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シーラ視点 1
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そそくさと逃げるようにわたしたちは夜会の会場をあとにした。煌びやかな光と音楽が、会場からは漏れている。
どうしてこんなことになったのよ! どうしてわたしたちが逃げ帰らなきゃいけないの!
こんなの絶対におかしい。何にも悪いことなんてしていないのに。
本来だったら、わたしはあの光あふれる場にいられるはずだった。アレン様との結婚を誰からも祝福されて、恋愛結婚だなんてすごいって言って貰えるはずだったのに。
こんなはずじゃなかったのに、一体どうなってるのよ。それもこれも全部お姉さまのせいだわ。いつもなら大人しくわたしが言った通りにしてくれるのに今回はなんなのよ。
口答えだけじゃなくて、わたしとアレン様の気を引くために、嘘までつくだなんて。ホントに腹が立つ。
それにマルク様をだまして味方につけて、あんなに勝ち誇ったような顔しちゃって。お姉さまのくせに、生意気すぎる。
だいたい、他の貴族たちだってマルク様の顔色を伺うからお姉さまよりもわたしたちのが悪いだなんてコソコソ言い出すし。
何から何まで忌々しいったらないわ!
「シーラまだ夜は冷える。今日はとにかくうちの馬車で家まで送るから帰ろう」
そう言ってわたしの手を引くアレン様は、どこか元気がない。それもこれも全部お姉さまのせい。いつもどんな時だって自分をしっかり持っていられて、わたしを引っ張ってくれるアレン様。
そのアレン様に不快な思いをさせるだけだって、腹立たしいわ。
「はい……アレン様」
いつものように優しくエスコートされれば、悪い気分はしないだけど。
馬車は会場のやや端に追いやられていたものの、アレン様に気づいた御者が馬車を横づけしてくれる。ややイライラしたようにそのドアを開けても、アレン様はわたしにだけは優しい。
わたしはアレン様の手を借りて馬車に乗り込んだ。
うちの馬車と違ってこの馬車は装飾も豪華だし、椅子もふかふかだし、全然乗り心地が違うのよね。お姉さまに何回言ってもうちの馬車を新調してはくれないし。
いつでも金金金金って、うるさい。貴族なんて見栄を張ることがステータなのに、守銭奴すぎるのよ。領地だってあるのに、お金がないわけないじゃないの。
ああでもそうだわ。アレン様の領地も赤字だなんて言ってたわね。そんなこと本当にあるのかしら。
「アレン様、お姉さまの言っていたことは本当に嘘なのですよね」
「何を言い出すんだシーラ。君はおれのことが信じられないのか?」
「そんなことはありませんわ、アレン様。ただわたし、不安なんです」
そう不安。だってお姉さまの代わりに幸せになってあげるはずだったのに、それがダメになってしまうだなんてあり得ないでしょう。
アレン様はうちよりも格上の侯爵家。領地だって、うちの二倍くらいある。
お姉さまが言ってることが負け惜しみだってことぐらいわたしでも分かるけれど。でも他に女がいるとか、お金がないとか、さすがにそれは許せない。
「アレン様のお気持ちがわたし以外の方にいってしまうかと思うと、眠れなくなってしまいそうですわ」
そう言いながら、隣に座るアレン様の膝にそっと手を置いた。マルク様のことはあとでお父様たちに相談するとして、アレン様まで逃がしてしまっても困るし。
絶対に、アレン様は他の女のところになんて行かせないようにしないと。
お腹の中には子どもがいるし、結婚式は秋なのよ。破談になってしまったら困るもの。さすがにこれだけ公言した以上、逃げはしないと思うけど。
どんなことも念には念を入れてね。
「君以外に誰がいると言うんだい。あんなのは全部オリビアの出まかせさ」
「本当に信じてもいいのですね?」
瞳に涙を湛えながら、アレン様を見上げた。今までコレで落ちなかった男なんていないし。ほら、健気に見えるでしょう?
まったくお姉さまもアレン様に捨てられたからって、わたしたちを恨むとかお門違いだし。だいたいお姉さまが可愛げないのがいけないんじゃない。
こんな風に男心をくすぐるように、下手に出てやればいいのよ。簡単じゃない。
ほら、うっとりしたようなアレン様の顔。やっぱり大丈夫ね。わたしに夢中だもの。お姉さまが嘘つきだって、絶対に今日わたしたちのことを馬鹿にした貴族たち全員に教えてやるんだから。
わたしより幸せになるなんて絶対にさせないんだからね、お姉さま。いつまでもわたしの日陰にいさせてあげる。
そう。絶対にわたしが愛してやまなかったマルク様とも幸せになんてさせないんだから。絶対にもう一度破談にさせてやるわ。
ふふふ。
今のうちに勝ち誇ったような顔をしてればいいわ。あとで泣きながら土下座したって、絶対に許してあげないんだから。
ああでも、どうせ仕事と金勘定しか使えないんだから、アレン様のおうちで使用人として雇ってあげてもいいけどね。その時が楽しみだわ。
「ああ大丈夫だよおれの可愛いシーラ」
「うれしい。愛してますわ、アレン様」
「おれもだよ、シーラ。愛してる」
「ふふふ」
アレン様の肩に寄りかかり、わたしはこれからの算段を考えつつ瞳を閉じた。
どうしてこんなことになったのよ! どうしてわたしたちが逃げ帰らなきゃいけないの!
