大切な存在です。――私のものになってくれませんか? 家がどうとか、政治的な思惑がどうとか、そういう理屈を超えて、あなた自身を誰よりも大切にしたい。それが、今の私の願いです」

 きっぱりと言い切るエドワードの言葉に、私は言葉を失う。政略結婚として始まるはずだった関係なのに、気づけばそこには“愛”に近いものが育っているとしか思えない。彼がここまで言ってくれるということは、あるいは本当に私のことを……。
 胸が熱くなり、涙がにじむ。私は震える声で答えた。

「……こんな私でも、いいのですか? ローウェル家の状況は最悪ですし、私自身だって何もできないかもしれない。あなたに迷惑をかけてしまうかも――」

「それでも構いません。私があなたを守ります。何があっても、あなたを手放すつもりはない」

 強い眼差しに射貫かれ、私はこの人にすべてを預けたくなった。エドワードの腕の中には、不思議と安堵と幸福が広がっている。私が欲していたのは、これだったのかもしれない――そう痛感する。
 自然と顔が彼の胸に寄り、私は静かに目を閉じた。馬車が動き出す振動に合わせ、エドワードは私の髪をそっと撫でてくれる。

「アマンダ嬢……あなたが“離婚”を拒否する意志さえ示してくれれば、私はどんな手を使ってでもあなたを守る。――信じて、ついてきてくれますね?」

「……はい」

 その答えは、もう私の中で揺るぎないものだった。父がどう出ようと、ランドルフ家がどう絡んでこようと、私はこの人と生きていきたい。どんなに困難が待ち受けていても、私たちならきっと乗り越えられる――彼がそう信じさせてくれる。
 涙が零れ落ちる代わりに、私はエドワードの温もりを抱きしめながら、そっと微笑んだ。悲しみの涙ではなく、希望の光で満ちた笑みを。
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