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「仕事は誰か後任に任せることも出来るだろう。しかし結婚し子どもを産めるのは、年が限られている。だからだな……」

「はぁ……。分かりました」

「おおそうか、分かってくれるか」


 満面の笑みを浮かべながら、父は私の肩に触れた。

 私も人生で生きてきて、今までで一番の笑みを返す。 

 そのまま素早くしゃがみ込むように姿勢を落とし、父に足払いをかけた。

 まさかここで攻撃を食らうと思っていなかった父は、盛大に尻もちをつく。

 何が起きたのか全く理解できていない父の鳩尾みぞおちを私はそのまま踏みつけた。


「ぐぁぁぁ。な、ななな、なにをするんだ、シアラ」


 いかに体格・体重差があるとはいえ、ここまでされた父はもちろん立ち上がることなどできない。


「お父様? 今はどちらが上だと思っているのですか?」

「どういう意味だ」

「片や騎士団長の職を解かれた人間と、現在王太子様の影の側近とまで言われるようになった私。貴族だから? 父親だから? だから何だというのです。今や立場上は私の方がお父様あなたよりも上なのですよ。いい加減、いろんなコトからすべて引退してくださってもいいんですけど」

「お、おまえは何を考えてるんだ。おれはおまえの父親だぞ」

「だーかーらー、まだわからないんですか? 親だなんて、一度も思ったことないですし。別に私はあなたが今すぐここで人生を引退して下さっても構わないんですよ?」


  ああ、もう、本当にバカバカしい。

 もう父の顔色を窺い、従順に生きるのは辞めよう。

 守るべきものもいないのならば、私だって好きに生きてもいいはず。

 そう今までそうしてきた父のように。

 鳩尾の上に置く足に体重をかけた。


「ぐぁぁぁぁぁ。や、やめろー」

「だいたいご自分の後輩であり、身分下の次男を婚約者にだなんて……。相手が断れないのを知っていて押し付けるなど、パワハラ以外の何物でもないですから。これに懲りたら金輪際、私の行動に口を出さないことですね」

「くっ」


 さらに体重をかけると、父は苦悶の表情を浮べた。

 私はそれ以上何も言おうとはしない父を見て、微笑む。

 もっと早くにこうしておけば、母が自分を責めながら死にゆくことはなかったのかもしれない。



 母を助けることが出来なかった。でもだからこそ、私にはまだやらなければいけないコトが残っている。


「さようならお父様、どうぞお元気で長生きして下さいね。まだあなたには、やってやりたいコトが私にはたくさんありますから~」


 にこやかな笑みと共に、私はそのまま全体重を足にかけた。
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