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6-1(ラインハルト)
しおりを挟む--------少し前……
「……で? 首尾はどうなんだ?」
そう楽しそうに聞いてくるのは、同僚のライリーだ。
好奇心を隠しもせず、興味津々といった顔で聞いてくる。
ラインハルトを囲むようにして座った他の同僚も、一旦飲むのをやめて、ラインハルトの返答を待っている。
「……全くだ。全然、全く、進展しない……」
岬のもとを訪れるようになってからもうすぐ4カ月が経つが、男女の艶めいた雰囲気は一切ない。
遠い目をして告げたラインハルトに、その場にいた全員からため息が漏れた。
ラインハルトは今、町のパブに居る。
仕事を終え、寮の部屋へ戻ろうとしたところを、ライリーに攫われるようにしてここに連れて来られたのだ。
今日の森の巡回担当がラインハルトであったことを知っていた彼は、岬とどうなったか聞きたかったのだろう。
森に入ると何故か異世界に行ってしまうことを相談してから、ライリーはこうやって何くれとなく、相談にのってくれるようになっていた。
邂逅の森の伝承を教えてくれたのも彼だ。
そして、王都から来たラインハルトは知らなかったのだが、この地では、森で運命の相手と引き合わせられるということは、神の恩寵を賜ったとして、それはそれは名誉なこととされているらしいのだ。
実際、過去に森から連れて来られた異世界の人間は、非常に丁重にもてなされたのだという。
ただそれも、50年以上前の出来事で、こちらにやってきた異世界の人間も既に亡くなっており、ここ最近は森で姿を消す人間もいなかったために、詳しい話を知る人間が少なくなってきているとのことだったが。
その為、森での出来事を上官に報告した途端、ラインハルトは森の巡回担当から外されるどころか、むしろその回数を増やされてしまったのだった。
まあ実際、向こうに行っても、あちらで過ごした時間に関係なくこちらではほんの数分しか経っていないため、仕事に支障はないからというのもあるだろうが。
しかしそれ以上に、上官を含め、この砦の殆どの騎士がこの土地の出身者であるということもあって、神の御導きであるその運命の人間を、連れて帰ってこいという熱量が凄い。
そのため最近は、皆が一丸となってラインハルトの恋路を応援してくれている状況であった。
「つか、お前のその顔でよろめかない女って、どんなだよ?」
「……ミサキには、私がペットか何かに見えているらしい……」
「はあ? ペット~?」
「……子供の頃に飼っていた犬に、似ているそうだ……」
ゴンベエに似ていると言ったときの、岬のとてもいい笑顔が脳内に蘇る。
ラインハルトは、深い、深い、ため息を吐いた。
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