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52,夜の工場
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金曜の夜。一日の仕事を終え社屋を出ると、空には星がきらめいていた。
「ふー。今日も働いたなー」
類は夜風を吸って腰を伸ばす。
掃除の仕事と会議の準備と、それから空いた時間に工場の手伝い。忙しくしていると一日過ぎるのが早い。
「類さん、車回してきます」
「ううん、駐車場まで一緒に行く」
帝と一緒に会社の敷地を歩いていると、ちょうど工場から工場長が出てくるのが見えた。
「あっ、工場長お疲れ様です!」
工場の稼働時間は過ぎているので、彼も残業していたのかもしれない。
「ああ、お疲れ」
白クマ型獣人の工場長は類を見て、わずかに顎を引いた。
普段はほとんど目も合わせてくれないのにめずらしい。
「ちょうどアンタに用があったんだ」
「えっ、ぼくに用?」
(ぼく、何か失敗した!?)
竹田さんの好意で荷物運びの手伝いをさせてもらっているけれど、それで何かやらかしたんだろうか。
相変わらず表情が読めない工場長の顔を仰ぎ見ながら、類は内心あせった。
「新商品の件、時間あるか?」
(えっ、そっち!?)
その話なら聞かないわけにはいかない。
「時間大丈夫です! あっ、帝さんごめんなさい、先に帰っててくれますか?」
「ええ、何かありましたらいつでもお電話ください」
帝も状況は理解したんだろう。類に頷き返して駐車場の方へ去っていった。
「それで新商品の件って……」
「中で話そう」
工場長に言われて類は工場の中へと足を進める。
従業員たちは帰ってしまい、日中常に動いている工場の機械たちも静かに眠りについていた。
(夜の工場ってちょっと新鮮かも……)
秘密の場所に迷い込んだような、そんな不思議な気分になる。
と、静かな工場の中、低い音を立てて動いているマシンを見つけた。
原材料を混ぜるミキサーのうちの一台だ。
(なんであれだけ動いてるの?)
アクリル板越しに見た類は首をかしげた。
それで工場長に尋ねようとすると、彼もそのミキサーに視線を向けている。
「あの、工場長……」
「バニラアイスのベースを混ぜているところだ」
「え……?」
「それを漉してからラムレーズンを混ぜる。一緒に混ぜるのはムリだった」
「ええっ……?」
類はアクリル板越しのミキサーと、隣にいる工場長とを見比べる。
「も、も、もしかして新商品、試作を始めてくれてたんですか!?」
「不確定要素が多くて、いきなりラインは動かせない。それで少しずつ試行錯誤を」
「……――!!」
類は思わず、工場長の大きな体に抱きつきたくなってしまった。
嬉しい。工場長が類たちの作ったレシピに……それに込めた思いに応えようとしてくれていたなんて。
「あ、あ、あ……ありがとうございます!」
ハグしようと広げた腕をどうしようかと思いながら、震える声でお礼を言った。
工場長は類のその不自然な動作をまるっと無視し、腕組みしたまま小さくうなずく。
「ラインを動かすのは来週だ」
「は、はい! よろしくお願いします!」
類はもう一度深々と頭を下げた。
(ああっ。虎牙さんやみんなに知らせないと! それに冬夜や竹田さんも!)
