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 ユノンが扉を開けると同時に反対側から勢いよく開けられてしまったため、体制を崩したユノンが前に倒れ落ちてゆく。


「ユノン!」

「わぁ」


 駆け寄ろうにも、座り込んだままだった私はただ手を伸ばすことだけで精いっぱいであり、その手は空を切った。

 一体、何がどうなってるの? でも今はまず、ユノンを助けないと!

 這いつくばるように馬車から出ようとした時、扉の向こう側に良く見た顔があった。どこまでもどこまでも見たくなどなかった顔。

 私は思わずあまりの怒りに、声が大きくなる。


「シーラ!」

「ああやだ。こわーい顔。それにそんなとこで這いつくばっているなんて、お姉さまにぴったりね」


 のんきに、それでいてどこまでも私を小馬鹿にするシーラはまだ父や家が没落予定だということは知らないみたいね。だたそう、シーラがいるということはもう一人セットでいるということ。


「こんなところまで何をしに来たの、あなたたちは」

「あらやだぁ、せっかくアレン様と二人でお迎えに来てあげたんですよ、お姉さま」

「頼んだ覚えもなければ、あなたたちに付いていく意味も分からないんだけど」


 そんなことよりもさっさとシーラをどかせて、私はユノンを助けに行かないと。本当にどこまでも人の邪魔をすることしか頭にない人たちよね。

 どうせアレンの領地経営が上手くいかなくて、私を無理やりにでも連れて帰ろうとかそんなとこでしょう。


「そこをどいてシーラ」

「えー? どうして、わたしがお姉さまなんかの言うことを聞かないといけないのですか~」


 なんかのって。ああホント、いちいち頭にくる。でもそうね。こんなバカを真面目に相手にする方が、こっちまで馬鹿になってしまうわ。

 私を怒らせたいのだろうけど、その手には乗らないわ。馬鹿に何を言われても、響かないのよ。

 
「邪魔だから、以外にどんな答えがあるのかしら?」

「!」


 小首を傾げながら鼻で笑い、いつもシーラがするように言葉を返すと、そんな風に切り返されると思っていなかったシーラが顔を真っ赤にさせた。

 この子、本当に馬鹿すぎるのよね。妊婦さんなんだし、こんな風に外出したり、怒りまくっていて大丈夫なのかしらって、普通に思うわ。

 私事ではないけれど、親を選べないのもまた、ある意味不幸なことなのかな。

 ん-。ただ私の周りを見てると、こんなにも大丈夫? と思える人たちはココしかいないのだけれどね。


「お姉さまのくせに、何なのよ」

「姉、だからじゃないかしら? ああもっとも、別にシーラの姉であり続ける意味もないし、別に縁を切ってくれて結構よ?」

「馬鹿にして! そんなこと言っていいのかしら」

「どうでもいいから、そこをどいて」


 私は先ほどまでの笑みも消し、一気に声のトーンも下げる。馬鹿の相手など、どうでもいいのよ。

 私にはユノンの安否が一番大事なのだから。


「ホント生意気ね。マルク様の関心を得たからって。そんなドレスや宝石まで。本当だったら、わたしがソコにいるはずだったのに」

「はっ。あれだけマルク様にアピールしてても、全く相手にされなかったのだから、私が関心を引かなくてもシーラは相手されなかったのではないの?」

「なんですって?」

「だって本当のコトでしょう? だからこそ、私の婚約者だったアレン様に手を出したんだもの。ずーっとマルク様狙いだったものね、シーラは」


 シーラは唇を噛みしめ、肩を震わす。でも本当のコトなのだから言われても当然じゃないの。

 それに私はとっとと、縁を切りたいのよ。あんたたちとなんか。


「昔からなーんでも私のモノばかり欲しがっていたけど、まさかお目当ての人を落とせなかった腹いせに婚約者にまで手を出されるとは思ってもみなかったわ」

「わ、わたしはそんな意味でアレン様のことを好きになったんじゃないわ」 

「そう? でもいいのよ、シーラ。前にも言ったけど、全くいらないからあげるわ」


 昔からいつも、あげないと言えば、どうしても欲しいと泣いていたシーラ。その度に母が出てきては姉である私は怒られ続けてきた。

 でもね、知ってるのよ。私がいならいからってそのままあげると、いつも怒ってソレを捨ててたことも。

 結局シーラにとって興味がありものは、私が好きなものだけ。私が手放したくないものだけを、何でも欲しがるの。

 だから私が捨てたモノには、少しの興味も示さない。

 でもそれが自分の婚約者であり、お腹の子の父であるとしたら。捨てたくても捨てれないわよね。

 ふふふ。さて、この関係はどうなるのかしらね。ここまで私がハッキリ言ったのだから。

 全てに嫌気がさしてきても、自分が選んだ道なのだもの。その責任は自分で負ってもらわないとね。
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