こんなの絶対におかしい。何にも悪いことなんてしていないのに。
本来だったら、わたしはあの光あふれる場にいられるはずだった。アレン様との結婚を誰からも祝福されて、恋愛結婚だなんてすごいって言って貰えるはずだったのに。
こんなはずじゃなかったのに、一体どうなってるのよ。それもこれも全部お姉さまのせいだわ。いつもなら大人しくわたしが言った通りにしてくれるのに今回はなんなのよ。
口答えだけじゃなくて、わたしとアレン様の気を引くために、嘘までつくだなんて。ホントに腹が立つ。
それにマルク様をだまして味方につけて、あんなに勝ち誇ったような顔しちゃって。お姉さまのくせに、生意気すぎる。
だいたい、他の貴族たちだってマルク様の顔色を伺うからお姉さまよりもわたしたちのが悪いだなんてコソコソ言い出すし。
何から何まで忌々しいったらないわ!
「シーラまだ夜は冷える。今日はとにかくうちの馬車で家まで送るから帰ろう」
そう言ってわたしの手を引くアレン様は、どこか元気がない。それもこれも全部お姉さまのせい。いつもどんな時だって自分をしっかり持っていられて、わたしを引っ張ってくれるアレン様。
そのアレン様に不快な思いをさせるだけだって、腹立たしいわ。
「はい……アレン様」
いつものように優しくエスコートされれば、悪い気分はしないだけど。
馬車は会場のやや端に追いやられていたものの、アレン様に気づいた御者が馬車を横づけしてくれる。ややイライラしたようにそのドアを開けても、アレン様はわたしにだけは優しい。
わたしはアレン様の手を借りて馬車に乗り込んだ。
うちの馬車と違ってこの馬車は装飾も豪華だし、椅子もふかふかだし、全然乗り心地が違うのよね。お姉さまに何回言ってもうちの馬車を新調してはくれないし。
いつでも金金金金って、うるさい。貴族なんて見栄を張ることがステータなのに、守銭奴すぎるのよ。領地だってあるのに、お金がないわけないじゃないの。
ああでもそうだわ。アレン様の領地も赤字だなんて言ってたわね。そんなこと本当にあるのかしら。
「アレン様、お姉さまの言っていたことは本当に嘘なのですよね」
「何を言い出すんだシーラ。君はおれのことが信じられないのか?」
「そんなことはありませんわ、アレン様。ただわたし、不安なんです」
そう不安。だってお姉さまの代わりに幸せになってあげるはずだったのに、それがダメになってしまうだなんてあり得ないでしょう。
アレン様はうちよりも格上の侯爵家。領地だって、うちの二倍くらいある。
お姉さまが言ってることが負け惜しみだってことぐらいわたしでも分かるけれど。でも他に女がいるとか、お金がないとか、さすがにそれは許せない。
「アレン様のお気持ちがわたし以外の方にいってしまうかと思うと、眠れなくなってしまいそうですわ」
そう言いながら、隣に座るアレン様の膝にそっと手を置いた。マルク様のことはあとでお父様たちに相談するとして、アレン様まで逃がしてしまっても困るし。
絶対に、アレン様は他の女のところになんて行かせないようにしないと。
お腹の中には子どもがいるし、結婚式は秋なのよ。破談になってしまったら困るもの。さすがにこれだけ公言した以上、逃げはしないと思うけど。
どんなことも念には念を入れてね。
「君以外に誰がいると言うんだい。あんなのは全部オリビアの出まかせさ」
「本当に信じてもいいのですね?」
瞳に涙を湛えながら、アレン様を見上げた。今までコレで落ちなかった男なんていないし。ほら、健気に見えるでしょう?
まったくお姉さまもアレン様に捨てられたからって、わたしたちを恨むとかお門違いだし。だいたいお姉さまが可愛げないのがいけないんじゃない。
こんな風に男心をくすぐるように、下手に出てやればいいのよ。簡単じゃない。
ほら、うっとりしたようなアレン様の顔。やっぱり大丈夫ね。わたしに夢中だもの。お姉さまが嘘つきだって、絶対に今日わたしたちのことを馬鹿にした貴族たち全員に教えてやるんだから。
わたしより幸せになるなんて絶対にさせないんだからね、お姉さま。いつまでもわたしの日陰にいさせてあげる。
そう。絶対にわたしが愛してやまなかったマルク様とも幸せになんてさせないんだから。絶対にもう一度破談にさせてやるわ。
ふふふ。
今のうちに勝ち誇ったような顔をしてればいいわ。あとで泣きながら土下座したって、絶対に許してあげないんだから。
ああでも、どうせ仕事と金勘定しか使えないんだから、アレン様のおうちで使用人として雇ってあげてもいいけどね。その時が楽しみだわ。
「ああ大丈夫だよおれの可愛いシーラ」
「うれしい。愛してますわ、アレン様」
「おれもだよ、シーラ。愛してる」
「ふふふ」
アレン様の肩に寄りかかり、わたしはこれからの算段を考えつつ瞳を閉じた。
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