虎牙部長の連絡先は知っているが、竹田さんのは知らない。
週明けに話すのが待ち遠しい。
興奮に震える手でスマホからメッセージを送ったあと、工場の上空に浮かぶ星を見上げた。
「よかったなあ」
思わず声に出して言う。
するとそれに答える声があった。
「よかったですね」
「え……?」
帝だった。
彼は表に車を回していたようだ。車の前から類の方へと歩み酔ってくる。
「試作のスケジュールが決まったんでしょう?」
「えっ、なんで知ってるんですか?」
「知っていたわけではありません。ただなんとなく、状況から予想がつきました」
帝も嬉しそうな顔をしてくれている。
「ああもうっ……ほんとよかった!」
類は工場長にハグし損ねた代わりに、帝の腰に抱きついたのだった。
「ふー。今日も働いたなー」
類は夜風を吸って腰を伸ばす。
掃除の仕事と会議の準備と、それから空いた時間に工場の手伝い。忙しくしていると一日過ぎるのが早い。
「類さん、車回してきます」
「ううん、駐車場まで一緒に行く」
帝と一緒に会社の敷地を歩いていると、ちょうど工場から工場長が出てくるのが見えた。
「あっ、工場長お疲れ様です!」
工場の稼働時間は過ぎているので、彼も残業していたのかもしれない。
「ああ、お疲れ」
白クマ型獣人の工場長は類を見て、わずかに顎を引いた。
普段はほとんど目も合わせてくれないのにめずらしい。
「ちょうどアンタに用があったんだ」
「えっ、ぼくに用?」
(ぼく、何か失敗した!?)
竹田さんの好意で荷物運びの手伝いをさせてもらっているけれど、それで何かやらかしたんだろうか。
相変わらず表情が読めない工場長の顔を仰ぎ見ながら、類は内心あせった。
「新商品の件、時間あるか?」
(えっ、そっち!?)
その話なら聞かないわけにはいかない。
「時間大丈夫です! あっ、帝さんごめんなさい、先に帰っててくれますか?」
「ええ、何かありましたらいつでもお電話ください」
帝も状況は理解したんだろう。類に頷き返して駐車場の方へ去っていった。
「それで新商品の件って……」
「中で話そう」
工場長に言われて類は工場の中へと足を進める。
従業員たちは帰ってしまい、日中常に動いている工場の機械たちも静かに眠りについていた。
(夜の工場ってちょっと新鮮かも……)
秘密の場所に迷い込んだような、そんな不思議な気分になる。
と、静かな工場の中、低い音を立てて動いているマシンを見つけた。
原材料を混ぜるミキサーのうちの一台だ。
(なんであれだけ動いてるの?)
アクリル板越しに見た類は首をかしげた。
それで工場長に尋ねようとすると、彼もそのミキサーに視線を向けている。
「あの、工場長……」
「バニラアイスのベースを混ぜているところだ」
「え……?」
「それを漉してからラムレーズンを混ぜる。一緒に混ぜるのはムリだった」
「ええっ……?」
類はアクリル板越しのミキサーと、隣にいる工場長とを見比べる。
「も、も、もしかして新商品、試作を始めてくれてたんですか!?」
「不確定要素が多くて、いきなりラインは動かせない。それで少しずつ試行錯誤を」
「……――!!」
類は思わず、工場長の大きな体に抱きつきたくなってしまった。
嬉しい。工場長が類たちの作ったレシピに……それに込めた思いに応えようとしてくれていたなんて。
「あ、あ、あ……ありがとうございます!」
ハグしようと広げた腕をどうしようかと思いながら、震える声でお礼を言った。
工場長は類のその不自然な動作をまるっと無視し、腕組みしたまま小さくうなずく。
「ラインを動かすのは来週だ」
「は、はい! よろしくお願いします!」
類はもう一度深々と頭を下げた。
(ああっ。虎牙さんやみんなに知らせないと! それに冬夜や竹田さんも!)
虎牙部長の連絡先は知っているが、竹田さんのは知らない。
週明けに話すのが待ち遠しい。
興奮に震える手でスマホからメッセージを送ったあと、工場の上空に浮かぶ星を見上げた。
「よかったなあ」
思わず声に出して言う。
するとそれに答える声があった。
「よかったですね」
「え……?」
帝だった。
彼は表に車を回していたようだ。車の前から類の方へと歩み酔ってくる。
「試作のスケジュールが決まったんでしょう?」
「えっ、なんで知ってるんですか?」
「知っていたわけではありません。ただなんとなく、状況から予想がつきました」
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「ああもうっ……ほんとよかった!」
類は工場長にハグし損ねた代わりに、帝の腰に抱きついたのだった。
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